第7話
放課後。
進吾は帰宅部である。
部活に入っていない者の多くがそうであるように、進吾もまた、何も用がなければそのまま帰ることにしていた。
帰宅部の中には、放課後の教室に残ったりして時間を潰す人もいるのだろうが、進吾の仲の良い友達は皆放課後は部活で忙しいため、進吾にとって学校に残る理由は無いに等しい。
加えて、女性恐怖症である進吾は、女子と関わる可能性のある学校にはあまり長く居たくないという思いがある。
更に、勉強のこともある。
ネットゲームにおいては、大体21時前後が一番プレイ人口の多い時間帯だ。
その夜の時間を気兼ねなく最大限に楽しむ為、進吾はその前の時間、夕方辺りに勉強をすることに決めている。
家族にネットゲームに興じていることに文句を言われないための最低限の勉強は必要だと、進吾は考えている。
その勉強時間を確保するためにも、早く家に帰るということは必要なことなのだ。
故に、この日も。
進吾は部活に向かう友人達に別れを告げて、そのまま生徒玄関へと向かうつもりで廊下を歩いていた。
16時頃と言えど、まだ周囲を覆う熱気は収まらない。
「あちぃ~……」
手で風を仰ぎつつ、大層やる気が無さそうに背中を丸めて歩く進吾。
何分、廊下は窓から日が差し込むから暑いのだ。
階段の前に差し掛かり、一息つく。
これからの帰途、この暑い中を自転車を漕いで帰らねばならぬことを思い、挫けそうになるが。
「まぁ、家に帰ればエアコンが効いた部屋で過ごせるしな」
却ってこのままゆっくりと動いて帰る方が暑さに負けそうだと、そう思い直し、姿勢を但して足早に階段を降り始めた。
そんな時だった。
「うん?」
ひらひらと、視界に割り込んできた白色。
上から下へとゆっくりと舞い落ちる”ソレ”に、思わず意識を割かれ、進吾は足を止めた。
足元に落ちた“ソレ”を拾い、よく眺める。
それは一枚のプリントだった。
「模擬店説明会……」
プリントの上方に大きくゴシック体で書かれた文字を読み上げる。
内容を更に詳しく追ってみると、それはどうやら10月末の学祭に向けた説明会の案内用紙の様だった。
上から落ちて来たと思われるその出処を探ろうと、進吾は階段の隙間から見上げた。
この紙の持ち主が落としたことに気付いていたなら、こちらを見下ろす視線とかち合っても良さそうなものだが、特に見当たらなかった。
やがて進吾が見上げたままでいると、階段を降りてくる女子生徒のスカートの中身が見えそうになり、慌てて視線を戻す。
「……どうしたものかな」
頭を掻きながら、途方に暮れる。
このままプリントを落ちた床に戻すのは忍びないが、必死になって持ち主を探す理由もない。
なんの気なしに、そのプリントの裏面を見た。
「っ!!」
進吾は、思わず息を呑んだ。
即座に階段を駆け上がり、一つ上の階に辿り着く。
廊下で左右を見回し、人が見当たらないことを認めると、また一つ階段を駆け上がる。
駆け上がった最上階の廊下に男子生徒が居るのを見かけると、早口で手にしたプリントに見覚えがないか尋ねる。
困惑する男子生徒から得られた回答は、進吾が求めていたものではなかった。
階段を通る生徒。階段周囲の廊下や教室の中に居る生徒。
獲物を求める獣であるかの様に、次々とプリントについての情報を尋ねる進吾。
――必死になって持ち主を探す理由が、その紙の裏面にはあったのだ。
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