・現代ドラマ

レンタルお姉さん


私は元レンタルお姉さん。


レンタルお姉さんって言っても売春婦じゃないのよ?

引き篭もりの若者の更生、社会復帰を手伝うのが仕事なの。


勿論、強引に部屋に押し入ったりなんかしないわ。

初めはメールや手紙のやりとりをして、お互いのことを理解するところから始めるの。


コミュニケーションを取る楽しさを知ってもらって、最終的にはちゃんとした社会生活ができるようになるまでサポートするわよ。


それはとても根気のいること。


私が最初で最後に担当した武藤くんは、それはもう重度の引き篭もりだったの。

あの日、私と初めて顔を合わせてくれた日まで、何年も外に出ることがなかったんだから。


手強い相手だったけど、私は挫けなかったわ。


毎日彼の家へ足を運んで、閉じられた彼の部屋のドア越しに呼びかけ続けた。


彼は心に大きな傷を抱えていて、とても大変だったけれど、次第に不安や興味のあることについて語ってくれるようになったわ。


私も一生懸命、彼の趣味について知識を仕入れたりして、いつしか普通に会話ができるようにまでなったの!


この仕事に着いて間もなかった私は、達成感に震えたわ。

努力が報われる喜びや、彼に尽くした時間が積み重なるほどに、彼に対する愛着が深まっていった。


そして遂に、彼が部屋から出て、顔を見せてくれることになったの!


「怖がらなくても大丈夫、今日はまずお互いの顔を見る程度の気持ちでね?」


「……うん」


私が励ますと、武藤くんが恐る恐る返事をしてくれた。


少しの間があって、扉が彼自身の手で開かれる。

私はこの仕事に就けたことを、神に感謝する気持ちにすらなっていた。


「初めまして、かな?」


これまで散々言葉を交わしてきた少年に、私は改めて挨拶をした。

彼は少し沈黙したのち、こう言ったの。


「チェンジ」


私は意味が解らず聞き返した。


「……え?」


彼は部屋の中へと引き返し、扉を閉じた。

それはもう「期待外れだ」と言わんばかりの音を立てて、しっかり閉じた。


そして彼は一切の呼びかけに反応しなくなってしまった。


私はどうしようもなくなり、いったん自宅に帰ると、パソコンのメールBOXに彼から1件のメールが来ていたの。


そこには一言。


『お姉さんを語れるルックスじゃねーぞ!!』

と、書かれていた。


翌日、私は退職届けを提出したわ。


それはもう三年も前のこと。

何もかもが懐かしい。


そして、今日も私は自室の床を蹴る。

「早く飯持って来いやババァ!!」


あれから私は部屋を出ていない。


下階では母が泣いていた。



END

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