第2話 出会いは空から降ってくる


「だっぁあああ!!!出口どこだ!!ジルわかんねぇのかよ」

「知らないわよ、私だってあの部屋から出たことないんだから」

後ろから横からと追ってくる軍人の数が逃げれば逃げるほど多くなってきていた。しかし、俺たちはいまだに出口へとたどりついてない。上に上がっていることは確かだが、自分がいた部屋が地上からどれだけ離れていたのかまではわからない。

時々目にするフロアマップを見ては道を確認しているが、同じ景色が続く廊下では自分がどっちへと進んでいるのかすらわからなくなる。

「くっそ!こうなったら最終手段使うしかねぇか」

「え?ちょっと待って、最終手段って何?嫌な予感しかしないんだけど」

ジルが不安そうな声を上げたのをよそに、俺は立ち止まって横の壁に手をかざした。そして、力を込めた。それと同時に壁は吹っ飛び穴が開き、通れるようになっていった。それをどんどん先へと進めていけば、どこかで外へとつながるだろうという浅はかな考えだ。

「ちょ、ちょっと!」

とにかく時間をかけるのはまずい。さっさと外へと出てしまえばこちらのものだ。

そう思いながら、かざした手の先にある壁をいくつも壊していく。

するとまぶしい光が目に入ってきた。6年ぶりの外、そして高い空だ。

「ヴァン、やっと出れたわね」

「そうだな。ここからが正念場ってとこだな」

足を一歩、外へと踏み出した。背後からはいくつもの足音が響いていた。後ろは振り向かずにそのまま走り出した。




一方、施設内では突然の警報作動に戸惑っていた。

「何が起こってるんだ?」

「なんか、地下施設の扉が壊されたらしいとのことらしい」

「ってことは【LACK】が逃げ出したってことか?ブレスがあるのに?」

廊下では軍人があわただしく情報を得るべく走り回っていた。


コンコン


施設最上階にある部屋の扉がノックされた。中にいる人物が返事を返すと、扉がゆっくりと開けられた。中にいるのは軍最高司令者のイルムガルトだ。

「なんだか、外が騒がしいようだが?何があった」

「それが、イルムガルト様…大変言いづらいことなのですが」

「回りくどいことは好きではない。はっきりと言いたまえ」

そういいながら、机の引き出しから一本の煙草を取り出し火をつけた。しかし、その火は軍人から発せられた言葉によってすぐに消されることとなる。


「【LACK-00】が脱走しました。しかも、なぜかブレスが外れているらしく追跡装置を使っての捜索ができない模様です」


「なんだと?なぜブレスが外れているんだ。あれは私ではないと外せないはず」

軍内部に共犯者がいるのか?いや、それだとしても外すことは不可能だ。ブレスのカギをもっているのは私しかいない。

彼を…【LACK-00】を今、手放すわけにはいかない。まだ今の段階では未完成なのだから。

「ただちに捜索隊を街へと向かわせろ!早急にだ!!」

「はっ!!」

彼がこのF・R・Cのトップになってからは【LACK】は脱出を試みたことはなかった。その油断が招いた今回の事態なのかはわからない。

その中でも【LACK-00】はイルムガルト自らが探し出し、連れてきた重要な人物である。ここで手放すようなことがあれば、今までのことが無駄になってしまうだろう。そう感じた彼自身もまた、街へと足を向かわせた。




「うっわ、6年ぶりだぜ?外の空気、うますぎる」

「外にはたまに出ていたじゃない…それを久しぶりとか、囚人みたいなこと言わないで」

「出てたって、戦場にだろ?あんな火薬と血の匂いが混ざった場所なんて思い出したくもないね」

本当ならば、ここでもう少し静かに空を眺めていたい。しかし、そんな悠長なことは言ってはいられない。それを察したのか、ジルは言葉をつづける。

「ほら、さっさとこの街を出るわよ?たぶん、すぐそこまで追手がきているはず」

「そんなすぐに来るか?そこまであの軍が優秀とは…」

言葉をつづけようと思ったら、背後から銃を構える音が聞こえた。まさかこんなにも早く追いつかれるとは思ってもいなかった。ちょっとゆっくりしすぎたのかもしれない。

「とまれ!おとなしく今、施設へと戻ればお咎めはなしでいいとイルムガルト様からの通達だ」

「そんな、逃げ出した人間がそうやすやすと帰るかってぇんだよ」

そういいながらも、実はどうしたものかと思っていた。逃げ出してみたものの、どこに向かえばいいのかまったくわからない。逃げ出せと言ったジルを見てみても首をかしげるだけでなんの役にも立たない感じだ。

「おい、ジル。どこに向かえばいいんだよ」

「知らない」

「…へ?自分で『華』を捜せって言っておきながらなんの手がかりもないのかよ!」

「知らないものは知らないんだからしょうがないじゃない。それに私一人の力ではどうしようもないから貴方に頼んだんじゃない」

この言いたい放題言わせておけば、結局は何もわからないってことになるじゃねぇか!行き当たりばったりな状況で施設を飛び出して、こうやって追手に追いつかれて、向かうべき場所がわかってなくてどう逃げればいいっていうんだよ。

あまりにも理不尽な状況に追い込まれた自分を憐れみながらも、クールな表情を崩さないジルに腹が立ってきた。気持ちが高ぶっていくのと同時に、あたりを冷たい風が吹き抜けていった。

「ちょっとヴァン、気持ち落ち着かせて。ここで暴走したら大変なことになるわよ」

時すでに遅し。周りにいた軍人も『やばい、逃げろ』とか言っていたけれどあっという間に吹き荒れた風によって辺り一面吹き飛んでしまっていた。

そして、自分自身もその力の制御ができずに足場を崩し高い場所にいた俺は地面へと落ちていったのだった。

「このバカ!自分の力ぐらい制御しなさいよーー!!」


俺にはそのジルの発した言葉は耳に届いていなかった。

なにせ久しぶりに開放した力は、俺の体力をすべて奪っていき意識までも失っていったからだ。



「なんか、頭上が騒がしいわね」

視線を上にあげた。太陽の光の中に影が一つ…最初は小さく見えたけれど、どんどん大きくなって、さらには目の前いっぱいに広がっていった。

「んぇ?人ぉ?って、わ、わわわわ」

避ける暇もなく私は、その影を体全体で受け止める羽目になった。

「なんで人が降ってくるのよ!!」

「にゃー」

「え?猫も?なんでよ!!もう!」

体の上に覆いかぶさった人を激しく揺らしてみても、意識が戻りそうにもない。一緒に降ってきた猫も心配そうにのぞき込んでいた。しかし、次の瞬間その人物の顔を思いっきりひっぱたいていた。

「え?だ、大丈夫…?」

しかし、それでも目が覚めることはない。ここにおいていくことも考えたけれど、それはそれで後味が悪い感じもする。

なので、家に連れていくことにした。見ず知らずの人間を家にあげるのもどうかと一瞬思ったが、そうも言ってられない状況であることは確かだ。

「しょうがないか、なんか訳ありっぽい感じだしね」

気絶している人間を担ぐのは大変だけど、引きずっていけばなんとかなるかな?

「にゃーにゃー」

「わかった、わかった。君も一緒についてきなさい」





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