第42話 村と鍛冶屋
魔装馬車は止まる事無く走り続け、小さな村に到着した。魔装馬車にはエンジンとなる魔装具が埋め込まれており、魔力を吸収し変換。エネルギーとなった魔力を燃料に走っている。変換自体は無限に出来るのだが、エネルギーで動かしているエンジン部分には耐久力がある。無理をさせて走って何かあっては困るからこそ、休憩を取ることで確実に歩を進めることを優先した。
俺達が村に入っていくと、村人の顔が明るくなった。恐らく、旅人は村のボーナス収入みたいなものなのだろう。小さな村となると、自給自足がメイン。子供の憧れる目を見ていると、出稼ぎ組が多い村でも無さそうだ。
「とりあえず、宿を取っておくかの」
「そうだねー。村の宿はすぐ閉まっちゃうよー」
カレイドの言う通り。宿を取らない旅人はいない分、宿の店主は意外に気楽だ。夕方までに宿を確保していないと、店主が寝ているなんてことはよくある。大声で店主を起こそうものなら、他の客とのトラブルになりかねない。
俺達は周りの目を振り切り、宿へと直行。少し暗くなっていたので不安があったが、無事に部屋を二つ確保した。鍵を渡されたので、これで出入りは自由になる。
「じゃあ、荷物を置いてから村を見回るか。後、食事だ!」
「名無し様は本当に食べることには貪欲ですね」
「最近、保存食でも美味くて仕方ない。人の食事はやっぱり贅沢だ」
「人に戻るとそういう反動があるんだねー」
珍しげに頷くカレイド。
「反動というより、元々からおかしいのじゃろ。
「牢屋の中でも食事に文句言ってたって聞いたー! 看守の人困ってた。名無し先輩は遠慮がないんだからー」
「あの強面の看守と仲良くなったのか…」
「仲良しー。いい人だったよ? お金が必要だったみたいだけどねー」
俺の前では眉を潜めて威圧してきた筋肉ダルマの看守。心の中では悩んでいたのか。困ってるってことは少しは考えてくれてたと思うと、少しだけ有り難く思える。今となっては、礼も言えないが。
各自一度部屋に入り、荷物を置いていく。大剣は鍛冶屋に持っていきやりたいことがあるので、担いだままにしておく。
一応、ギルドクリスタルも持っておくか…。
「そういえばガンブリードはどうなったんだろう…」
「多分、まだお片づけー」
「片付けか。きつそうだな」
ギルドクリスタルから聞こえた罵倒の声は、敵側にいたガンブリードは片付けの場に出て行くのが嫌だったと予測出来る。だが、それ以上に過酷な重労働が待っていたのかもしれない。カレイドのいう片づけのランクは結構凄いことしてたりするから、参考にならない。
───ん、カレイド?
「ってちょっと待て! お前なんでこっちにいる!?」
部屋を二つ取り、女子があちらに、男子がこちらにというナツの計らい。
(なのに、何故カレイドが…あっ!)
