第15話 シメてただけよ

「これ、叔父さんの家から送られてきた米」

 そう言って優司が持っていた手荷物をちゃぶ台の上に置く。


「ああ、ありがとう」

「……」

「……」

「……」


 俺が米を受け取って礼を言うと、その場は沈黙に支配された。

 現在、俺と優司と一宮雨莉はちゃぶ台を囲んでいる。

 誤解を解きたくて、帰ろうとする優司を半ば無理矢理部屋に招き入れたが、どう説明したものだろうか。


「……母さんが、夏休みは一回も家に帰ってこなかったけど、せめて年末年始位は顔出して欲しいってさ。電車で一時間位の距離なんだからたまには帰ってきなよ」

俺が考えていると、先に優司が口を開いた。


「はは、行こうとは思ってても、なかなかタイミングがわからなくて……」

「別にいつでも帰ってきたらいいじゃん、兄さんの家でもあるんだし」

「優司……」

 もうあの家は母さんや優司、優奈のものなような気がしていて、本当は帰ったら鬱陶しく思われるんじゃないだろうかと思っていた。

 そうか、いつでも帰っていいのか、と俺は妙な気恥ずかしさを覚えた。


「まあ彼女とよろしくやってて忙しいって言うなら別にいいけどね」

「いや、違うんだ優司、一宮とはただの友達で……」

 しかしそんなちょっとした感動は次のちらりと雨莉を見やった後の優司の言葉であっさり吹き飛ぶ。


「何々、修羅場?」

「違うから!」

 そして何を思ったのか一宮雨莉は目を輝かせた。

 頼むからこれ以上話をややこしくしないでくれ。


「え、彼女じゃないんですか?」

「うん違うよ~私も鈴村君もそれぞれ恋人いるし」

「つまり、恋人いるのにあんなことを……」

 誤解を解いたら新たな誤解が生まれた。


「誤解だ! アレは……」

「鈴村君が私の恋人に要らぬ心労をかけてたから、ちょっとシメてただけよ」

 俺が言いよどむと、隣から一宮雨莉が清々しい程笑顔で物騒な補足を入れた。

 いや、間違ってはいないが……。


「え」

「ええっと……一宮とは高校の頃からの付き合いで、昔からこういうノリなんだ!」

 固まる優司に、これは気心の知れた内輪同士のノリだという体で説明をする。

 本当は高校時代、そんなに話をした事は無かったのだが、一宮雨莉は高校時代から誰に対してもこういう物騒な性格だったので、嘘は言っていない。


「……というか兄さん、恋人いたの?」

「今年のクリスマスは恋人とイチャイチャして過ごすのよね」

「えっ、ああ、まあ……」

 優司の問いかけの後、間髪入れずに先程の話を蒸し返してくる一宮雨莉のせいで、俺は否定するタイミングを逃してしまった。


「彼女ってどんな人?」

「どんなって……友達付き合いは中学からあったけど、付き合いだしたのは最近かな」

 仕方が無いので、優司からの質問に、稲葉の事を性別をぼかして答える。


「最近その子のお姉さんにも気に入られて鼻の下伸ばしてたのよね」

「伸ばしてねえよ、どうしてそうなった」

 目だけ笑ってない笑顔で一宮雨莉が囃し立ててくるが、これは絶対肯定したら駄目なやつだと俺は本能的に察知した。


「鈴村君、その子とお姉さんをもし泣かせたら、その時は……」

「こ、心得ております……」

 社会的にも精神的にも肉体的にも最大限の苦痛を与えて殺されるんですよね、知ってます。

 こいつなら本当にやりそうで恐い。


 そして多分、一宮雨莉の中では『その子』を泣かせると『お姉さん』が泣くから、ついでに保護対象に入れてる感じなんだろうな、とは思った。

 そもそも、俺は別に稲葉とはそんな関係ではないのだが。


「ちょっと鈴村君、ストーカーと化してたその子の歳の離れた自称婚約者を追い払ったからって、いい気にならないでね」

「なってねえよ、それにあれはまだ完全には油断できない状態なんだからな」

 未だに俺と稲葉のSNSを監視しているらしいしずくちゃんを思い出す。

 彼女は何がしたいのだろう。


「あらそうなの? それじゃあしっかり守ってあげてね」

「まあそのつもりではあるが……」

 泣かせたら許さないと言う割りに、一宮雨莉は稲葉に対しては大分他人事な様子だった。 

 とりあえず稲葉の婚約者関係は、今後このまま何も起こらないでいてくれたらいいのだが。




 今朝起きた時、俺はふと考えた。

 今後、稲葉の恋人役を続けるのなら、稲葉から借りている部屋を朝倉すばるの家として使った方が何かと便利じゃないかと。

 そして今朝、優奈からメールが来た時思った。

 朝倉すばるに家があるのなら、その家に彼女の客を呼んでも何も問題は無いのではないか。


 つまり、朝倉すばるが自分の家に友人を招いてクリスマスパーティーをしてもいいはずだ。


 優奈にその事を打診してみれば、すぐにその案は採用された。

 二十四日は優奈と優司を例の部屋に迎えてクリスマスパーティーだ。

 俺はそう思っていた。


 しかし、優司や一宮雨莉も帰り、特にやる事もなくだらだらしていたその日の夕方、優司から+プレアデス+のスマホの方に、今朝優奈からもらったのと同じような内容のメールが届いた。

『すばるさんは、今月の二十四日予定開いていますか? もし良かったら、僕と一緒に過ごしてくれませんか』


 あれ、まだ優奈から話聞いてないのだろうかと首を傾げつつ、俺は優奈に送ったのと同じ時間と場所を伝えてパーティーに招待した。

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