第14話 どうしろって言うんだ

 食事に行った翌日の夜、俺は稲葉をすばるの家に招き、稲葉が酔いつぶれた後の出来事について話した。

「うわぁ……マジか……」

 と稲葉も頭を抱えていた。


 あの後、一宮雨莉からは特に連絡はないが、連絡がきたらきたで何させられるかわかったもんじゃないので、できればずっと来ないで欲しい。

 稲葉も、今の所一宮雨莉は積極的に俺の秘密をバラそうとはしていないようなので、今は様子を見るしかないだろうと言っていたが、おかげで俺は常にスマホが鳴る度に怯える日々を過ごしていた。


『すばるさん、今月の二十四日、開いてますか? もし良かったらすばるさんとクリスマスパーティーしたいなって……』

 そんな時だった。優奈から今度一緒にクリスマスパーティーをしないかと誘われたのは。

 メールが届いたのは、一宮雨莉に俺の正体がバレて数日後の事だった。

 今まで優奈と会う時はほとんど優司とセットだったので、今回も優司が一緒に来るのだろうと俺は思った。


 稲葉の彼女のフリで精神的にかなり疲れていた俺は、二つ返事で優奈の申し出を了承した。

 女装した姿ではあるが、妹や弟達とただ趣味の話をしながら、数日前の出来事や、そのパーティーの翌日に控えている小林家クリスマスパーティーの事など忘れて楽しく盛り上がりたかった。


 場所や時間はどうする等のやり取りを終えた頃、俺のアパートの呼び鈴が鳴った。

 通販の受け取りだろうかと何の疑いもなくドアを開けるとそこには、悪魔、じゃなかった、一宮雨莉が笑顔で立っていた。

 なぜ俺の一人暮らししている住まいの住所がバレているのか。


「おはよ、鈴村君」

「お、おう……」

 すぐにドアを閉めて鍵を閉めたい衝動に駆られたが、そんな事をしたら後が恐いのでぐっと堪える。


「外寒いから上がらせてもらってもいいかしら?」

「ああ……」

 一応言葉の上では尋ねているが、実際の所俺に拒否権は無いので機嫌を損ねる前に一宮雨莉を部屋に招き入れる。


「それで、今日は何の用なんだ」

 ちゃぶ台の前に一宮雨莉を座らせ、インスタントのコーヒーを出しながら尋ねる。


「実はこの前の食事会の時に、すばるちゃんが貧乳だなんだって話になったでしょ? その後顔も合わさずに帰ったものだから、咲りんがあの後もすばるちゃんに嫌な思いをさせてしまったとか、稲葉と気まずくなってないかって心配してるのよ」

「ああ、あれか……」

 一宮雨莉の前に腰を下ろしながら、数日前の事を思い出す。


 一応酔った美咲さんに胸を揉まれたことがきっかけではあるが、俺としてはあの後一宮雨莉にされたことの方が衝撃過ぎてすっかり忘れていた。

 というか、本当の女子だったら気にするかもしれないが、そもそも俺は男なので胸が膨らんでいる方がおかしいのだが。


「俺は全く気にしてないけど……」

「でしょうね。でも咲りんは気にしてるのよ」

 俺の言葉を遮るように一宮雨莉が言った。


「どうしろって言うんだよ……」

「そうね、とにかく稲葉とラブラブアピールをしつつ、二十五日のパーティーで楽しそうにしてれば咲りんも安心すると思うわ」

「クリスマスパーティーはともかく、それまでは会わないんだからアピールなんてしようが無いじゃないか」

「あるでしょう? 稲葉のSNSでデートでどこに行ったとか、お揃いの何かを買って写真を載せるとか、直接咲りんに惚気メールや恋愛相談メールを送ったら良いじゃない」

「いや、流石にそれは気色悪いというか……」


 言いかけた瞬間、俺は畳の上に引き倒さた。

 一宮雨莉は無駄の無い動きで俺に馬乗りになってマウントをとりつつ、右手で首を絞めた。

 女の細腕と思うかもしれないが、重心を移動して首に体重をかけてくるので無茶苦茶苦しい。

 ちょうどその時、また部屋の呼び鈴が鳴った。


「誰か来たみたいだ、出ないと」

「それがどうしたのよ、今は私と話しているでしょう?」

 両手で一宮雨莉の腕を掴んで何とか気道を確保して、声を絞り出す。

 なんとかこの状況から抜け出す口実が欲しかったのだが、一宮雨莉はそれがどうしたといった様子でびくともしない。


 何とか首にかかる重みから逃れようと身体をよじれば、するりと冷たい手が俺の服を捲り上げるように下から入ってきた。 

「咲りんはね、随分とあなたの事を心配してたのよ。恋人である私を放っておいて酷い話よね?」

 少し間を置いて、もう一度呼び鈴が鳴った。

 多分通販の配達だ。申し訳ないが後でまた来てもらうしかないだろう。


 俺の胸板を撫でながら、殺意の篭った目をした一宮雨莉が口だけ笑いながら顔を近づけてくる。

 すると更に体重が腕にかかり、俺の首が絞まる。

 たまらず足をバタつかせて一宮雨莉の身体を跳ね除けようとした瞬間、ガチャリという音が聞こえ、玄関のドアが開いた。

 そういえば、鍵はかけていなかった。


 ちなみに俺の住んでる部屋は玄関のドアを開けるとすぐに居間まで見渡せる間取りになってる。

 何が言いたいかというと、ドアを開けた人物には今のこの状況が丸見えになる訳だ。


「!? …………あー、ゴメン、また出直す」

 開いた玄関扉の先には、手荷物を持った優司の姿があった。


 畳の上に押し倒されている俺、そしてその上に跨る女、そしてその片方の手は俺の服の中へと差し入れられている。

 ……プロレスごっこじゃ、ごまかせそうにない。

 明らかに今から致そうとしているようにしか見えない。


 慌てて去ろうとする優司を俺が引き止める後ろで、

「なあに、他に男がいたの?」

 と俺の耳元でボソッと聞こえた一宮雨莉の声が聞こえ、ますます優司に変な誤解を与えた気がしてならず、どうしてこうなったと俺は一人心の中で叫んでいた。

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