第5章*鎖状の牢閣*サジョウノロウカク

第25話

 ——自分なりに振り返ってみよう。


 〜これまでのあらすじ〜

 俺、二世交也は異世界に転生した後に現世と異世界を行き来できるようになったかと思ったら王都で逮捕された。


 


 一体何があった?




 話は今朝に遡る。

「建造物破壊の罪で君を連行する」

 ギルドの最高責任者、クレッシェさんが俺の泊まっている部屋に来たかと思うとこう言った。

「はい?」

 多分俺じゃなくてもこう答えるだろう。

「全く身に覚えが無いんですが……」

「犯罪者は皆そう答える——もっとも、本当にやっていない者もだが。いずれにせよ私は君を連行しなければならない。来てくれるね?」

 はい、と答えるしかなかった。

 その気迫に押された。


 クレッシェさんの引き連れている人の向こうにはリオさんたちがいた。

 ウィン以外は皆心配そうな顔をしている。

 ウィンはというと状況が把握できていないような顔をしている。

 よく見るとアルトがいなくなっていた。大方クレッシェさんたちが先に連れていったのだろう。


「ボディチェックとかしなくていいんですか?」

「ん、ああ。犯罪者を——もとい犯罪者かもしれない人を、信用してると言ってしまえばなんだけど。個人としては君を信用しているんだよ」

 クレッシェさん……。やはり優しい人だ。

「もっとも君が本当に犯罪者なら、その信用も一瞬で消えるけどね」

 ……ですよね。

「まあ信用うんぬんはともかく、本当に君が犯罪者じゃないなら過干渉は印象を悪くするだけだから、って理由でボディチェックは少なめなんだ」

 なるほど、それはその通りだ。


 そして今に至り、俺はギルド内の牢屋の中にいる。一応は留置所とのことだ。

 鉄格子の外にはクレッシェさんがいる。

「さて、何か聞きたいことはあるかい? あると思うけど」

「何で俺が犯人ってことになってるんですか? それと、建造物破壊ってどんな建物が壊されたんですか?」

「まあその2つだよね。オッケー、順番に答えよう」

 クレッシェさんは快く質問を受け入れてくれた。

 刑事ドラマとかだったら『ふざけるな! お前がやったんだからお前は知ってるはずだ!』とか言われそうだが。


「じゃあ1つ目の質問から。何で君が犯人かってことだけど、答えは簡単。目撃証言によると犯人の使ってた武器が君の持ってる『片刃』の剣だったからだよ。状況証拠ってやつさ」

「見間違いなんじゃ……」

「いや、白昼堂々、というわけじゃあないけどまるで見世物でもしているかのようにやってたみたいだからね。目撃者が多くてみんな同じことを言っていた」

「でも他にも持ってる人はいるんじゃ……」

「残念ながらいなかった」

 それもそうだ。

 苦し紛れに言ってみたがやはりそんなはずはない。


「じゃあ2つ目の質問についてだけど、壊されたのは教会なんだ。タチが悪いよ、まったく」

「どんな建物でも同じじゃないですか? 城とかはともかく」

 俺がそう言うとクレッシェさんはキョトンとしか顔で俺を見つめた。


「君……のことを知らないのかい?」

「いやあの事件と言われても」

「それもそうだね。具体的に言おう。10年ほど前に王都中の教会のシンボルが破壊された事件だよ。ちなみに今も修復中の教会は多い」

 ああ、王都を案内してもらったときに見たのはそれか。

「それで、その事件がどうかしたんですか?」

「どうもこうもじゃないよ! いいかい、この国では他人の信じる神様を侮辱するのはいけないことなんだ。まあこれは主観によるからグレーゾーンなわけだけど。でもあの事件は的確にシンボルだけを狙っていた。これはさすがに駄目だろうということで罪に問われた。ちなみに死刑だ」

「死刑……ですか」

「ああ、ちなみに犯人は君と同い年くらいの少年1人だけだったんだ。たった1人で何百もの教会を破壊して回ったなんて狂気の沙汰だね」

 そうですね、とだけ返しておいた。

 なぜだか分からないが心が痛くなったからだ。

 同い年の少年が狂気の沙汰と言われて死刑になったからかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る