そうだ、こいつは男だった。完璧に忘れてた。見た目が優先され、性別が女だと誤認識しかけていた。確かにこの部屋セッティングで合っている。いや…だが…。
「失礼な。カレイドちゃんは男だぞっ」
「男が言う言葉じゃねぇ!」
ピースサインを目元に当てて、ウィンクに舌をぺろっと出す。思わず心がときめくが、惑わされてはいけない。
───こいつは男だ。
とはいえ、一つ屋根の下でカレイドの寝るのは緊張してしまいそうだ。カレイドは男に興味がある訳では無いと言ってはいるが、信用しきれない。妻がいると聞いてはいるが、見たことも無い。
「そんなに疑わしい目で見るのはやめてー。名無し先輩とはいえ、ショックだよー」
「なら、男の見た目に戻れ。化粧を落とせ。言葉遣いを男に戻せ」
「むーりー。いーやー」
「どうすりゃいいってんだ…」
俺は投げやりに荷物を隅へ纏める。もう諦めて、さっさと準備をしよう。鍛冶屋はそれ程早く閉まる訳ではないが、どれ程時間がかかるか分からない。出来ることなら今日中に終わらせたい。
「じゃあ、俺は先に行くからな。非常食はあるにはあるが、多少日持ちする美味しい物を買っといてくれ」
「らじゃー。いってらっしゃーい」
カレイドに見送られる。
俺はナツ達の部屋に寄り、鍛冶屋に行くことを知らせ、宿を出る。
「うおっ、びっくりした」
外で待っていたのは子供達。話しかけてくる訳ではないのだが、鍛冶屋の方へ歩いていくと後を付いてくる。完全に無視を決め込み、俺は鍛冶屋へと直行する。すると、子供達は諦めたのかまた戻っていき、宿の前で出待ちをしていた。ここは他の三人に任せよう。俺は子供の相手が苦手だ。
「遅くにすまないが、開いてるか?」
鍛冶屋に着き、木製の扉をノックする。
「開いている」
「良かった。邪魔する」
扉を開けるとそこには歳のいった熟練の雰囲気を醸し出している老人が佇む。中に飾ってある武具を横目で確認すると、無骨ながらも一級品。もしかしたら、これは当たりかもしれない。
「来た早々に値踏みか」
「気分を害したなら、すまないな」
「…若そうに見えるが、その落ち着き方。茨の道を歩んできたか」
「茨の道といえば、そうかもしれないな。あんたもなかなかだけど」
俺を見るなり、この言葉が出てくる者がいるとは。生意気と言わずに認めている口振り。生意気と言われても、俺の方が年上なのだが。
「で、依頼はなんだ」
名前も聞かずに話は始まった。冷やかしの客では無いと分かったようだ。俺は背負っている剣を丁寧に地面に下ろす。扉以外はレンガ造りの家なのだが、床はコンクリートによく似ている。木造だと鍛冶屋には不向きなのか。
「この二つの大剣なんだが、錆止めの魔法と砥ぎ作業。そして、オリジナルの魔石孔を空けて欲しい。この魔石を填めれるように」
俺は魔石を取り出し、老人に渡す。瞬間的に不可思議な表情が浮かぶが、すぐに表情を消して大剣にも手を伸ばす。金槌で軽く叩き、何かを確認しているが俺には何をしているのかは理解不能。常人には何をやっているのか分からないのが、職人だ。
「こっちはいける。だが、こいつは馬鹿になってる」
「なっ、どういうことだ?」
「若いの。こいつらを盾にしてたか?」
金槌で叩いただけでそれが分かるのか。
「ああ。なんで分かったんだ?」
「前に突き出していて盾にしている方は、芯がやられている。修復は出来るが、それ以上は求められないな」
「換え時ってことか?」
「普通はそうする所だが…まだ修復可能な物を捨てる奴の武器なんか打ちたくはない。若いの、どうする」
その言葉は最早強制だろ。替えるって言ったらもう一つは打たないと言ってるのと同義じゃないか。愛着もあるから、そのまま使えるならそれにこしたことは無いのだが…。
「使えるなら、そのままがいい。手に馴染んでるってのはどんな武器よりも強いからな」
「…なら、打ち方を変えるまで。考えるがままに打つぞ」
大剣を二つとも持ち、工房へと持っていく老人。ここからは何もかもを任せよう。俺がとやかく口を出すよりも、考えるままに打ってもらった方が良い物が出来そうだ。
俺はその間に店の中を見て回る。探しているのは脚甲。攻撃だけではなく、足で防御することが出来る。
見ていくと、一つの脚甲が目についた。装飾自体は少ないが、溝の部分に青色の装飾が施されており、全体的にシックに見える。そのセンスの良さは勿論、明らかに周りから浮いている作品。出来が違う。
「これだな…」
店主の老人が終わり次第、これを買おう。金貨は山分けしたので、金には困っていない。それの他にも、カレイドの手甲も見ておく。いつも素手で殴り飛ばしているが、多少の傷が目立つ。少しでも、その傷を減らしてやりたい。
さっき見つけた脚甲と同じシリーズと思われる手甲があったが、脚甲ほどでは無い。しかし、その横にあるカラフルな羽の付いた布製の手甲が目についた。羽は何かの魔法的効果が付いていそうだ。これは見た目的にもカレイドに似合う。
「これに決めた」
俺は店を物色し、様々な物をピックアップして並べておく。店主が奥から鳴らす金槌の音を聞きながら、出てくるのを待つのであった。
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