第2章*転生の真実*テンセイノシンジツ

第07話

「あのさ…音野?もうそのことはいいからさ、何ていうかその…、そのあり得ない額の入った袋を持って帰ってはくれないか?」

「いや、そんなわけにはいかない!僕のせいで君を殺してしまうところだったんだ!僕は君に慰謝料を払う義務があるはずだ!」

「いや、慰謝料とか言われてもさ、特に怪我は無いし別にいいんだが」

「それじゃあ僕の気が済まないんだ!頼む!受け取ってくれ!」

「だからそんなには受け取れないって…だったらほら、自分で言うのもなんだけど今日の学食奢るとかさ、それくらいでいいから、それならいいだろ?」

「そんなんで僕の気が済むとでも思っているのか!」

「気が済んでくれよ!頼むよ!勉強させてくれよ!」

 川に落ちた翌日、俺は朝から音野と喧嘩をしていた。まあ喧嘩というほどのものではないかもしれないが。音野が慰謝料を払わせてくれと朝から何度も言ってくるのだ。理由は勿論前日のことである。

「だったら!今の僕との会話によって不快な気持ちにさせたことへの慰謝料も払うから!ほら!受け取ってくれ!」

「そのやりとりを朝から何十回繰り返してると思ってんだよ!もう最初の額の数倍いってるぞ!

「お前が受け取ってくれれば済む話だ!」

「お前が諦めればいいだろ!」

「生憎と、僕は諦めが悪いんでね」

 へえ、じゃあまだ自殺する気なのかな。俺は心の中でそんな皮肉を呟いた。すると、顔に出てしまっていたのか、はたまた音野が察したのか。


「やめろ音野!頼むから川には行かないでくれ!分かったから!慰謝料も少しなら貰うから!川には行かないでくれ!」

「交也…。川には行ったせいでこんなことになったんだ。僕が川に行くわけないだろう?」

 よかった、自殺するつもりではないようだ。すると、音野は黙って階段をスタスタと登って行った。


「音野!悪かった!俺が悪かったから!頼むから、頼むから飛び降りはしないでくれ!周りにも迷惑がかかる!いや、自殺したら普通迷惑がかかるけど!とにかく飛び降りはしないでくれ!」

 音野はペントハウスでやっと止まってくれた。

「交也…。僕は橋から飛び降りて自殺をしようとしたんだ。そんな僕が飛び降りなんてするわけないだろう?」

 よかった。でも、それなら音野はなぜ屋上へ来たのだろうか、そう考えているうちに、音野はおもむろに自分のネクタイを解き始めた。


「いや首吊りもするんじゃねえよ!」


「交也、なぜことごとく僕の自殺を止めるんだ。僕は責任をとりたいだけなんだ。君が慰謝料を貰ってくれないなら死を持って償うしかないんだ」

「お前話聞いてたか?お前が歩き出した時点で俺は慰謝料を受け取ると言ったぞ?」

「え?そうだった?」

 駄目だ、こいつ自殺願望のせいで話が全く耳に届いてなかった。

「でもさ、やっぱり慰謝料で片付けられる問題じゃないよ。会えて嬉しかったよ。じゃ」

「いや、じゃ、じゃねえし。そうだ、睦月だ、睦月の奴が悪いんだ。あんな"よろしくお願いしません"とかまともな人間の言うことじゃねえよ。あんな奴のこと忘れろよ。な?」

「つまり、睦月さんに告白した僕が一番悪いわけだ。じゃ」

 だからなんでそんな考えになんだよ…。悲観的過ぎるだろ…。待てよ?

「お前、本当は自殺を止めて欲しかったんだろ」


 本当に死にたいなら告白したあの場ですぐに飛び降りようとしたはずなんだ。川に行っただけまだ自分を止めて欲しい気持ちがあったんじゃないか?その考えを音野に伝えた。すると、

「そっか、僕そんなことも考えてたのか。さすが交也だね、本人が分からないことまで分かっちゃうんだなあー。そうだ、もう昼だし学食行こうよ。慰謝料代わりに奢るよ」

 一体何だったんだ朝からのやりとり。もしかして…音野はただの馬鹿なんじゃな凄い掌返しだなおい。いだろうか。そんな考えを胸に、音野の後を追った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る