第54話 村と氷龍
俺達がこの村に来てから、一週間の時が経っていた。ググの部下が報告をしてこないことを考えると、アヌムスとの決戦はまだ先のようで助かる。その前に氷龍という最悪の敵が待ってるのだが。
村を囲む氷の城壁の上から、全体を確認する。
「バリスタは集中させると、破壊された時に壊滅してしまう。等間隔に置くんだ」
俺は予想しうる相手の攻撃に合わせて、即壊滅を防ぐための手段を考える。俺達だけでどれだけ戦えるか分からない。氷龍は一度撃退することが出来れば、同じ場所にはあまり行かないようだ。自ら死地に突っ込んでいくような趣味はないと。
「しかし、氷を操れるってのは便利だな」
馬防柵を木で築く予定だったのだが、村の者達の協力もあって氷ですることが出来た。木の数倍強固である。先の尖りも相当であり、氷龍もむやみには突っ込んでこれないだろう。
村は回りが平地のように開拓されているため、何処から来るから分からなかった。だから、氷で数を作れるのは助かった。
「私達、北の者はあまり戦をしたことがない。指示されたことをやることぐらいしか、動くことも出来ませんが」
「いやいや、この氷の生産力は凄い。防衛という観点でいえば、凄い力だ。兵器系も氷で作れるって、卑怯すぎるだろ。溶けない意味が分からない」
「私達が生み出す氷は、魔力を帯びていますから。ナツさんはすぐに習得してしまいましたが」
ナツは現在、防衛のための様々な道具を作っていた。その出来はこの村の者に匹敵しており、村の者達からも尊敬の眼差しを向けられている。ナツは水魔法が得意だとはいえ、本来は氷魔法は別物らしい。適応性があったのか。
「カレイドさんの力も相当ですけどね。生み出した氷を地面に突き刺す姿を見たら、討伐もいけるんじゃと思ってしまいます」
「それは言い過ぎだ。仮にも龍だろ? 本でしか見たことは無いが、滅茶苦茶な伝説ばかりしか残ってないしな」
「それでも、ヴィースさんは同じだけの力を感じますよ。あの人が悪に傾けば、生きた伝説が生まれるでしょう」
それは否定出来ない。俺と出会ってからのヴィースは、覚醒しても力を抑えているのが分かる。あのヴィースが本気を出したら、
そんなヴィースは現在、上空を村の者達と飛び回っている。戦闘中の飛び方なんてのを教えているらしい。ヴィースは龍とやりあったこととかはあるんだろうか?
「ヴィースー!」
俺は空に声を張り上げ、こっち来いと合図を送る。すると、怖いくらいの速度でこっちに落ちてくるヴィース。
「怖い怖いっ!」
目の前で急ブレーキをかけて、ふわりと地面に足をつける。
「何ですか? 名無し様」
「もうちょっと大人しめに降りてきてくれ…。ヴィースは龍と戦ったことあるのかなって思ってな」
「はい。戦ったことはありますよ。まだ未熟だったので、撃退出来ただけですけど」
「一人で?」
「はい。火龍でしたけどね」
俺はとんでもない仲間を持っていたようだ。街を一夜にして滅ぼしただとか、勇者と相打ちだとか、もうそれは強すぎる描写表現が多かったあの龍を撃退したと。
「私の目に狂いは無かった。宜しく頼みます。ヴィースさん」
「いえ、私だけではどうなるか分かりません。皆様と、仲間達がいてどうにかという感じですよ。昔よりも弱くなっちゃってますしね」
ヴィースは血を好んで吸うことはない。元々はそうではなかったということだけは、それとなく知っている。やはり、血を吸うことでヴィースの力は跳ね上がるようだ。
「最悪は、あの子に頼ることになるかもしれませんが…」
「あの子? もう一人いるんですか?」
「ヴィース。それはやめておけよ。今の俺に止めれるか、正直分からない」
「大丈夫ですよ。昔と違って、名無し様がいることがあの子も精神的に安定するようになってきたようです。それでもなるべくあの子を抑えておきますが」
あまり理解出来ていないフィスは首を傾げるが、これは知らない方がいいだろう。あまりこういうことはベラベラと喋ることはない。しかし、俺はストッパーになっているっていうのは、どういうことだ。ヴィースはあの子と多少の意思疎通が出来るようになったのか。
俺が要件がそれだけだと言うと、ヴィースは空に舞い戻っていく。空からの遊撃部隊も付け焼き刃だが、いい動きをしている。
「こっちは終わったんじゃが、他にすることはあるかの」
「ん? 早いな」
「後はカレイドがあの氷柱を地面に刺していくだけじゃ」
大体の準備は整ったという訳か。後はなるべく早く攻めてくるのを待つだけだ。アヌムスとの決戦はいつ来るか分からない。
「そういえば、なんで氷龍が攻めてくるって分かったんだ?」
「龍達は、新たな産卵場を作る時に近くに糞をするんです。それが一月程前に発見された。なんでここを選んだのかは分かりませんけどね」
詳しく聞くと、龍はテリトリー外では糞をしない。するとすれば、新たにテリトリーとする場所だと。なんというか、迷惑な連中だな。俺がイメージしている龍とは違う気がする。
知能が高い個体もいるようだが、基本的には魔物と一緒で害悪にしかならない連中だそうだ。人の言葉を理解する龍ともなると、ヴィースの十倍は生きているような神話級の龍のみ。魔物と一緒だと思っておくのがいいな。唯一、はた迷惑な龍に良いことがあるとしたら、素材や武器だということだ。
龍が冒険者などを装備ごと口にした場合、装備は溶けずに体の中に残り、強力な魔力を帯びるようになっていく。これがまた強力な武器が生まれるらしい。是非、拝んでみたいものだ。勇者が持っていたとされる武器も、その種類の武器らしい。討伐出来ればの話だが。
とはいえ、全盛期のヴィースで互角だ。今回の龍がどれほど長生きなのかは分からない。撃退ならまだしも、討伐となるとどれ程の犠牲が出るか分からない。
「終わったよー!」
「おお、カレイド。お疲れ様」
カレイドが笑顔で飛び込んでくる。いや、本当に男じゃなければどれだけ嬉しいことか。俺はカレイドの頭を撫でてやる。これだけの量の氷を、地面に刺していく作業はなかなかに辛かっただろうに。
「思ったより冷たくなくて、まだ良かったけどねー」
俺があげたグローブは脱いでいたようで、懐から取り出したグローブを嵌めてこっちをチラチラと見てくる。
「はいはい、似合ってるよ」
「何ーその言い方ー。ちゃんと言ってー」
「似合ってる似合ってる」
「一回でいいー!」
そんなやり取りを交していたのだが、何やら上の様子が怪しい感じになってきた。ヴィースが遊撃部隊に指示を飛ばしている。そして、こっちに降りてきた。
「回りを巡回させていた人が、遠くにそれらしき影を見たと言っています。もう一時間もすれば到着するとのことなので、準備してください!」
ヴィースは、俺達と氷龍の決戦が始まることを告げた。
VENGEANCE. ~異世界化物転生記~ 中々lororo @lororo
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