第6話 可愛いだろ?

 元々ツイッター等で度々絡んだりはしていたが、優司とも連絡先を交換してからというもの、優司と優奈とはプライベートでもよくやり取りをするようになった。

 兄である俺とは兄弟三人のライングループなど作っていない二人だったが、+プレアデス+とはかなり頻繁にやり取りしてる。


 元々一人っ子だったので兄弟同士の距離感なんてわからないし、歳も離れてて連れ子同士で距離があるというのもわかる。

 でも、こいつら+プレアデス+の事好きすぎだろ、とは思う。


 メッセージを送るとほぼ毎回、五分以内に返事を我先にと送ってくる優司と優奈に、こいつら他にやらなければいけない事とか無いのだろうかと心配になってくる。


 こちらもすぐに返信できないことも多いし、毎回そんなに急いで返信してくれなくても大丈夫だとメッセージを送った事があるが、一分も経たない内に、好きでやっている事だから気にしないでくれという内容が二人から届いて、もはや少し恐かった。


 駄目だこいつらと思った俺は、以来平日の学校に行っているであろう時間帯には向こうからメッセージが来ようとも、こちらからはメッセージを送らないようにしている。


 しばらくやりとりをしていると、二人は俺のブログやSNSでの発言をかなり読み込んでいるらしいということに気付いた。

 俺の好きな衣装の傾向や製作が得意な小物ジャンルから始まり、好きな食べ物、好きな漫画やゲーム、好きになるキャラクターの傾向まで把握しているようだ。


 そのため、俺はあまり迂闊な発言をしてボロが出ないよう細心の注意を払って二人と言葉を交わすことになった。

 気を抜くと、二人はグイグイこちらとの距離をつめてくる。

 とうとう俺は二人の誘いを断りきれなくなり、来週俺は三人で映画を見に行く約束させられてしまった。


 いや困った困った。実に困ってしまった。


 そう思いながらも何を着て行こうかとウキウキしてしまうのは、今まで家族で出かけるというイベント自体ほとんど無かった上、姉弟仲が良いらしい友達から、よく姉と一緒に遊びに行くという話を聞いて、素直に羨ましく思ってしまったせいもあるのだろう。


 そうして当日、浮かれて早く待ち合わせ場所に着いてしまった俺は、なぜか大学の友人にナンパされていた。

「やあ、もしかしてこのハンカチ君のじゃない? え、違う? そっか、ところで君ここで誰か待ってるのかな、実は僕もなんだけどもう二十分待ってるのに全然来なくて、よかったら相手が来るまでちょっと話さない?」


 今俺の前で爽やかな笑顔を浮かべながら勝手に話を進めているチャラ男は、俺の中学時代からの友人で、小林稲葉こばやしいなばという。

 中学時代は一緒に中二病をこじらせた悪ふざけをした仲だ。


 優司や優奈もまだ来るには時間がかかるだろうし、なんかもうめんどくさかったので、稲葉にはこの場で正体をバラしてしまう事にした。

 なぜ稲葉には正体をバラしても平気なのかといえば、単純に現時点で俺は稲葉に対して結構な弱みを握っているからだ。


 俺は上機嫌で話しかけてくる稲葉を軽く手招きして内緒話をするように呼び寄せた。

 そして、地声で稲葉の中学時代の中二エピソードから、高校デビューするも中二心が抑えきれなくて、一人夜の街に繰り出して見えない敵と邂逅していた所を警察に補導された話等を語ってやった。


 それを聞いてものすごい勢いで俺の方を振り向いた稲葉は、俺の顔をじっと見つめながらどんどん青ざめていった。

「ま、将晴……なのか……?」

 あまりの驚きようで声まで震えていた。


 俺はこれでもかという可愛らしい笑顔と声で答えた。

「可愛いだろ?」

「………………!!」

 稲葉はちょっと涙目になっていた。


「コレは、一体どういう……」

「ごめんなさーい! お待たせしました~」

 動揺する稲葉の声を遮る様に、優奈の声が少し離れた所から聞こえた。


 振り向けば手を振りながら小走りでこちらにやってくる優奈と優司の姿があった。

 ちなみにまだ待ち合わせ時間の十分前である。

 あの距離なら今の会話は聞こえていないだろう、と俺はひとまず安堵した。


「それでは、お話はまた今度ということで……」

 もう少し稲葉の反応を楽しみたい所だったが、この二人の前でさっきの話を続ける訳にも行かないので、稲葉とはここで別れることにした。


 しかしこの男は、動揺していたからなのかは知らないが、最後に中々な捨て台詞を残して退場して行った。

「あ、ああ、じゃあ、将晴によろしく……」


 じゃあじゃねえよ、なに言ってくれてんだお前、そんな俺の心の声を他所に稲葉はふらふらと去って行ったが、優司と優奈は既に俺のすぐ側までやって来ていた。


 稲葉は高校時代、俺の家に泊まりに来た事があったので、二人にはその時に稲葉を紹介している。

 高校時代と比べると、髪も染めてたりと前より派手になってはいるはいるが、すぐに誰かは解るはずだ。

 そしてあの捨て台詞……すぐに俺と繋がった事だろう。


 おそるおそる二人の方を見れば、二人とも神妙な顔をしていた。

「………………あの」

 しばらく沈黙が続いた後、優奈が意を決したように口を開いた。


「+プレアデス+さんって、彼氏とかいるんですか?」


 予想の斜め上の質問に、呆気に取られながらもいないと答えると、なぜか優司と優奈は無言で拳を合わせるハイタッチをしていた。

 ちょっとかっこよかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、気になる小説の更新を逃さずチェック!

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、お気に入り作者の活動を追いかけよう!