第47話 ざまあ!
三月、メルティードールのブランド発表がされ、+プレアデス+の出演しているCMが公開された。
CMの間中、+プレアデス+が様々なシーンで過ごす度に、くるくると衣装が変わる、全体的にメルヘンな雰囲気の物だった。
やはりプロのスタイリストさんや監督達の技やセンスというのはすばらしく、俺が見てもCMの中の+プレアデス+は人形のように可愛らしく、キラキラと輝いて見えた。
CMは好評で、放送後に「CMに出ているあの可愛い女の子は誰だ」という問い合わせが殺到したらしい。
そして、美咲さんの指示でブランド発表後メルディードールのイメージモデルを始めたと公表した俺のブログとツイッターのアクセス数やフォロワー数は、CM放送後、バグったような数字になっていた。
「あのCMに出てくる女の子はコスプレイヤーだった!」
という話題作りにもなったようで、それからしばらく+プレアデス+はちょっとした時の人となった。
俺としては、まさかここまで話題になるとは思っておらず、多少+プレアデス+の知名度が上がる程度かと思っていたのだが、まさかの大反響で嬉しい反面、少し恐くなる。
美咲さんは+プレアデス+を若い世代の女の子の憧れのような存在にしていきたいらしく、親しみやすさを持たせるためにも、今まで通り、ツイッターやブログにはコスプレや手作りの料理やお菓子の写真を積極的に載せていってほしいと言われた。
その一方で、その日常生活を彩るメルティードールの服や小物をちょいちょい入れるようにとも指示がくる。
以前一宮雨莉に言われたインスタグラムも、そのためのものだったようだ。
「まずは話題になることは成功したけど、ここで興味を持ってくれた人達を逃がさないためにも、本当に大切なのはこれからね。すばるちゃんもこれから忙しくなるから、覚悟しておいてね!」
声を弾ませながら美咲さんは言った。
これから忙しくなる……俺は何か嫌な予感がしたが、きっと通販の写真撮影の事だろうと自分に言い聞かせた。
流石に、これ以上+プレアデス+の知名度が上がると、引っ込みがつかなくなりそうだ。
最近すっかり女装が板についてきた俺だが、流石にこれからずっと朝倉すばるとして生きていくのはごめんだ。
ブランド発表がされた現在、俺の部屋には美咲さんから送られてきた大量のメルティードールの服や小物が溢れている。
美咲さんに頼まれた、今日のコーディネート写真用の服だ。
毎日一枚、メルティードールのアイテムを使ったコーディネートの服の写真を上げるのだが、広告費用という事で、送られてきたメルティードールのアイテムは全て美咲さんが経費で落としてくれた。
流石に毎日いちいち用意するのは手間なので、俺は一日に何日分か撮って、それを毎日一枚ずつ公開することにした。
一応別の日という設定なので、服だけでなく、髪型等も変えて撮るのだが、これがまた楽しい。
送られてきたメルティードールのアイテムに、手持ちの服やアクセサリーをあれこれ合わせてみると、中々止まらなくて、気が付いたら何時間も一人ファッションショーをやっていたりする。
何が問題かって、楽しいのだ。ものすごく。
慌しい日々に充実感を感じつつ、俺は同時に焦りも感じていた。
既に、真実を公にすると俺だけでなく、色んな人に迷惑をかけるレベルまできてしまっている。
もう絶対に周囲には+プレアデス+は男だという事は言えないし、悟られてはいけない。
こうなったら、メルティードールの契約期間が終るまでなんとかしのぎ、世間のほとぼりが冷めた頃にフェードアウトするしかないだろう。
どうかボロを出さないよう、俺の知名度がこれ以上は上がりませんように。でも、メルティードールは人気ブランドになりますように。と、俺は若干矛盾しているかもしれない願いを何とはなく願った。
稲葉曰く、現在大学の友人達の間で、「メルティードールのCMに出てたあの子、前に稲葉とデートしてた子じゃね?」と、俺の事が密かに話題になっているらしい。
