第3章 心磨り減るクリスマス

第17話 シンクロ

 十二月二十四日、俺は朝から張り切っていた。

 今日はすばるの家、正確には俺が稲葉から借りているマンションの一室だが、そこで優奈と優司を招いてクリスマスパーティーをする。

 優奈にはケーキを、優司にはチキンを買ってきてくれるように頼んであるので、俺は他の料理や飲み物を用意する。


 飲み物はコーラとオレンジジュース、ウーロン茶辺りでいいだろうか。

 料理はケーキやチキンがあるので、見栄えが良くて美味しそうなパーティーフードを邪魔にならない程度に作ってみた。

 レシピは全てネットで評判の高かったものだから、多分大丈夫なはずだ。


 料理の準備だけでなく、家の表札やトイレのサニタリーボックスなど、カムフラージュを完璧に整え、やる事が無くなった俺は、一人そわそわしていた。

 家に誰かを呼んでパーティーをするなんて初めてで、昔から憧れていた事もあって落ち着かなかった。


 優奈は約束の時間ちょうどにやって来た。

「メリークリスマスです、すばるさん! ケーキなんですけど、クリスマスっぽくブッシュドノエルにしてみました」

 会って早々元気いっぱいの優奈をリビングに招く。

 優司が一緒にいないのは、ここに来る途中で別々の店に寄ってくるからだろう。


「わぁ~、すばるさんの部屋、超可愛いですね」

「恥ずかしいからあんまり見ないで……ここに来るまでに迷わなかった?」

「全然ですよ~すばるさんの送ってくれた地図と説明、解りやすかったですもん」

 はしゃぎながら部屋を見回す優奈からケーキを受け取り、箱から出してテーブルの上に置く。


「良かった、優司君も迷わないで来てくれれば良いんだけど」

 このマンションは駅からは近いが、道がわかりにくいので心配だったと笑えば、優奈はきょとんとして言った。

「優司なら来ませんよ?」

「え?」


 俺は言葉の意味が解らず、優奈の顔を見た。

 優司にはちゃんと時間も場所も送ったはずである。


「あ、もしかして、すばるさんは私が優司と来ると思ってました?」

 優奈のその言葉に頷けば、困ったように優奈は笑った。

 そして静かに俺の左手を取った。


「私は、すばるさんと二人でクリスマスを過ごしたかったんですけど……」

 俺の左手を両手で包み込むようにして持った優奈が、頬を染めながら言う。


 可愛い。

 俺が今、朝倉すばるとして向かい合っていなければ、うっかり勘違いをしていた所である。

 危ない。


「すばるさんは、前に付き合ってる人はいないって言ってましたよね……今もそう、ですか?」

 耳まで真っ赤になり、俯き加減にもじもじしながら話す優奈を見て、俺はようやく合点が言った。

 つまり優奈は、いわゆる女子会というものをしたかったのだろう。

 そして自分より年上で恋愛経験のありそうなすばるに恋愛相談をしたかった……ということに違いない。


「優奈ちゃんは、好きな人がいるの?」

 そう尋ねれば、優奈は驚いたように顔を上げた。

 図星のようだ。


「はい……その人はっ」

 しばらくの沈黙の後、意を決したように口を開いた優奈の言葉を遮るように、下の入り口のインターホンが鳴った。

 優司だった。


 せっかく何か言いかたところだったが、この話はまた今度聞かせてもらうことにしよう。

 俺は優奈に申し訳なく思いつつ、下の自動ドアのロックを解除して優司を招き入れた。

「ごめんね、私てっきり優司君も一緒に来るものだと思って招待しちゃったの。女子会はまた今度しましょ。恋愛相談も私でよければいくらでも乗るし……まあ、私の意見が役に立つかはわからないけれど」

「えっ」


 優奈が面食らったように固まった所で、今度は玄関の方の呼び鈴が鳴った。

「いらっしゃい優司君、待ってたわ。迷わなかった?」

「少しだけ……」

 話しながらリビングに優司を案内する。


「……」

「……」

 優司がリビングに入ると、優司と優奈はしばらく無言で見つめあい、室内に沈黙が流れた。


「ええっと、私てっきりいつもみたいに三人でクリスマスパーティーしようって事かと思っていたのだけれど……」

 まさか優司の方も俺と二人きりのつもりだったのだろうかと思っていると、

「まあ、そんな事じゃないかなとは思ってましたけどね」

 鼻で笑うようにそう言った後、優司はテーブルの方に目をやった。


 テーブルの上には三人分の取り皿とコップ、料理とジュースが並んでいる。

「……もうっ! そのチキン私の分もあるんでしょうね?」

「まあね」


 どうやら優司の方は最初から三人でやるものだと思っていたらしい。

 で、この様子だと優奈の勘違いに前から薄々気付いていたのかもしれない。


 それから俺達は気を取り直してジュースで乾杯した。

「あ、そうそう、二人にクリスマスプレゼント用意したんだよ。喜んでもらえるといいんだけど」

 なんとか機嫌を直してもらおうと、俺は乾杯して早々に二人に用意していたプレゼントを渡した。


 優奈にはコスプレ用に、肌を焼かずに数日だけ肌を小麦色にできるセルフタンニングローションを、優司には漫画を描くときに使えそうな、少し前に話題になったどのページも180度見開きになる方眼ノートの五冊セットを用意した。

 二人とも結構喜んでくれたので一安心していると、優司と優奈からもそれぞれ小さな包みを渡された。


「私も、すばるさんにプレゼント持ってきたんですよ! あ、包みは私が帰ってから開けてくださいね」

「……俺のも後で開けて下さい」

 中身はとても気になったが、二人にそう言われたので中身は後で見ることにした。

 クリスマスにプレゼント交換なんて、小学校の時以来でとてもワクワクする。

 

 その後は普通に三人で談笑ながらケーキやチキン、料理を食べたり、ゲームをしたりして楽しく過ごした。

 やがて日も暮れて七時近くになった頃、そろそろお開きにしようという事になった。


「今日はありがとうございました! 料理、とっても美味しかったです」

「ご馳走様でした。……その、楽しかったです」

 玄関で優奈と優司に謝辞を述べられて、少し照れくさく思いつつ、

「私も今日はとっても楽しかったわ、来てくれてありがとうね」

 と二人を見送った。


 そのうち朝倉すばるではなく、普段の俺の方でも二人とこれ位距離を縮められたらなと思う。

 リビングに戻った俺は、早速二人から貰ったプレゼントの包みを開けてみる事にした。


 優奈から貰った包みの中身は、白の丸い石と細かい細工が施された綺麗なストラップだった。


 優司から貰った包みの中身は、白の丸い石と細かい細工が施された綺麗なストラップだった。


 ……二つとも同じ品だった。


 これは流行っているのだろうかと首を傾げつつ、一見全く正反対のように見えて、メールを送ってくるタイミングといい、二人とも妙な所でシンクロするなと俺は思った。


 二人に貰ったストラップは並べてるうちにどちらがどちらから貰ったものかわからなくなってしまったが、せっかくなので一つは+プレアデス+用のスマホに付けてみる。

 結構細かいアンティーク風の装飾をされたチャームを見ながら、コレはなかなか良い物だと俺は一人ほくそ笑んだ。


 正直、使うのももったいないくらいだ。

 よし、もう一つは保存用にしよう。

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