第25話 つ ら い
「最初はね、私のこと応援してくれてるんだと思ってたの。だけどね、実は優司もすばるさんの事が好きだったのよ!」
むくれたように言う優奈に、俺の顔は凍りつくを通り越して菩薩のような顔になっていた。
どうやら優司の想い人の相手も、俺で確定らしい。
つ ら い 。
「それでお互い、応援はしないけど邪魔もしないって約束して、今に至るの。お兄ちゃんは私の味方だよね!?」
「うーん、どうだろう……」
「やっぱりお兄ちゃんも女同士は駄目って言うの……」
俺が答えに困り言葉を濁していると、優奈は泣きそうな声で俯いてしまった。
「い、いや、俺は本人同士が良ければそれでいいと思うけども……」
「じゃあ、お兄ちゃん的にはすばるさんにも私を好きになってもらえれば問題ないのね!」
慌てて俺がフォローを入れれば、ものすごい勢いで優奈が顔を上げて目を輝かせた。
「ま、まあ……」
「それじゃあ私、すばるさんにも私のこと好きになってもらえるように頑張るから、お兄ちゃんも相談とかに乗ってね!」
「お、おう……」
にじり寄ってくる優奈の勢いに押されて後ろに下がろうとすれば、その瞬間、ものすごい勢いで俺の右腕を優奈に掴まれた。
「ありがとうお兄ちゃん! お兄ちゃんならわかってくれると思ってたわ!」
掴んでいた俺の右腕から手を下に移動させ、俺の右手を両手でがっしりと掴んだ優奈は、満面の笑みでそう言った。
そんな妹の輝く笑顔に、俺は自分の顔が引きつるのを感じた。
そうしてなんだかんだ優奈に捕まって色々と話しているうちに、夕食の時間になり、俺達は家族で年越しそばを食べた。
それから皆でテレビを見ながら雑談をしたりしつつ、年明けが近づいた頃に近所の神社に家族で初詣をし、帰ってきてからは解散してそれぞれ寝る準備をし始めた。
自室でさあ後は寝るだけとなった時、ドアがノックされ、優司がちょっと話があるんだけど、と俺を訪ねて来た。
俺、優司、優奈の部屋は三つとも二階にあり、真ん中の俺の部屋の左右にそれぞれ優司と優奈の部屋があるのだが、壁が薄いので俺の部屋で話しては優奈を起してしまうだろうという事で、俺達は優司の部屋へと移動した。
そして優司の部屋に入った時、俺は絶句した。
天井や壁にでかでかとポスターが貼ってある。
元々優司の趣味は知っていたので、アニメキャラのポスターとかならまだ受け入れられた。
優司の部屋に貼ってあったポスターは、全て女装コスプレしている時の俺の写真だった。
恐らくネットで流れていたのであろう俺のコスプレ写真をポスターサイズまで引き伸ばして貼っている。
というか、どうやって印刷するんだ、このサイズ。しかもやたら画質も良いし、まさか印刷屋に特注……そこまで考えて、俺はこの部屋のポスターについて深く考察するのはやめた。
アイドルやアニメキャラのポスターならまだ受け入れられたのに……!
