第26話
空間があった。
どこまでも続く白い空間。
そこには声だけが響いていた。
「では、奴らは無事にやり遂げたのだな」
一方は初老の男性のような声。
「はい、きちんと命令通りに」
もう一方は少し高い男の声。
「よかろう。何をやらせたかは知らんが奴がいなくなればよいのだ。あとはこのまま消えてくれればいいのだが」
「まったくもってその通りです」
「では、向こうに戻るがよい」
「仰せのままニ」
「——ということは、今回の事件がその事件と似てるってことなんですか?」
「そういうことだね。まったく、事件が起きたら『何で事前に防げなかったんだ』とか言われるのはこっちなのに。ともかく。言っておくけど僕個人は君は犯人じゃあないと思ってる」
おお、この人は信じてくれるのか。
「だってこんな目立つことするような人じゃあないでしょ、君」
「……ははは、そうですね」
「まあそれは置いといて、この事件について上はこう考えてるんだ。この事件はおそらく何度も繰り返されるはずだ、ってね。だから君がここにいる間に事件が起きなかったら……君が犯人ということになるかもしれない」
「そんな!」
俺は犯人じゃないのに。
「でも君が犯人じゃないなら、これは君を陥れるためのものか。それとも君がいいように使われただけか。このどちらかだね」
陥れられるようなことをした覚えはないしこの世界に知り合いはリオさんたちしかいないし……リオさんたちがやるとは思えないし……。
となると。
「クレッシェさん、なんとなく犯人じゃないかって人知ってるんですけど」
「ほう、誰だい」
俺は鍛冶屋の主人のことを伝えた。もちろん、俺の刀の失敗作が置いてあったことも。
「なるほど、もう1つ作ってたものをちょろまかしたってわけね。十分ありえる、いや真犯人はそいつかもしれないけど、問題は証拠が無いことだなあ」
「ですよね」
「まあこっちでも当たってみるから。ゆっくりしててよ、できないかもだけど」
そう言ってクレッシェさんは去っていった。
暇だった。
ずっと牢屋の中でつまらない。
することといえば飯を食うこと(ちなみに結構美味しかった)と息をすることぐらい。
クレッシェさんはああ言ってくれたけれど、あの鍛冶屋が犯人かどうか分かる可能性は低いだろうし、もしかすると他の人間が刀を持っていったのかもしれない。
なんにせよ真犯人が捕まらなければ俺はこのまま牢屋の中。もしくは断頭台へ登ることになるのだろう。
……考えたくない、自分が死ぬことなんて。
気がつけば夜だった。
クレッシェさんが報告に来てくれたが、鍛冶屋が犯人である証拠はなかったらしい。
念のために犯人らしき人物の目撃証言を聞いてみたところ、10代から20代くらいの若い男だったそうだ。
あの鍛冶屋も若いほうだったとは思うが、20代と比べると幾分か年上だろう。アラサーといったところか。
やはり誰か鍛冶屋と繋がっている誰かの犯行なのだろうか。
自分は被害者だというのに自分が何も出来ないことが腹立たしい。
ここから脱獄するとそれはそれで犯罪だし……何か俺に出来ることは無いのだろうか。
出来る限りの情報提供だろうか。
しかしそれもほとんど吐いてしまってもう言うことは無い。
そうやって自分に出来ることを考えていたその時。
牢屋に1人の男が現れた。
クレッシェさんだろうか、と思ったが違っていた。
現れたのは……。
「やあ、こんなところでボサッとしてないで、さっさと犯人捕まえようじゃない」
現れたのは、ロマだった。
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