第7話 友達とは(大地)

いや、知ってた。

だって智也とは長い付き合いだし。

知らないふりをしてた。

友達だから。

智也も五紀も大切だから。



******


幼稚園、小学校、中学校から加賀智也とは一緒に過ごしてきた。

五紀の次に仲が良い本当の友達。

もちろん他にも仲が良い奴は沢山いる。

でも智也は”特別”だった。

多分、世の中で言う親友ってやつ。


小学校の頃から智也には好きなやつがいることは知っていた。

誰かって意識なんかしたことないし、知ってどうこうするつもりもなかった。

だから聞かなかった。

中学になって、周りは色恋話を男子もするようになる。

「1組の〇〇さんが可愛い。」

「3年の〇〇先輩と△△が付き合ってる。」

正直どうでもいいことが耳に入るようになる。

「4組の加賀ってまじモテる。」

「同じ4組の原田美穂子って超可愛い。」

智也や美穂子のことも聞くようになった。

二人については中学生になってからより一層騒がれるようになった。

「原田といつも一緒に居る、橘も可愛い。」

そう言う男子も少なくはなかった。


「あ、でも橘は広瀬がいつも一緒に居るじゃん。」


そう。五紀は俺が隣にいるから誰にもどうこうできない。

分かってて俺は中学に上がっても五紀のそばを離れなかった。

”誰にも渡さない”

”俺の五紀”

そればっかりで五紀の外野でワーワー言ってる奴は駆除してきた。


「俺は橘が好きだよ。」


智也はいつもまっすぐで、俺には何でも言ってくれた。

五紀と同じくらい辛い時にいつも一緒だった。

そう聞いたのは中1の時。

だから今日智也に五紀のことを聞いたのは2回目。

俺の中で五紀は誰にも取られることはないと思っていたのに、智也は違った。


智也と五紀も仲は良い。

中1の時は一緒に委員会もしてたっけ。

俺は五紀に”好き”とか伝える勇気もなくて、ただ一緒にいるしかできなかったのに、智也はいつも先手を打ってくる。


「ねぇ、なんで智也と一緒に委員会することになったの?」

って男気ない俺は五紀に聞いた。

「え?なんでって…智也に誘われたから。」

二人が一緒にいた委員会は毎週水曜日に放課後集まりがある。

だから水曜日は嫌いだった。

”先に帰って良いよ”っていつも言われたけど、待ってた。

1回だけ先に帰ったことがあったっけ。

帰りに委員会が開かれている教室を覗いた時、二人がすごく笑顔で嫌だった思い出がある。

智也は親友で、五紀は大事な子。

智也は積極的で他人から見ると”五紀が好き”っていうのはバレバレ。

それでも智也は五紀しか見えてなかった。


「智也って好きな子がいるらしいよ。」


ニコニコしながら五紀に言われた。

「誰か知ってる?」

五紀に聞き返したら「教えてくれなかったよ〜相談のってるのに。」

いつも委員会の時に智也の”恋の相談”を五紀はしているらしい。

「その子、すごく鈍感だよね。でも智也ほど真剣に好きって言ってくれるならその子はすごく幸せね。」

”五紀のことなのに”って心の底では思った。



今日、智也に話があるって言われて少し放課後に話をした。

思っていた通り、五紀のこと。

まだ、智也には付き合っていることを伝えていない。

「俺、そろそろ本気になるから。」って。

でも、もう俺のものなんだよ?って智也に言えなかった。

親友なのに。

智也はきっと俺も五紀のことが好きなのは知ってる。誰にも言ったことないのにあいつは気付いてる。


話し終わったぐらいに五紀が教室の外にいるのには驚いた。

聞いてたかな。

聞こえてたかな。

…だからって別にいいんだけど。

智也はいつものテンションで五紀と話をしている。

五紀に向ける笑顔は、他の誰にも向けない笑顔。

開けている窓から風が吹き込んできて、カーテンが舞い、一瞬二人が見えなくなった。

白く包まれた視界から二人が消えた一瞬でさえ、五紀を目から離したくなかった。

白から解放された時には五紀だけだった。


「帰ろ?」


いつもの五紀。

でも今日は本当に愛おしくて、抱きしめてしまいたかった。今すぐに。

「こっち来てよ?」

それが精一杯の俺。

五紀がこっちに来る。目から離したらどっかに行っちゃいそうで、誰かに取られそうで。

”なんでそんなに可愛くなるの”

”なんで誰にでも笑うの”

”俺だけの笑顔にしてよ”


俺の中の汚い感情がどんどん溢れてくる。


”目の前に立っている五紀をギュってしたい”

”目の前に立っている五紀にキスしたい”

”目の前に立っている五紀を俺のものにしたい”


どんどん可愛くなっていく五紀の髪の毛を触って、ここにいることを感じた。

「ずっと一緒だよ。」

耳元でそういうとあの時みたいに顔を真っ赤にして照れる。

あー俺は本当にこの子がいないとダメなんだなって心から感じる瞬間。

好きが溢れる。

この匂い、この温度、この質感は俺だけのもの。

「帰ろうか。」

掴んだ五紀の右手は俺の手を握り返してくれる。

”好きが伝わる”



五紀のために俺はいて。

五紀がいるから俺がいる。

好きで好きで好きでたまらない。

誰にも言えないぐらい大事。

五紀は俺だけのものだっていつでも証明したかった。



幼いながらにあった嫉妬と独占欲。




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