第06話

 炎は襲ってこなかった。リオさんの杖から出たのは焚き火すら出来ないほど小さい火の玉。夜に驚かせることも出来るかどうかというレベルだ。まあ冒険者なりたてだし仕方ないか。ん?待てよ?

「リオさん、魔法使ったことないんですか?」

「……うん」

「じゃあ剣でも使います?」

「そうしようかな、コーヤ君も使える感じみたいだし」

 しかしリオさんの攻撃は一度も当たらなかった。これは…クエストなんて受けるべきじゃなかったな。リオさんは攻撃出来ないしウィン超貧弱冒険者不向き役立たず男は元より頼るつもりは無いし。あれ?詰んだんじゃね?何この無理ゲー。まてよ、俺は転生者だ。もしかしたら転生特典で凄い能力があるかもしれない。こういうのは大抵冒険者カードに書いてるものだ。俺は一旦ゴブリンから距離を置いて冒険者カードを確認した。

「こ、これは……」


 転生者にありがちな状況だな……と思いつつも俺はこの技に賭けた。俺のステータスに書かれていたスキル。普通は新米冒険者が持ってるようなものじゃない。これこそまさに俺の求めていた転生特典!

「喰らえ!はああああああああ!」

 ゴブリン共は弾け飛んだ。


「今のは…火属性と水属性の混合技…。あいつ、本当に新米冒険者なのか?どうやらあいつを認めないといけない様だな」

「凄い上から目線ですね。認めるも何も貴方の方が全てにおいて弱いということは明白です」

 ウィン達はそんな会話をしていた。

「さっきの技はそんなに凄いのか?」

「凄いも何も二属性の混合技ですよ!」

 へえ、さすが転生特典だ。そんな強い技なのか。


 クエストの達成報酬は1万サクルだった。どうやら"サクル"というのがこの世界の通貨単位の様だ。価値としては1サクル=1円といったところか。

「じゃあこの1万サクルを分けて一人5000サクルかな」

 するとウィン超貧弱冒険者不向き役立たず男がこんなことをほざきやがった。

「おい、俺を忘れてないか?俺も一緒に行ったんだぞ?」

「貴方は何か役に立ったんですか?立ってないですよね?ですから貴方には報酬を貰う権利はありません」

 どうして自分も報酬をもらえると思っていたんだろう。どういう頭のつくりをしているんだろう。


 このギルドはクエストを受けた日は飯と宿泊が無料タダになるというサービスがある。おかげで5000サクルという少ないお金でもなんとかやりくり出来そうだ。リオさんやウィンと別れた後に俺はギルドの宿に泊まり、記念すべき異世界転成の初日を振り返っていた。今日は色々なことがあった。一度死んでしまったがこうして転成出来たんだ。神様に感謝しないとな。だからといって何かの宗教に入信するつもりは無いが。なんだか一日が長かった気がする。この世界は自転周期が長いんだな。明日もクエストを受けることになるだろうし、早めに寝ておこう。こうして俺は初日を過ごして眠りについた。


 **********


 なんだか身体が痛いな。昨日のクエストで筋肉痛になったか?そんなことを考えつつ俺は目覚めた。しかし、寝ていた俺の隣に居たのはリオさんでもウィンでもベートでもはたまたアルトでもなく………だった。そう、俺が居たのはギルドの宿ではなくだった。まさか、異世界での一日は夢…だったのか?

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