第18話 純喫茶アラン その7
あ、というような顔を市松くんは一瞬する。わたしはかわいそうになって質問の内容を切り替える。
「何か買いたいものとかあるの?」
市松くんは、えーっと、という感じの表情をしてから、
「父親が個人民事再生っていうのをしてさ」
「個人民事再生?」
「・・・俺の家って父親が脱サラして喫茶店やってたんだよね」
「へえ、喫茶店」
自分の家が喫茶店だったなんて羨ましい。
「ただ、まあ喫茶店って正直経営が厳しいじゃない。MOCとかフタバとかに完全にやられちゃって」
市松くんは誰でも知ってるハンバーガー屋と大資本のカフェの名前を挙げる。
「それで結局俺が中2の時に店はやめたんだよね。で、父親は今運送会社の契約社員。母親はメーカーの事務の派遣社員」
「そう、なんだ」
軽々しく羨ましいなって思ったことをちょっと悔やむ。
「喫茶店が入ってたのって駅ビルの1Fだったんだけど」
「あ、もしかして”エレカ”って店じゃない?」
「あ、知ってた?」
「うん。一度だけお師匠・・・じゃなかった、父親・・・・」
「ジョーダイさんがお父さんのことお師匠って呼んでるのも知ってるから」
「・・・じゃあ、お師匠と一緒に入ったことある。とするとあれは中1の時だったのかな。チョコレートパフェがおいしい店だって」
「あ、パフェ食べてくれた?」
「うん。お師匠が中年男1人だとパフェ頼めないからお前もついて来てくれって言われて。2人で食べたよ」
「そっか」
実はお兄ちゃんも一緒だった。けれども、元気だったお兄ちゃんを思い出すのが切なくて、市松くんにはその部分は敢えて言わなかった。市松くんは話を続ける。
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