今俺は女の格好なんてしていないのに、なぜか身の危険を感じるレベルでキツイ。
「話っていうのは、兄さんの知り合いの、朝倉すばるさんって人についてなんだけど……」
俺に勉強机の椅子に座るように促し、自分は向かい合うようにベッドに腰掛けた優司は、まるで重大な秘密を打ち明けるような面持ちで口を開いた。
「うん、なんとなく予想は付いた。つまり優司は朝倉の事が好きなんだろ?」
「え、なんでわかったの?」
「いや、この部屋見て逆になんでわからないと思ったんだよ」
心底意外そうな顔をした優司に、思わずつっこむ。
「すばるさんは、本当に素敵な人なんだ」
「あー……うん、とりあえず話を聞こうか……」
照れたように言う優司を前に、俺の顔は再び菩薩のようになっていった。
そうして俺はまた、優奈同様、優司の話をひたすら聞く作業に入る。
過程の話やその時の感情等でしょっちゅう話が脱線する優奈とは違い、優司は、いきなり過程をすっ飛ばして結論だけ言って、短い言葉で説明を終了しようとする。
なので、俺はその都度どうしてそうなったのかその時どう考えてそう行動したのかを何度も聞き返してその過程を頭の中で再構築する必要があった。
そして優司は結構気になる部分もあっさりと話して終わるので、逆に俺が気になり、本筋とあまり関係ない部分まで俺は気になって尋ね、優司も聞かれれば普通に答えるので、結果としては、優奈の時よりも話が脱線した。
最終的に話し終わる頃には初日の出が上っており、俺は今まで謎だった優司の人となりをなんとなく掴む事ができた。
少し、優司とも仲良くなれた気もする。
今後の優司や優奈の対策を練らなければならない事を考えれば、むしろ重要な情報を得られたと思うべきだろう。
そうして俺が新年早々の寝不足と引き換えに手に入れた優司の情報を時系列に並べ直すと、こういう事になる。
優司は、元々子供の頃から絵を描いたりアニメや漫画を見るのが好きだったらしい。
成長してもそれは変わらず、そのうち自分でイラストを描いたり漫画を描いたりするようになったらしい。
そんな優司の将来の夢は漫画家で、それを中学に上がった頃、春子さんに話したら、大学までは何とかして通わせてやるので、それまでに芽が出なかったら普通に就職して、それでも諦め切れなかったら、働きながら描きなさいと言われたそうだ。
そこで優司はなんとしても学生の内にデビューしてやるといくつかの新人賞に応募してみたが、落選続きで、良くて奨励賞止まりだったそうだ。
共通して言われたコメントは、『勢いはあるが、何がやりたいのかわからない』や、『キャラクターに魅力が無い』だったそうだ。
それでどうしたものかと悩んでいた頃、優司にとある出会いがあった。
同じクラスの男子で、席が彼の後ろになった時、授業中に彼が読んでいた漫画が自分も好きなものだったので、休み時間に話しかけたのが仲良くなったきっかけだったらしい。
彼はいわゆる萌え豚というやつで、その漫画を普通に冒険物として読んでいた優司とは全く違う目線で、サブヒロイン的立ち位置のキャラの魅力を休み時間中熱く語ったそうだ。
普通だったらドン引きしそうな所だが、優司は違った。
これ程までに人を魅了させるという事は、つまりこのキャラは魅力のあるキャラクターということに違いない。
そして彼の言っていた、細かいストーリーなんて関係ない、全てはキャラクターの魅力を引き出すための装置に過ぎない。
最悪ストーリーなんて無くても女の子が可愛くて魅力的ならそれで良い。という言葉は当時の優司にとってかなり目から鱗の意見だったようだ。
それ結構偏った意見なんじゃないかと俺は思うが、優司はその言葉に感銘を受け、後日彼に自分の描いた漫画を見せ、意見を求めた。
言われたのは、『圧倒的に萌えが足りない』だった。
その後彼は優司に萌えの何たるかを語り、特におすすめの漫画を優司にかしてくれたそうだ。
彼曰く、人の萌えポイントと言うのはそれぞれツボが違うので、まずは色んな作品を見て自分が最もときめいた物を分析してみるのが自分の嗜好を探るには一番効率が良いらしい。
そして一つの萌えが解ってくれば、だんだんと他の萌えも解ってくるのだという。
見た目的な嗜好だと、色んなタイプのキャラクターを並べてどれが一番好みか選ぶのも良い。
更にその後彼とやった、その見た目しか知らないキャラクターに自分の好きな設定を付けてみるという遊びをしながら、己の嗜好を探り、自分はどうやら包容力溢れる年上お姉さんや、いわゆる合法ロリと言われるような、見た目は幼いけど実は年上というギャップに萌えるのだと気付いたらしい。
話を聞いていると、その遊びは結構面白そうで、ちょっと俺はその友人と話してみたい気もしてきた。
とにかく、そんな彼の助力もあり、優司は己の萌えに気付き、更にその萌えに合わせて絵面もかなり変わったそうだ。
友人に出会う前の優司の絵を見せてもらえば、粗い面もあるが、バトル物の少年漫画によくありそうな絵面だった。
友人に出会った後では、見る影もなく皆同じ顔の萌え絵になっていた。
更に現在の優司の絵は、その萌え絵路線だが画力も上がり、顔の描き分けもできている、プロレベルの萌え絵へと洗練されていた。
しかしここで様々な弊害が出てくる。
友人の勧めで二次創作を始めたらそっちの方が楽しくなってしまい、オリジナルの作品をあまり描かなくなってしまった事だ。
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