第17話

 冷静に考えよう。何で《変異体》が出てきた?

 思い当たることはただ1つ。

 あの時、発動したスキルだ。それのせいでこうなったに違いない。

 おそらくあのスキルは世界を移動できるスキルだったんだろう。

 しかし、なんでここには何年も前から《変異体》たちがいたんだ?

 そうこうしてるうちに、《変異体》が手下を引き連れてきた。

 逃げなければやられる。

 あいにくと俺は武器を持っていない。むしろ持っているほうがおかしい。

 ただ逃げるしかなかった。

 そうして着いた場所は剣道場だった。


 剣道場は引き戸だった。これなら足止めできるかもしれない。異世界のほうには引き戸は無いはずだ。

 俺は剣道場の中に、武器になりそうなものが無いか探していた。

 もちろん剣道場なのだから竹刀はある。でもこれじゃあとどめはさせない。念のために持っておくが。

 先生達がいるような部屋ならどうだろうか、と思って調べてみると、探しているものがあった。

「これなら……いける!」

 そう確信したと同時に《変異体》達が剣道場へやってきた。

 引き戸を開けるのに予想通り手間取っているようで、俺はその隙に窓から外へ出た。


 外へ出たのと同時に《変異体》達は剣道場へ入ってきた。

「嘘だろ、こんなに早く⁉︎」

 俺は《変異体》を見くびっていたようだ。

 窓から逃げたのがばれたのか《変異体》達はすぐに追いかけてきた。


 もし戦う、としたら校庭しかない。《変異体》はやっぱり未知数の力を持っているわけだから何をしでかすかわからない。

 校庭の中心近くに来た辺りで《変異体》達には追いつかれた。

《変異体》達は容赦なく斧を振り回してくる。

 俺は仕方なく持っていた竹刀を振り回した。

 すると、竹刀が当たったモンスターにダメージが入った。

「どういうことだ?」

 疑問に思いつつも俺は竹刀で周りのモンスターを倒していく。

 不思議なことに死んだモンスターは光となって消滅した。


 そして残ったのは《変異体》だけとなった。

 俺は剣道場で見つけ、背負っていたものを取り出す。

 真剣。

 つまり異世界で使ったような刀だ。

 俺が取り出した刀を見て《変異体》は少し怯えたようだった。

 異世界でやられたことが体に染み付いているのかもしれない。

 ただ、刀は持ってみると意外と重たかった。異世界では筋力や体力が上がっていたんだろう。

 異世界のように攻撃することはできないかもしれない。

 アルトもいないのだから死んだらおしまいだ。

 とにかく覚悟を決めるしかない。


《変異体》か怯えている今がチャンスだ。

 俺は《変異体》へ向かって走り、刀を突き立てる。

 グァァァ!と《変異体》が悲鳴をあげた。どうやらちゃんと効いているようだ。

 剣道をまともに習っているわけじゃあないから見よう見まねだが、とりあえず足を斬るのがいいらしい。歩けなくなるからだ。

 俺は《変異体》の足、すねの辺りを斬った。思った通りに歩けなくなったようだ。

 武器を振り回されても困るから前腕を斬る。意外と効いたようで、前腕から先は綺麗に落ちた。


《変異体》は歩けず、肘から先は無くなっている。

「これで終わりだ」

 俺は《変異体》の心臓があるであろう胸の辺りを突き刺した。

「確か抜いたら血がめっちゃ出るんだっけ……。着替え無いし……」

 今更気付いたが俺は血まみれになっていた。こんな状態で外を歩いたら絶対何か言われる。いや、絶対警察に連れていかれる。

 かといってすぐに落ちるものでもない。まあどうかわからないが。

 そんなときだった。

「おーい、着替え、いるー?」

 遠くから声が聞こえてきた。


「……誰だ」

 俺は怖がられる恐怖と通報される恐怖でいっぱいだった。

 まあ声をかけてきた時点で怖がられてはいないかもしれないが。

「着替えいるのー?いらないのー?ねえ、二世交也くんー!」

「なっ、なんで俺の名前を⁉︎」

 そいつは知らない奴だった。

 そいつはだんだん近づいてきて俺に服を渡してきた。

「はい、どうぞ」

「これって……俺の服じゃあないのか⁉︎」

「そう、君の服。君の家から取ってきた」

「不法進入かよ!おい、正直に話せ。お前は誰だ。なんで俺の服を持ってる」

「やれやれ、言わなきゃ駄目みたいだね」

 そいつは勿体つけて、クルクルと三回転して俺から少し離れてこう言った。


「俺ね、カミサマ」

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