第28話

「いやーしかし人間ってやろうと思えば限界を超えられるんだねー」

「……そりゃ……どうも」

 どういうことかというと、一晩中走らされて正直限界だった、という話だ。

 睡魔×肉体的疲労×精神的疲労×脱獄したことで捕まるかもしれない恐怖。

「……お前は疲れてないのかよ」

「僕はカミサマだから」

 ……都合のいい時ばかり。


「うわ……指名手配レベルまでされちまってるよ」

 町には俺の指名手配用と思わしきポスターが貼ってあった。魔法か何かで描いたのか、写真のようになっている。例えるなら念写だろうか。

「5つも教会ぶっ壊してたらそうなるよね。ははは、まあ全部濡れ衣だけど」

「だったらなおさら犯人を早く捕まえないといけないな」

「じゃあまずは例の鍛冶屋に話を聞いてみないと分からないね。行ってみよう」


「いいかい? 相手にものを聞くときは後ろから首筋にナイフを当てて脅しながら聞くんだよ? それから質問はイエスかノーで答えられる問題にすること。ちょっとでも怪しいことをしたら僕が影から捕縛魔法で捕まえるから安心して。ほら、小型ナイフ」

「それ完全に悪者のすることだな」

 ロマは意外と過激だった。

 小型ナイフなんて完全にヤバい武器じゃないか。

 しかし、そうしないと情報が聞けない可能性があるのは事実だった。

「ああそれと、念のために持っててよ」

「っ⁉︎ こ、これって……」

「落ち着いて。言わないでいいから。さ、そろそろ鍛冶屋の人が出てきそうだよ。行ってきな」

 了解、と答えて俺は鍛冶屋の店主が出てくるのを待った。


 待つこと10分。

 鍛冶屋の店主が店から出てきた。

 俺はさっそく店主を捕まえた。

「ん? あ、あんた、し、指名手配のコーヤ・セタフじゃないか!」

「よくわかったな。聞きたいことがいくつかある。聞かせて貰うぞ」

 俺はそう言いながら店主の首筋にナイフを当てた。

「ひいっ! わかったよ。聞きたいことってなんだよ!」

「1つ目。俺が作ってもらった剣、あったな? それのとやらはどうした? 店の中にないようだが。 お前が隠したのか? はい、かいいえ、で答えろ」

「……いいえ」

「そうか、じゃあ盗まれたのか?」

「……はい」

「本当だな?」

「……はい」

 どうやら本当に盗まれたらしい。

「よし、じゃあ2つ目だ。その剣はいつ盗まれた? 事件があった日か?」

「……はい」

「分かった。じゃあこれで最後だ」

 最後にカマをかけてみる。ロマの指示とは少し違う質問になってしまうが……これくらいはいいだろう。

 ロマがを俺に渡したのはこのためのはずだ、と信じたい。

「……盗まれた剣ってのは……これか?」

 俺は刀を2取り出してそう言った。片方はロマの作った模造品だ。

「そ、それは! ダルに渡したやつじゃねえか!」

? 盗まれたんじゃなくて?」

 店主はしまった、という顔をして凍りついた。


「どうやら、聞きたいことが増えちまったようだな」

「これ以上聞かせるか!」

 店主は俺に襲いかかってきた。

 鍛冶屋の近くに人がいたらとんでもない騒ぎになるところだったが、運良く人はいなかった。

 店主は何か特訓でもしているのだろうか、並みの動きではない。

「うおっ! ロマ、頼む!」

 俺がそう言うとロマは陰から出てきて持っていたロープを投げた。


 


 捕縛魔法って、ガキレベルの話じゃねえか!

 手を突き出して「バリア!」とか言ってるガキレベルじゃあねえか!

 案の定そんなもので捕まるわけはなく、店主はロープを普通に避けた。

「馬鹿やろう! なんでロープ投げるだけなんだよ! 魔法じゃねえのか!」

「魔法だよ! 捕縛『用』魔法だよ!ロープ投げたときに魔法使ってたんだよ!」

「捕まえるのに失敗してたら意味ないだろ!」

「危ない、後ろ!」

 ロマに言われて後ろを見ると店主が襲いかかってきていた。

「ぐわぁ!」

 危なかったのでロマで防いだ。

「なんで僕を盾にするのさ!」

「いいじゃないかカミサマだろ⁉︎」

「都合のいいときばかり!」

「その言葉そっくりそのままお返ししてやるよ!」

「俺を忘れてるんじゃねえぞ! 死ねぇー!」

「「うるさい黙れ!」」

 俺とロマは声をハモらせて、襲いかかってきた店主を殴り飛ばした。

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