第二部*日常と非日常の狭間で
第6章*束の間の平穏*It dosen't continue so long.
第32話
「『ろま」って……誰?」
睦月は、いや音野も、二人とも同じことを言った。
「は? 露麻だよ。有来露麻。ついこないだまで一緒に話したりしてたじゃねえか」
「音野、覚えてる?」
「いやちょっと……分からないかな?」
「嘘だろ……」
ロマの存在が、世界から消えているとでもいうのか。
よく考えればロマは向こうの世界でもダルを引き渡したときにはいなくなっていた。じゃあ一体どこへ——
「ちくしょう、分かんねえよもう」
確かにロマはこっちの世界からは跡形もなく消えているようだった。
いや、消えたのではない。最初からいなかったのだ。
ロマが言っていたことを踏まえて考えると自分の中で説明がついた。
おかげでノートが線だらけになってしまった。ただ線を引いていただけだから、周りから変に思われていることは必至だろう。
つまり、俺の方が『ロマ』がいた世界から来たというわけだ。
この世界はロマがいないまま今まで進んできた世界らしい。
しかし、そうなると納得出来ないのは、なぜこんな世界に流れついてしまったのか、だ。
今までは毎日が繋がっていて——実際は全部別々の世界だったわけだが——別の世界に来ている感覚は無かった。
だがこの世界はロマが最初からいなかった世界であり、前の世界とは繋がっているようには思えない。
もちろん、ロマは自称カミサマ的な存在らしいから記憶を消すことも出来るかもしれないが、それなら俺の記憶も消えているはずだ。ロマによる記憶消去の線は薄いだろう。
そもそもロマはなぜかは知らないがこっちの世界での俺の『監視役』なのだ。自分から職務を放棄するはずはない。何かあったのだろうか。
もう一度向こうの世界へ戻ってもロマには会えないだろう。おそらく、何かとんでもないことが起こらない限りは。
「でもよ……勝手にいなくなんなよ」
思えばこの1週間、ずっとロマと話していた気がする。
勝手に家から服を持ってこられたり。
勝手な妄想をされたり。
睦月と一緒に騒ぐから胃が痛くなったり。
無理やり脱獄させられたり。
『捕縛魔法』とか言ってただのロープだったり。
……ろくな思い出がねえな。
それはともかく、ロマは唯一向こうの世界の話が出来るやつで、誰かに話したい欲求を満たすことが出来た。その点においてはロマはいい奴だった。
せめて書き置きくらいは残していなくなれよな。
——とか思ったけどよく考えたら書き置き残されてても困る気がする。
うん、そうだ。絶対困る。あいつのことなら何かある。
そんなことを考えていた時。
「あのー」
「ん?」
誰かが声をかけてきた。なぜだ、と思ったが、ただただ線を引いては止まり引いては止まりを繰り返していた俺を見て「頭がおかしいんじゃないか」と思って声をかけてきたのだろう。
そんなことを考えながら声のした方へ振り向くと、そこには見慣れない女子が立っていた——と言っても
しかし、何よりも目を引いたのは誰もが振り向くほどの彼女の可愛さだった。
腰まで届く美しい髪、非常に整った顔。体格は比較的小柄だが、その一方制服の上からでも分かるほど発育の良い胸。もしかするとユニ以上かもしれない。
ちなみに、大きな声では言えないがストライクだ。なぜなのか自分でも分からない。
一体こんな子が俺に何の用なのだろうか。
「えっと……何か?」
そして、その疑問は一瞬で解決した。
「
直感で分かった。絶対に何かある。
俺は学校でそれほど目立ったことをした覚えは無い。何か無い限り睦月と音野以外で俺に話しかける奴がいる筈がない。
俺は警戒しておくことにした。
「そうだけど……君、誰だ?」
「私ですか?」
「ああ、生憎と名前も知らない人間と話はあまりしたくない。名前を教えてくれ」
「何でそんなに気になるんですか?」
「なっ! 何でって……」
こいつはなんなんだ。異様に可愛いからあまり集中できてないけどなんだこいつ。
「冗談、冗談。私は
こいつが睦月の言っていた転入生か。
「はいはいよろしく、野上」
「違う、野上じゃなくて野神」
「なんで細かい字の違いがわかるんだよ……。で、何の用事だったんだ?」
「そうそう忘れてた。少し君と話がしたくて」
「へぇ、じゃあその前に聞かせてくれ。なんで見ず知らずの筈の俺の名前を知っていた」
「ある人から聞いたの」
「そいつは誰だ」
「まぁそう焦らないで。私の話を少し聞いてくれたら多分それが誰か分かるから」
そういうのなら仕方がない。黙って聞くしかないだろう。
「分かった。じゃあさっさと話とやらを済ませてくれ」
「了解♪」
そういって野神が指を鳴らすと——
世界が、暗転した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます