第30話

 夕方。

 俺はダルから言われたことがずっと頭に残っていた。

「正義ねぇ……」

 あいつは最後には言っていることが支離滅裂になってきてはいたが、その想いの強さは感じた。

 でも、あいつらのやっていることが正しいことだとは絶対に思わない。


 その時ロマが戻ってきた。

「やあ、気分はどうだい?」

「ん、良くは……ない」

「そっか。寝不足だからじゃない?」

「誰のせいだ」

「まあなんにせよ、深く考える必要は無いと思うけどね」

「そうか? しかし、ダルたちを早く捕まえないと俺はこのまま逃げるだけの生活になるからそれだけは防がないと」

「ふーん、ま、そうだよね」

 まずは今夜、また現れるであろうダルをつかまえて濡れ衣を晴らさなければ。


「僕は彼らのほうが正しいと思うけどね」


 ロマの声はかき消された。

 ドタドタという音が響き、鎧を纏った男たちが現れたからだ。

「見つけたぞ、コーヤ・セタフ! 貴様を連行する!」

「んなっ⁉︎ 違っ、俺は——」

「言い訳は無用だ。来てもらうぞ」

 そう言ったのはクレッシェさんだった。

 また助けてくれるのか、と思いきや……目がマジだ。これは助けてくれない。

 ダルたちを捕まえられず逃がしてしまったことで業を煮やしているのだろうか、きっとそうに違いない。


「行くよ、コーヤ君」

 クレッシェさんの様子に面食らっていると、ロマに耳元で囁かれた。

 すると、気付いた時にはクレッシェさんたちから離れていた。

「このまま逃げ続けないとまた捕まるよ!」

「それは分かったから離せよ!」

「え、ああごめんごめん」

「ったく……。てかもうこんなに暗いのか」

 外は真っ暗だった。何かを壊しても見えないぐらいに。


 ついにその時は来た。

 王都の中心にほど近い教会、そこで俺たちはダルを待ち構えていた。

 そして今、ダルが現れた。

「よくここがわかったね」

 ダルがまず発したのは、そんなことだった。

「わかるさ、だって10年前の事件と同じ順番で破壊していってるからな」

「あはは、それもそうか。で、何故邪魔をするのかな」

「そんなの簡単だ。俺の濡れ衣を晴らすため、それ以外に理由なんてない」

「ほう、正義の無い人間が正義の為に動いている人間に刃向かうのか」

「その『正義』だけどよ……俺に言わせりゃそんなの知るかって話だ」

「それが答え?」

 ロマが聞いてきた。

「ああ、正義がどうこうとか関係なく、俺は俺の濡れ衣を晴らすために、ダル、お前を倒す」

 たとえそれが本当に良くないことでも、まずは自分が落ち着けなきゃ意味が無い。それが俺の答えだった。

「はぁ……後悔しても知らないよ」

 ダルはそう言うと刀を構え、俺に向かってきた。

 俺はその刀を防ぎ、脇腹に蹴りを入れる。

「ぐはぁっ!」

 そうしてダルがふらっとしたところにさらに攻撃を加える。躊躇はしない。

「うわぁ、コーヤ君が悪い人みたい」

 そんなロマの声が聞こえたが気にしない。

 俺はストレスやら鬱憤やら色々溜まってるんだ。憂さ晴らしくらいさせろ。


「くっ、なかなかやるじゃないか。でも戦いの経験ならこちらが上だ!」

「がぁっ!」

 今度はダルに殴られた。思い返せば異世界に来てまともにダメージを受けたのは初めてじゃないだろうか。

 こうなると、あまり使いたくはないがを使うしかない。


「どうした? 早く攻撃してこないならこっちから行くぞ?」

 ダルのそんな声が聞こえてくる。

 だが、俺はその声を無視して、あのスキル——を発動させる準備をしていた。《変異体》を転移させるために使っていたやつだ。

 狙うはダルが持つ刀のみ。刀が無くなって驚くであろうダルを倒す。

「行くぞ、はぁぁぁぁ!」

 ダルが刀を構えて走ってくる。


「今だ!」


 ダルの刀は跡形もなく消え去った。

「な、何が起こったんだ⁉︎」

 驚くダル。

 そこに俺が脇腹へ蹴りを加えると、ダルは悶絶し、動けなくなった。

 そこをロマがすかさず捕縛魔法ただのロープで縛る。

「ふぅ……」

 こうして俺は、初めての対人戦を終えた。

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