第13話

「《変異体》を…倒した?そう言ったんですか?」

 ギルドの受付の人にそう聞かれた。

 どうやら《変異体》が異常に強いのは有名らしい。

「《変異体》はどんな攻撃も効かないはずなのに……。それを倒したと?」

「だからそう言ってるじゃないですか。もちろん苦労しましたけども。なんとか倒せたんですよ。ほら、倒した時に皮膚が剥がれましたから、これで確かめてください」

 受付さんは少々疑いの目を向けつつ確認していた。

 もう夜も更けてきたから早く宿に戻りたい。さっさと報酬を受け取りたいものだ。

「失礼しました。確認したところ確かにあれは《変異体》の皮膚です。それでは……えー……通常の報酬金1万サクルに…追加で《変異体》の討伐報酬として……あー……すいません。しばらくお待ちください」

 受付さんは奥へ入って電話のようなもので話をし始めた。外に電話線的なものは無かったのでおそらく魔力を使っているのだろう。『本部へ…』とか『追加報酬が……』とか『前例が無く……』とか聞こえるから多分この町か王都だかのギルドの本部に《変異体》を倒した時の追加報酬について問い合わせてるのだろう。電話が終わったようだ。


「すいません、お待たせしました。えー、追加報酬ですが、前例が無いということで……その……。王都のギルド本部で話し合って額を決めるそうです。そういうことなので今回は取り敢えず通常報酬の1万サクルをお受け取りください」

 なんか面倒くさいことになってるな……。もはや国を巻き込みそうなレベルだ……。


「本部での話し合いですか……。凄いことをしたんですねえ。実感が湧きません」

「ああ、俺もそうだな。何故倒せたのか全く分からない。普通に攻撃して通用しなかったから《変異体》なのは間違いないしな」

「まあ、取り敢えず報酬を分けよう。今日はウィンも役に立ってたしな。えっと、3人だから……。完璧に分けられないな……。どうする?」

「一番の功労者はコーヤ君ですから、無難に4:3:3くらいでどうでしょう」

「俺もそう思う。考える時間もあまりないしな。早く帰って寝たい」

「じゃあお言葉に甘えて。そうだ、さっき見たんだけど……」

 クエストを受けるときは出来る限り人数の多いパーティーで受ける方が報酬が増えるらしい。

「だからさ、ウィンも俺たちのパーティーに入らないか?一応役に立つようになってるみたいだしさ」

「分け前が増えるのか。ならお前らと組んでもいいぞ」

 こうしてウィンが正式に仲間になり、俺たちは分かれた。


 **********


「ここって……あの部屋だよな」

 俺はなぜかまた前世の部屋にいた。何かがおかしい。異世界に居たのに寝たら元に戻ってる…。まさかどっちも夢じゃないのか…?確かめるために1度眠ってみると…。

「ギルドの宿だ……。ということはまさか……」

 もう1度眠ってみると…そこは前世の部屋だった。

 間違いない。俺はようになってるんだ。

 つまり、俺が睦月に助けられたのも、大惨事学校のことも、《変異体》を倒したことも、リオさんとウィンとパーティーを組んだのも、全部本当なんだ。ただ…異世界に行けるというこのワクワクする状況を誰にも話せないのが問題だな。もし話したら…『あいつ異世界に行けるとか言ってるw』とか『頭おかしいんじゃね?』とか言われる!うん、これは俺だけの秘密だな。もちろんリオさん達にも話せない。


 こうして、俺の地球と異世界での二重生活は本格的に始まった。

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