第29話 一体なんだっていうんだ
一月の初め、俺は優奈と初詣に来ていた。
それなりに大きな神社で、人も多かった。
そして、おみくじで俺はまさかの大凶を引いた。
色々書いてある事を要約すると、周りに振り回される一年になるらしい。
正にそうなりそうな気がしてならない俺は、静かにそのおみくじを柵に結んだ。
一方、優奈の方は大吉だったようで、嬉しそうに見せてきた。
学業は努力が実り、家庭も円満で、恋愛は辛抱強く待つことで良い方向へ向かうそうだ。
やめろ、恋愛方面に変な期待を持たせるな。と、おみくじ相手に心の中でつっこみを入れた。
参拝が終わると、近場のカフェで温かいものでも飲もうという事になった。
つまり、ここからが本題である。
窓際の席に案内され、それぞれ飲み物を注文し、先程の参拝した神社の事や正月はどう過ごしたかなんて事を話しつつ、程よく雰囲気が盛り上がってきた所で、俺から仕掛けることにする。
「そういえば優奈ちゃん、この前確か恋愛関係の相談があるみたいな事言ってなかったっけ?」
「ま、まあそうですけど……」
突然以前の話を出されて、優奈は、恥ずかしそうに目を逸らした。
「まあ絶賛片思い中の私が、どこまで参考になりそうな意見を出せるかはわからないけど、話すだけでもすっきりするかもよ?」
「え!? すばるさん今好きな人いるんですか!?」
話している間に覚悟を決めて迫ってこられた場合、断りきれるか不安なので、先に俺から優奈の出ばなをくじく事にする。
「いるよ~、まあでも今回は優奈ちゃんの話から……」
「いえ! まずは是非すばるさんの話から! 参考にするので!!」
「う、うん、わかった……」
しかし優奈の勢いはすさまじく、立ち上がって机に身を乗り出し、俺の話に思いっきり食いついてきた。
「相手はどんな人なんですか? 歳は? 身長は? 体格は? 性格は? 名前は!?」
「落ち着こう! 一旦落ち着こう! ね?」
あんまりにもすごい優奈の勢いに若干押されつつ、どうにか俺は優奈を宥める。
「すいません、すばるさんが片思いなんて意外で、ちょっと取り乱しちゃいました」
「意外?」
恥ずかしそうに座りなおす優奈に、ちょっとってレベルじゃなかったぞ! と内心つっこみを入れながら聞き返す。
「だってすばるさんってものすごくモテそうなのに、片思いなんて意外だなって。もう告白とかはしたんですか?」
「いい感じになってきて、そろそろ告白しようかなって思ってたら、他の子と付き合ってた、みたいな感じかな」
さっきとは打って変わって大人しく優奈が聞く姿勢を見せるので、俺も考えてきた設定を話す。
「その人は恋人と仲良くやっているみたいなのだけど、でもやっぱりその人の事が気になってしまって、しばらくは他の人と付き合うとかは考えられないかな……」
自嘲気味に笑えば、そうだったんですね、と優奈は言った。
この設定は完全にしずくちゃんの話を俺に当てはめただけである。
しずくちゃんには少し申し訳ない気はするが、しずくちゃんの恋路は影ながら応援するからそれで許して欲しいところだ。
「ちなみに、その人ってどんな人なんですか?」
優奈に聞かれて一瞬俺は固まった。そこまで深く聞かれるとは思っていなかった。
一瞬また稲葉の事を適当にぼかして話そうかとも思ったが、それではキャラ設定が被ってしまうだろう。
そこで俺は、個人的な俺の好みに基づいて答えることにした。
「見た目は可愛い系で、身長は私よりちょっと低いかな、ちょっと人見知りな所もあるけど打ち解けると話しやすくって、歳は多分、同い年かな……」
自分の中の理想の恋人を思い浮かべて話した所で、俺は目の前に座っている優奈が真顔になっているのに気が付いた。
そしてようやく俺は自分の犯した過ちに気付く、コレは俺の好きな女の子のタイプであって、今優奈が想定しているのは男のはずだ。
というか、女もいけることになったら絶対またややこしい事になる。
「あ、その人は男の子だよ!? 同じ学校の……ちゃんと男らしい所もあるし!」
慌てて俺が付け足せば、今度は優奈が俺を宥めてきた。
とりあえず、突然慌てた言い訳として、以前も他の人に話したら相手は女の子だと思われた。という事にしておいた。
「まあ、そんな人もいますよね……ところで、その、すばるさんの好きな人って、私の知ってる人だったりします?」
なぜか優奈が目を逸らしながら、急にそわそわした様子で聞いてきた。
「え、知らないと思うよ? だって私と優奈ちゃんの共通の知り合いなんて、優司君位でしょ?」
「あー……。うん、そうですね……」
首を傾げながら優奈に尋ねれば、何か歯の奥に物が挟まったような返事が返ってきた。
一体なんだって言うんだ。
その日の夜、珍しく俺の方のスマホに優奈からメールがあった。
なぜか会った事もない、というか、実際には存在しない俺の彼女と俺に学生結婚を強く勧めるような内容だった。
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