「この前の女装コスプレの画像、+プレアデス+のツイッターを遡って見た奴が発見してな……大学ではすっかり俺が彼女である+プレアデス+とマニアックなプレイを楽しんでいるって仲間内で噂になってて、俺、泣きそうなんだけど」
稲葉はそう言いながら、ラインでの友人達とのやり取りを見せてきた。
以前俺達のデートを目撃したという女の子から、彼等に垂れ込みがあったらしい。
ラインで稲葉と話していたメンバーは俺も知っている奴等だった。
いわゆるお調子者で騒がしい部類の男共である。
稲葉はどんな人間相手でもそこそこ仲良くできるが、俺はこいつ等のテンションにあんまりついて行けない。
以前何かの集まりで一緒に食事に行った時も、こいつ等三人が仲間内だけで異様に盛り上がり、俺が一人ノリが悪くて場を盛り下げてるかのような空気になりかけたのを稲葉にフォローされたりした。
以来、俺はこいつ等とはあまり関わっていない。
稲葉は、悪い奴等じゃないんだとは言っていたし、特に悪気がないのは俺もなんとなくわかるが、俺はこいつ等のノリについていけないので距離を取っていた。
そんな奴等が、ラインでの会話を見ると、どうも俺と稲葉の夜の生活について興味津々のようである。
当然だが、全くそんな事実は無い。
しかし、こいつ等が勝手に女装した俺に妄想をかきたてられ、そわそわしている様を想像してみると、妙に気分が良かった。
お前等が賞賛して自分もこんな彼女が欲しいと羨ましがっているのは、お前等が影でノリが悪いだとか根暗だとか言っていたであろう男である。
ざまあ!
そんな気分だった。
「せっかく彼女とどっか行ったとかいう俺のツイッターの発言も、リアルでの繋がりの無いゲームアカウントの方でやってたのに、すっかりリアル友達から色物カップル認定されちまったよ……もう他で彼女できても迂闊に友達紹介できない……」
落ち込む稲葉に俺は、
「ところで稲葉、前コスプレに興味があるみたいな事言ってたよな。なんなら今度、衣装作ってやろうか?」
と満面の笑みで尋ねた。
「え、マジでか? あっ、いや、別にどうしてもやりたいって訳じゃないんだが、その、もし作ってくれるって言うんなら……」
なんて言いながら眼を輝かせつつ、そわそわしだした稲葉に、俺は笑みを濃くした。
どうせなので、稲葉は完全にこちら側に引き込んでしまおう。
CMが公開された直後、早速メルティードールホームページに公開されているCMを見たらしい優司と優奈から、絶賛の声が届いた。
カメラワークが自然でどこで切り替わったのかわからなかったとか、映像の透明感がすごいという映像自体の評価については俺も、初めて見た時感動したのでその感動を分かち合えたのだが。
天使かと思ったとか、神々しかったとか、改めてすばるさんが美人だって再認識しましたとかいうコメントには、嬉しいを通り越してただ恥ずかしかった。
後日、ロングバージョンのCMを延々リピートしてみてたら一日が終ってたとかいう、もはや心配になる報告が優司と優奈から寄せられ、ダメだこいつ等と強く思った。
ちなみに最近、優司が以前言っていた通り、とあるWebマガジンで連載を開始したどろヌマは、内容はほぼ同じだが全編丸ごと書き直されており、ヒロインのマチルダのキャラデザがより朝倉すばるっぽくなっている気がする。
おかげで、優司からすばるがモデルだと言われる前までは普通に読めていたこの漫画が、最近読むのが無茶苦茶恥ずかしい。
話が進むごとに見えてくるマチルダの聖人っぷりに、こいつはすばるに夢見すぎだろうと思うと共に、もし今後優司が朝倉すばるの正体に気付いた時、一体どんな凶行に出るかわかったものではないと俺は恐怖に震えた。
そして優奈は、最近やたらとスーパー銭湯やら温泉旅行やらに誘ってくる。
当然一緒に女湯に入る訳には行かないので適当に理由をつけて断っているが、なんだが身の危険を感じて仕方ない。
だけど、もう何処にも逃げ場がない……!!
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