第28話 そういう事にしよう
優司とほぼ徹夜で語らったおかげで、結局俺は一時間ちょっとしか眠れないまま、優奈に叩き起された。
朝八時、家族揃って新年の挨拶をし、おせちを食べる。
優奈はお年玉を貰ってテンションが上がっていたが、俺は眠気も手伝ってそれどころではなかった。
親父はそんな俺を見て、大学に上がってお年玉をもらえなくなったのを拗ねていると思ったようで、これは逆に一人前の男として認められたと言う事でもあって……みたいなお門違いの事を言っていたが、眠かったので聞き流した。
「将晴も優司も眠そうだけど、夜更かしは程ほどにね」
と春子さんはなんとなく俺達の様子から今朝は家に帰った後、そのまま寝ずに夜更かししていたらしいと言う事は察しているようだった。
「なにそれ、二人とも私を仲間外れにするなんて……まさか、二人でエッチなDVDとか本とか見てたの!?」
そして俺達が夜更かししていたらしいと知るやいなや、優奈は目を輝かせて食いついてきた。
「なんでちょっと嬉しそうなんだよ」
「それなら私も混ぜてよ」
「いや駄目だろ。違うけども。決してそんな事をしていた訳ではないけども……」
ニヤニヤ笑いながら優奈が俺と優司を交互に見る。
「二人の好みがどんなのか気になる」
「やめて」
興味津々という様子で優奈が尋ねてくる。
というか、新年早々この話題はどうなんだ。
「……僕は清楚系かな」
「なんでお前も答えてるんだよ優司」
眠くて判断能力が下がってるのか、さっきまで黙っていた優司がもそもそと伊達巻を頬張りながら答えた。
「ちなみにお父さんは、髪が長くて、胸が大きくて、優しくて料理上手で、五歳年下の、口元のほくろがセクシーな……」
「もうっ
突然、得意気に父さんが話に割り込んできたと思ったら、にわかに隣の春子さんが照れ始める。
はいはい、春子さん、春子さん。
ちなみに浩くんというのは、春子さんが親父を呼ぶ時のあだ名で、親父の名前は
というか、乗っかるんじゃなくて止めろよ親父。
ここぞとばかりにいちゃつく口実に使いやがって。
「お兄ちゃん、そこの栗きんとん取って」
「ん」
既に興味はおせちに移ったらしい優奈に器ごと栗きんとんを渡す。
我が家では日常となった両親の仲睦まじい光景は、もはや俺達にとってそこまで興味を引かれる物ではなく、下手に絡むと延々と惚気を聞かされる事になるので基本スルーする事が俺達の中では暗黙の了解になっていた。
だけど、こうやって家族で食卓を囲んで下らない話をしていると、ほんの数年前まではこの場にいる五人のうち、三人が他人だったなんて嘘みたいに思える。
昔から兄弟や、両親が揃った家庭に憧れを抱いていた俺としては、今のこの状況は、子供の頃からの夢がそのまま現実になったようでもある。
高校の頃、突然紹介したい人がいると言われて親父に春子さんを引き合わされた時はびっくりした。
思う事は無い訳では無かったけれど、こうなってみると親父には、よくぞ春子さんを口説き落として結婚まで漕ぎ着けた、と言いたい気はする。
そんな下らなくも幸せな気分を味わいながら腹いっぱいにおせちを食べた俺は、太るとは薄々わかっているものの、食後すぐ布団の中へと潜った。
良くないとはわかっているが、どうしてこう腹いっぱいになった後、横になるのはこんなにも気持ちいいのか。
気が付くと、俺は三時過ぎまで寝ており、寝すぎたと思いつつケータイをチェックした。
そして+プレアデス+用のスマホに、優奈からの初詣のお誘いが来ているのに気付く。
ああ、忘れてた。
一気にふわふわと夢見心地だった俺は非情な現実に引き戻される。
メールの文面は普通に、女子二人で初詣行きましょう! みたいな内容だったが、昨日の優奈の様子から察するに、確実に告白してくるだろう。
クリスマスに今度二人で女子会しようなんて言った手前、話が色恋方面に行っても逸らせないだろう。
どうしよう……。
俺は頭を抱えた。
だって、まさか優奈が女という事にしてある朝倉すばるに恋するなんて、思いもしなかった。
特に何も考えず、今付き合っている人はいないと言ってしまったせいで彼氏がいるという事にもできない。
というか、そう答えていれば、最悪稲葉を断る理由に使えたのにと今になって激しく後悔している。
まさか付き合う訳にもいかないので告白されたら断るとして、どう断ればいいのだろう。
昨日の勢いだと、恋愛対象に見られないと言った所で、じゃあそう見てもらえるように頑張りますとかなんとか言って押し切られそうな気もする。
果たして元々押しに弱く乗せられやすい俺に、断りきる事ができるだろうか。
というか、多分そういう時に毅然とした態度を取れるのならば、現在稲葉の彼女のフリなんかしていない。
初詣の日程は、とりあえず、俺が一人暮らししているアパートへ戻った後の日で調整するとして、どうしたものかと俺は考えた。
血は繋がってないはずなのに、優奈と優司の恋したら一直線な様は、親父に近いものを感じる。
そして俺はふと名案を思いついた。
そうだ、すばるにも他に好きな人がいることにすればいいんだ。
だから、今は他の人とのお付き合いは考えられません。そう言えばいい。
とにかく、当日はそういう事にして押し切ろう。
対策を思いついて再び心の平穏を取り戻した俺は、再び布団の中に潜って二度寝する事にした。
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