エピローグ
第48話 バレたら即、人生終了
「しずく嬢は、たとえ相手がモデルだろうがアイドルだろうが、絶対に負けないそうですよ」
という、一真さんから報告を受け、俺はひとまず安心した。
正直ここまで+プレアデス+の話が稲葉の周りで広まってしまっている以上、身近な所で稲葉が恋人を作るのはこれでほぼ不可能になってしまった訳だ。
俺は負い目が全く無い訳でもなかったので、しずくちゃんが大人しく引き下がらないでくれて良かった。
「以前一宮さんとそれらしい話をしていたのは聞きましたけど、大人気みたいですね。今」
テーブルの上に置かれた、箱入りの小さな饅頭を一つ取り出しながら一真さんが言う。
もらい物らしいが、一人では食べきれないからと一真さんが持ってきた物だ。
「私としては、予想外の大反響で、ちょっと恐いです」
饅頭の包みを開けながら俺は返事を返す。
あ、薄皮であんこが多くてうまい。
反響があるという事は、裏を返せばそれだけ注目されているということで、何か不祥事やらスキャンダルやらやらかしたら、それこそとんでもない手のひらを返したバッシングが待っていそうだ。
実は男だったとか、男だったとか、男だったとかな。
「良いじゃないですか、このまま人気モデルにでもなんにでもなれば。そして僕を養ってください」
対して一真さんは、人の気も知らないで、相変わらず本気か冗談かわからないクズ発言を爽やかに言い切った。
というかこの人、最近なにかしら理由をつけて、俺の部屋に入り浸りすぎじゃないだろうか。
料理も手土産もうまいが、なんだか餌付けされているような気分だ。
「ところですばるさん、しずく嬢が今度、すばるさんと彼と三人でデートをしたいそうですよ。まあ、途中ですばるさんをまいてしずく嬢は彼と二人きりのデートを楽しみ、あぶれたすばるさんを僕が回収するという算段なのですが」
饅頭を咀嚼し、飲み込んだところで世間話でもするように一真さんが言った。
「いきなりぶっちゃけますね……」
「どうせその通りに動いても、すぐにすばるさんには察しがつく事でしょうし、先に報告しておきます」
驚く俺に対し、肩をすくめ、一真さんは話を続ける。
守秘義務とは一体……。
「情報筒抜けじゃないですか。一真さん、仕事しましょうよ……」
「してますよ。今こうしてすばるさんに恩を売って近づこうとしてるじゃないですか……それで、すばるさんはどう動くんです?」
呆れる俺に、悪びれる様子も無く一真さんは答える。
確かにそうだけども。
俺が一真さんと適当に仲良くしているフリをする事で一真さんからしずくちゃん側の情報を貰う約束だったけども。
だが、社会人としてそれはどうなんだろう。
いや、これをちゃんとした仕事と言っていいのかもわからないが。
「……一真さん、しずくちゃんが稲葉とどこに行くつもりかわかります?」
だがせっかくなので、この際これを利用させてもらうのもいいだろうと俺は思いついた。
「いえ、そこまでは。でも、しずく嬢の位置情報なら、防犯のために、お目付け役の人間にはわかるようにはなっています」
「せっかくなら当日、しずくちゃんが稲葉とどんなデートをするのか見てみたいので、ナビゲーター兼お財布になってくれるのなら、デートしてあげてもいいですよ」
一真さん相手にはむしろ好感度を下げたいので、できるだけ放漫に、上から目線で提案してみる。
「そうきましたか……いいですよ。なんだかんだで、すばるさんも結構強かですね」
「あら、一真さんが私に協力してくれると言ったんじゃないですか」
恐らく引いているであろう一真さんに、ニッコリと笑って答える。
「そうですね。僕は好きですよ。すばるさんのそういう強かなところ」
「私も、一真さんのそういう清々しいまでにクズな所は嫌いじゃないですよ」
「じゃあ両思いですね」
「好きではないです」
しかし、なぜか一真さんは上機嫌になってしまった。
解せぬ……と俺が思うと同時に、俺のスマホが鳴った。
メールが届いたようだ。確認する間もなく今度は着信があり、画面の文字を見て俺は顔を顰めた。
一宮雨莉だった。
無視しても後が恐いので出てみれば、
「今度、雑誌の取材とバラエティ番組への出演が決まったから。後で詳細の連絡があると思うけれど、もちろん答えは決まってるわよね」
要は、この後話が来ても、断るなんて言わせねえぞという圧力である。
「も、もちろんですとも」
「その言葉が聞けてよかったわ。それじゃあまたね」
電話を切って呆然としつつも、メールをチェックしてみれば、優奈からのメールで、今度俺が稲葉とコスプレ参加する予定のイベントに、自分も参加するので、その時会えないかという誘いだった。
俺一人の時なら喜んで会うのだが、一緒に居たところを見られただけだった一真さんでさえあんなに優司と優奈の気が立っていたのに、稲葉をコスプレ仲間と紹介していいものだろうか。
「どうかしたんですか?」
スマホを前に渋い顔をする俺に、一真さんが尋ねてくるが、なんでもないとだけ答えた。
「それじゃあ、今度のデート、楽しみにしてますね」
そう言って一真さんは椅子から立ち上がり、帰っていった。
一人部屋に残された俺は、ついさっき立て続けに立った予定に頭を抱えた。
もしかして自分は今、既に色々と取り返しのつかない所まできてしまっているのではないだろうか。
そう思えてならないが、もはや俺個人でどうこうできるレベルをはるかに超えている。
しかし、バレれば即、人生終了である。
どうしてこうなった……!!!
俺は窓から空を見上げ、この嘘をこのままつき通す事を胸に誓った。
◆――――◆――――◆――――◆
おめでとう、俺は美少女に進化した。【番外編】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054880716343
を読むと続編がより楽しめます。
是非、ご覧になってくださいね。
続・おめでとう、俺は美少女に進化した。
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