第29話
その後。
無事店主の捕縛に成功した俺たちは、店主から話を聞き出そうとしていた。
「さて……さっきの話の続きだが。お前が失敗作を渡したという『ダル』とやら、いったいどこのどいつだ?」
「……教えるかよ」
「言わないとどうなるかな」
「俺はどうなってもいい。絶対に仲間を売らないと、あいつと約束したんだ!」
「あいつってのは……その『ダル』のことか?」
「違えよ。もう死んだやつだ」
「そいつのことも聞かせ……」
「このことはもう聞かないでいいと思う」
ロマが神妙な顔つきで言ってきた。
こいつは何か知っているのかもしれない。だが聞いてもおしえてくれないだろう。
「しかしあんた——ミヌエド、だったか? あんたが言ってた『ダル』ってのが誰かわからないと困るんだが……」
「『ダル』は俺だよ」
鍛冶屋の裏から1人の青年が出てきた。歳は20代ほど。
「お前が……『ダル』?」
「やめろ! なんで出てきたんだ!」
「もういい、ミヌエド。さて、コーヤ・セタフ君。僕が、僕こそが、ダル・セノン本人。多くの教会を破壊した張本人だ」
「俺を隠れ蓑にした理由は何だ?」
「簡単だよ。そうしないと自分が捕まるじゃないか」
当たり前だが、なんとなく聞いてしまった。
「言っちゃなんだが俺以外でも良かったんじゃないのか?」
「君しかこの片刃の剣と同じものを持っている人間はいないんだろう? だったら君に濡れ衣を着せたらすぐに捜査が終わるじゃないか」
単純な理由だった。
「結局お前の目的は何だ」
「簡単さ」
ダルは深呼吸をしてからこう言った。
「ただ、教会を破壊することだよ」
「もしかするとだが、10年前の事件の模倣か?」
「ほう、そこまで分かってるのか。言っておくけれど模倣じゃないよ。僕達は後を継いだだけだ」
「誰の後をだよ」
「さっきミヌエドが言ってただろう? もう死んでしまった人で、そして10年前の事件の犯人だ」
「なっ⁉︎」
10年前の事件の犯人と、こいつらは繋がってたのか。
通りで手際がいいわけだ。おそらくコツか何か教えてもらっていたのだろう。
「まあ、今となってはあいつが何故教会を破壊していたのかは分からないが。でもあいつがやっていたということはそれは確実に良いことなんだ」
「犯罪が良いことなわけないだろ!」
「あのねぇ、僕は良いことをやってると思ってるんだ。結果的にそれが犯罪というだけだよ」
「教会を破壊してどれだけの人が悲しむと思ってるんだ。その人たちの立場になって考えてみろよ」
「君は?」
「君は、僕達の気持ちが分かるのか?」
「なっ……。そんな、犯罪者の気持ちなんて分かるかよ」
「そこだよ」
ダルは決意の塊のような声でこう言った。
「君は犯罪者だから、そうじゃないからという視点でしか判断できてないんだよ」
「な、なんなんだよ」
「いいかい、僕達は僕達のなすべきことをやってるだけだ。そこに他意はない」
そして何より……、とダルは付け加えた。
「僕達は自分の正義と信念に則って行動してるんだ。君達冒険者はギルドに入ればクエストを受けて金を貰って、挙げ句の果てには《変異体》を倒した英雄気取りか? 僕達はね、10年間耐えてきたんだ。あいつがいなくなった悲しみにも。辛い修行にも。でもね、あいつの目標を果たせるならそんなもん関係無い。なのに君達はなんだ! 大したこともしてないのにちやほやされて調子に乗ってたか⁉︎ 甘い、甘すぎるよ! 大体君達は、自分の正義で動いたことがあるのか⁉︎」
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