第12話 純喫茶アラン その1
さて。時間が余った。こんな日は・・・・
「もよちゃん、一緒に帰ろ?」
ちづちゃんが声を掛けてくれた。わたしは心苦しくも断りの返事をする。
「ごめんね。今日はちょっと・・・・」
「あ、用事あるんだ?ううん、わたしこそごめんね」
ちづちゃんに却って気を遣わせてしまって申し訳ない。
けれども、わたしは時間が余ったら必ずやろうと思っていたことを、今日は躊躇なくやるのだ!
それは半年ほど前、高校に入った時ぐらいから目を付けていた店だ。
”純喫茶アラン”
以前、第6話でちらりと触れたのだけれども、わたしは喫茶店については一家言ある。たかが高校1年生の小娘が知ったことを抜かすな、などと思わないでいただきたい。わたしの喫茶店遍歴は筋金入りなのだ。小学生の頃からEKを聴いていたのと同じように。
もちろん、子供が喫茶店に一人で出入りできる訳はない。お師匠が喫茶店フリークだったのだ。
お寺の住職という職業柄、休みはあってないようなお師匠にとって、ぽっ、とできた隙間の時間を利用してできるひそかな楽しみが喫茶店巡りだったのだ。そして、幼稚園の頃からお師匠はわたしを様々な喫茶店に連れて行ってくれた。
いわゆるカフェではない。”喫茶店”なのだ。
最近は猫も杓子もカフェ通いをし、喫茶店というものがどんどん姿を消している。わたしの暮らす街でも捜すのは困難だ。困難だからこそ、”うわ、こんなところに”、という店を発見した時は秘蔵の場所にいつ行こうかとドキドキしながらしばらく過ごす。
そして、とうとうその店を訪れた時に、コーヒーの味やメニューの数などで落胆することはほとんどない。ただ、店の名前に騙されて喫茶店だと思って入ったらカフェだった・・・という時には当分の間やる気が起きなくなるぐらいにがっかりしてしまう。
喫茶店とカフェの違いとは何なのか。諸説あるけれどもわたしが一番しっくり来るのは、タバコが吸えるか吸えないか、だね。喫茶店はタバコが吸える。カフェはタバコが吸えない。とても単純な区分だけれども。
そして、わたしは、ようやくこの純喫茶アランの前に立ったのだ。
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