第34話


 **********


「ふわぁぁぁ」

 ——思い返せば、こっちの世界でちゃんとしたベッドで寝るのは何日ぶりだろうか。

 そんなことを考えたが、よく考えると寝てないのは牢屋に入れられ、そしてダルに連れられ脱獄した夜だけだった。それからまだ2日しか経っていないことを見るとやはり俺は疲れていたのだろう。

 それはともかく、もうとっくに日は登っている時間だ。

 俺は部屋を出て、リオさんたちのところへと戻った。


「やぁリオさん、えーっと、久しぶり?」

「コーヤさん! 良かったぁ、疑いが晴れて!」

「そうですよ、みんな心配してました。ゴミウィンを除いて。まぁあの人はバカだから仕方ないでしょうが」

 リオさんもベートもウィンゴミも相変わらずのようだ。

「そういえばユニがいないですけど」

「彼女ならギルド本部にいますよ。なんでも帰りの馬車とかを手配するからとか」

「そうなんですか」

 その様子だと戻ってくるのはもう少しかかるのだろう。

「それにじゃあ……とりあえず何か食べませんか?」

 そう俺が聞くと、リオさんが「お金は全部ウィンさんに渡してます」とのことらしい。正直嫌な予感しかしない。

「そうだ、そのウィンはどこなんですか?」

「もうすぐ来ると思いま——ああ、来ました」

 そうして現れたウィンは何やら青ざめた顔をしていた。

「お、おい、何でそんなに青ざめてんだよ……。貧乏すぎて拾い食いでもしたか?」

「…………した」

「え? 何だって?」

 ウィンはボソボソとした声で答えた。

「お金……全部落とした」


 リオさんが唖然とする中、俺とベートはこんな会話をしていた。

「ベート、持ち主が居なくなったけどどうする?」

「え? 持ち主なんて居ましたっけ」

「ああ、そうだった。ベートは持ち主がそもそも居なかったか。じゃあこれからどうする?」

「そうですね、コーヤさんのところへ行っても良いですか」

「もちろん、大丈夫」

 ベートも可哀想だ。まさか持ち主が居なかったなんて。

「おい、何で俺が居なかったことになってるんだ」

「ん?ベート、 今何か聞こえなかったか」

「どうしたんですか。まさか牢屋暮らしのストレスで幻聴が聞こえるようになりましたか」

「おい、だから何で俺を無視して——」

「さて、腹減ったな。ああ、しまった、お金がない」

「本当ですね。これじゃあ餓死しそうです」

「それは大変です! 死ぬことだけは!」

「おい……お前までか……」

 とうとうリオさんもこの話いじめに加わってきた。

「いやどうしましょう。またクエスト受けますか」

「そうですね、そうしましょう」

「それが良いと思います」

「おい、俺の話を聞けよ!」

 そろそろ無視を止めてやるか。

「うわぁ、ゴミクズが喋ったぁ(棒)」

「どこまで無視すりゃ気が済むんだ」

「あ゛? あなたそんなこと言える立場だと思ってるんですかか?」

「やめろ! だからその手を剣にして首筋に突き立てるな!」

 相変わらずゴミクズゴミクズに対して容赦のないベートである。


「さて、どこで落とした」

「……さっき、ベンチに座った時に置いたままだった……」

「「「はぁ……………………」」」

 3人で長いため息である。

「すいません、私がウィンさんに渡したから……。私が責任を持ってお金をちゃんと持っていれば……」

「いやいやいや、リオさんのせいじゃないですよ。全部ゴミクズゴミクズが悪いんです」

「だからその『ゴミクズゴミクズ』というルビを止めてくれないか」

「ほう、反省していないみたいだな」

「やめろ! だから剣を首筋に立てるな!」

「わかったよ、剣はやめる」

「ほっ、それは良かった」

 そう、やめる。

「ベート、やれ」

「はい」

 ベートは以前にもやった拷問道具へと変身し、ウィンの上へと覆い被さった。

「ぐぁぁぁぁぁ!」

「よし、いいぞベート。どうせ死んでもベートの力で蘇るから死ぬまでやっとけ。ってか死んでもやっとけ」

「足りないですね。死んだら即蘇らせて拷問のループです」

 おお、ベートはことごとく俺の考えを上回ってくれる。

「でもすぐ死なれても困るので痛みだけ残して回復しておきましょうか」

「さすがベート!」

「やめろぉぉぉ……」

 この拷問はこの後夜まで続いたのだが、結局ベートは蘇生魔法を何十回も使う羽目になってしまったのだった。

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