第24話 俺のせいだった
おせちの下ごしらえが終わり、大体の片付けも終わると、俺は特にやる事も無くなり、居間でこたつに入りながらだらだらする事になった。
優司と優奈はそれぞれ部屋でやる事があるからと自室に引っ込んでしまった。
優奈が戦利品の整理とか言ってたので、冬の聖戦で手に入れたものだろうかと考える。
ちなみに+プレアデス+は、実家に帰省することにして不参加である。
稲葉がらみのごたごたでそれどころではなかったというのが大きい。
妹と弟の事も気になるが、稲葉の方もどうしたものだろうか。
こたつに入って特に何をするでもなくテレビを見ていると、作業を終えた春子さんと親父も後から入ってきた。
テレビを見ながら、大学の話だとか、親父達の近況だとか、取り留めの無い世間話なんかしていると、しばらくして優奈がやってきた。
そのまま優奈にちょっといいかと呼び出され、何かと思って付いていけば、優奈の部屋に招かれた。
優奈に促され、言われるがままに水色の大きなクッションの上に腰を下ろす。
向かい合うように、優奈は色違いの黄緑のクッションを抱えて座った。
「お兄ちゃん、さっき私好きな人いるって言ったよね、お兄ちゃんは応援してくれる?」
クッションに半分顔を埋めながら、優奈が上目遣いでこちらを伺ってくる。
この妹の言っている相手が女装した俺かもしれない訳でなければ、俺も応援してやりたい所ではあるが……まずは相手が本当に俺なのか確認する必要があるだろう。
「相手の事がわからないからまだなんとも言えないけど、特に変な奴とかじゃない限りは応援したいと思うが……」
「そう、じゃあ今からその人について説明するね。同じ大学だし、多分お兄ちゃんも知ってるはず。朝倉すばるさんって人なんだけど……」
確定だった。
もう言い逃れのしようも無く、優奈の片思いの相手は女装した俺だったようだ。
「えっ、ああ、うん。知ってはいるけど……その、優奈の恋愛対象は女の子、なのかな?」
予想はしていたが面と向かって言われると、流石に動揺するもので、自分で自分の口調が迷子になる。
とりあえず妹の嗜好をを探ってみる。
「男の子を好きになる事もあるよ?」
「そ、そうか……」
両刀だった。
もうなんとコメントしていいのかわからない。
「まあでも、すばるさんが男の人じゃないとって言うなら、性転換も辞さない」
優奈の目が据わっている。コレは本当にやりかねない目だ。
重い……! 思った以上に妹の俺に対する愛が重い!!
一体何が優奈をそこまで駆り立てるのだろうか。
「ま、まあ、性転換うんぬんは今は置いといて、なんでそんなにす……朝倉が好きなんだ?」
すばる、と言いかけて苗字に言い直す。
なんで下の名前で呼んでるんだと聞かれてもやっかいだ。
「ところでお兄ちゃん、すばるさんが+プレアデス+って名前でやってる趣味の事知ってる?」
「コスプレの事か? そんな名前で活動してるとは聞いたことあるが」
本人なので、そもそも知らないわけがないのだが、そんな事を言う訳にもいかないので、なんとなく知っている程度にぼかしておく。
「最初は、ネットで流れてた+プレアデス+のコスプレ写真を見て、可愛いな~って思って、色々調べてブログを見たり、ツイッターでフォローしたりするようになったんだけど、ほんともう……すばるさん知れば知るほど可愛くて優しくて美人で家庭的で……」
話していくうちに、優奈がどんどん興奮した様子で鼻息も荒くなっていく。
「よし、一旦落ち着こうか優奈。それじゃあ、その知れば知るほどそう思ったきっかけとか教えてくれないか?」
優奈の話を一旦遮り、落ち着かせてから、順を追って説明するように促す。
それから度々テンションの上がった優奈が話を脱線させたが、根気強く話題を戻して話を聞いて解ったのが次の事だ。
まず、優奈が初めて+プレアデス+の存在を知ったのは高校一年生の頃で、まとめサイトに転載されていた俺のコスプレ写真を目にしたのがきっかけだそうだ。
それから俺のブログを調べ、コスプレ写真だけでなく他の好きな漫画だとか自炊した料理だとかの記事を読んでいく内に、見た目だけでなく俺本人へも好感を持ち始めた。
それからしばらくはブログやツイッターの発言等を見ているだけだった優奈だが、やがて、コスプレ自体にも興味を持ち出す。
優司の影響で二次創作の同人誌即売会やコスプレイベント等の存在を知っていた優奈は、ある日優司にコスプレを見れるイベントに行ってみたいので、もし予定があれば連れて行ってくれないかと頼んだ。
そして優司が一般参加する予定だったとあるアニメのオンリーイベントに着いて行った優奈は、そこで偶然同じクラスのあまり話した事ない女子がコスプレをやっている姿を目撃し、その後意気投合し親友となった。
今まで見たことないアニメだったが、優司に録画していたアニメと漫画を見せてもらい、すっかり原作にもはまってしまった。
それまでは漫画やアニメを見るだけの比較的ライトなヲタクだった優奈は、優司と親友の手により、当然のように二次創作作品を読み漁り、仲間内だけであるが、自らもコスプレする、いわゆるディープなヲタクへと進化を遂げた。
おかげで、中学の半ば辺りから仲がギクシャクし始めていたていた優司とはすっかり昔のように仲良くなり、高校でも今までとは違ったタイプの友人ができ、ヲタ方面に充実した毎日を送るようになったらしい。
そして優奈が高校二年になった頃、これまで個人で撮ったコスプレ写真をブログやツイッターで公開するだけだった+プレアデス+が、イベントにも参加するようになった。
その時、今まで憧れるだけだった+プレアデス+という人間に、もしかしたらイベント等で実際に会えるかもしれないと思った瞬間、優奈は今までに無いような興奮を憶えた。
多分、憧れのアイドルに会える。
みたいなものだったんだと思う。
それから優奈は、ずっと見るだけだったツイッターで、思い切って+プレアデス+に話しかけてみた。
思った以上に気さくな人で、今まで+プレアデス+の趣味を完全に調べ上げていた優奈は、それから+プレアデス+の食いつきそうな話題をふったりして、急速に+プレアデス+との距離を詰めていった。
まあ、俺としてはツイッターに上げている写真と発言から、すぐに相手は優奈だと特定したので、むしろその時進んで距離を縮めようとしていたのは+プレアデス+の方かもしれないが。
その後、+プレアデス+が参加するという予定だと言ったイベントに、自分も参加しようと思い立つも、残念な事にその日は優司も友人達も都合が悪かった。
だが、どうしても+プレアデス+本人に会いたい優奈は、一人でもそのイベント参加しようとした。
すると心配したらしい+プレアデス+が、当日一緒に行動してくれる事になり、更に合わせコスまでしてくれた。
極度の興奮と緊張のせいか、その日のことはあまり優奈は憶えていないらしい。
「ただ、イベント帰りに二人で喫茶店に寄って話した時の事はしっかり憶えてて、その時、あ、私、実は女の子もいけるんだなって気付いたの」
はにかみながら、うっとりと話す優奈を前に、俺は凍り付いていた。
妹に新しい扉開かせたの、俺だった。
俺のせいだった……!!
優奈は幸せそうにスマホの待ち受けにした、女装姿の俺とのツーショット写真を自慢しているが、俺はその写真の優奈とは反対側には優司がいて、本当はスリーショット写真だった事も知っている。
そんな事は絶対に言える訳ないのだが。
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