第8話 現在の1年前。(大地)

2015年8月。大阪。


「あ…。」


空に手のひらを向けると

やっぱり雨が降ってきた。


そういえば、天気予報雨だったなぁ。


ぼんやりと寝ぼけながら見た朝の番組を思い出す。


「ねぇ!!せんせぇ〜!だいち先生!!」


腰ぐらいの身長のスクールの生徒たちが駆け寄ってくる。


「あ、ごめんごめん。雨降ってきたから、今日の練習は終わり!片付けして!ほら!急いで急いで!!」


「え〜!もう終わるの〜!!」

「やだー!」


生徒たちの残念そうな声と

雨音が同じぐらいの音量で耳に入ってくる。


「みんな、自分のサッカーボールは持って帰れよ〜!」


俺の指示に項垂れて

サッカーグランドを見ながら生徒も反応する。


「広瀬先生、お疲れ様です。」


後輩のコーチの井村いむらが俺に向かって駆け寄って来た。


「あぁ、お疲れ様。今日もう終わるから。とりあえず、送迎のバス準備して。俺は保護者に連絡回すから。」

「了解です。お願いします。…みんなー!バス乗る準備してなー!」


関西生まれの井村は生徒に本当に人気がある。

面白さ?

やっぱり笑いのセンスが俺無いのかな。


「なぁ大地先生!来週はサッカーあるよな?」


「あるある!だから風邪引くなよ〜?」


生徒の頭をぽんぽんと叩きながらバスに乗るのを見送る。


「じゃぁ井村先生、送り頼むね!みんなまた来週!」

「大地先生、おつかれさまでしたーー!!」


生徒たちの元気な声に本当に救われる。


”あー サッカーやってて良かった”


後輩と生徒たちがいなくなった教室の中は本当に静かで。

今までの音が全く嘘みたいになくなる。

聞こえるのは外の雨音。


自分が大阪に来て、もう何年だろう。

とりあえず大阪に来た理由なんて、

今考えたら何て子供染みてるんだって。

考えただけで笑えてくる。



「いつになったら逢えるかな…」


ぽつりと出た一言は、きっとこの雨のせい。


この時期の雨。湿度。匂い。





ただ逢いたいだけなのに。

なにもできない。







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