第23話
6時間があっという間に経ち、俺たちは再び鍛冶屋へと向かった。
「あんたらか、出来てるよ」
とだけ店主がそっけなく言い、俺たちは武器を受け取った。
「奥に同じのが見えるんだけど」
「ああ、ありゃ失敗作だよ。なにしろ初めて作る形だったからな。まあ切れ味は保証するぜ」
「そりゃどうも」
確かに普通の日本刀と同じように見えた。きちんと鞘も付けてもらっている。
大惨事学校の件で本物の日本刀は使ったがこっちはもしかすると材質も違うのかもしれない。なぜかというと本物の日本刀より幾分か軽いのだ。軽いなら軽いでいいけどな。
ただ一つ思うのは……名前を付けた方がいいのかってことだけだ。
鍛冶屋に一人の男が現れた。
「武器を売ってくれ。失敗作でいい」
「……ほらよ」
店主は片羽の剣を男に渡した。
「見たことの無い形だな」
「特注品だからな。もっともデザインの使い回しをしただけだが」
「それでいいじゃないか。つまりこれと同じものはそいつしか持ってないんだろ? 」
「ああ、しかもそいつ《変異体》を倒したって噂のコーヤ・セタフだ。その剣さえ使ってりゃあバレることは無え」
「いいねいいね。それでこそいい夢を見せてやれるってもんだ」
「まあとりあえず、刃が片方にしか無いから勝手が違う。しばらく練習しろ」
オッケー、と言って男は去っていった。
立ち込める暗雲に、誰も気づいてはいなかった。
その夜は会食だとかでギルドの最高責任者さんと夕食を食べていた。
「いやはや、まさかギルドに入って2日目に《変異体》を倒すとは。これは期待の新星ですな」
とギルドの最高責任者——クレッシェさん。多分イケメンの部類に入るであろう整った顔立ちに長身。いかにも『騎士』って感じだ。
「しかし、もしかすると《変異体》が弱かっただけかもしれません。あまり期待をされても答えられないかもしれません」
とリオさん。
物怖じせずにハキハキと喋るその姿を見て本当にお嬢様なんじゃないかと思った。
「……え、いや、その、ありがとうごじゃいます」
とウィン。
特筆することはない。緊張しすぎて噛むのが多いだけだ。
「でも報酬が一人あたり500億サクルというのは大丈夫なんですか? 」
と俺。
「大丈夫ですよ。この国は金には困っていませんからね」
ハハハ、とクレッシェさんは笑った。
ちなみにユニは別の部屋で事務作業をしている。
「しかしまあ《変異体》。どうやらゴブリン型だったようですが……普通のゴブリンと違ったところはありましたか? 」
「いや特には無かったと思います。単純に体の丈夫なゴブリンみたいで」
「ふむ。ではやはり突然変異のようなものですか。それなら対策の立てようもあるというものです」
けれども、ロマの言う通りだとすると《変異体》に止めをさせるのは俺だけということになる。
あのスキルで現実に飛ばして、現実で止めをさす。
しかしこの前は運良く学校に、それも剣道場があったから勝てたようなものだ。普通の男子高校生が武器なんて持てるわけがないしな……。
《変異体》に止めをさすための条件。
異世界の武器。異世界の身体。異世界の魂。
全部が揃ってこそ意味がある。
ロマは「それぞれ《変異体》の××××××××じゃないと駄目」と言っていた。
一体『××××××××』とは何なのだろうか。
何はともあれ明日か明後日にはハメルケの町に戻れるらしい。
昨日はともかく一週間ずっと馬車で揺られていたから休めるのはありがたいーーまあ現実で休んではいるのだが。
町に戻ったら何をしようか。いい加減部屋を借りた方がいいのかもしれない。
クレッシェさん曰く、「住みかのことは心配しないでください。ギルドが保証させて頂きます」だそうだ。
どうやらお金に困っていないのはどうやら本当らしい。
——500億サクルをサラッと出せるのに疑う必要は無いのだが。
——時は少し遡る。
鍛冶屋の前に2人の男がいた。
「今夜決行する」
「その剣はどうだ? 」
「もうバッチリだ」
「よし、絶対に成功させるぞ。これはあいつから託されたことなんだ」
「分かっている。皆を助けるためだ」
誰も気づかないような小さな声だったが、その一言一言には重い決意が見て取れた。
**********
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます