第9話 路(大地)

当たり前の毎日が目紛しく過ぎて、それぞれの進路を決める中学3年になった。



「明日、おばさん来るの?」


帰り道に五紀から明日の保護者懇談会の話をされた。


「あぁ。来るみたい。わかんねーけど。」

「なにそれ。ちゃんと連絡した?」



つい先月、自宅に帰るとたまたま母親と鉢合わせになった。


「おかえり!大地!体調は?」


会った時は母親面。あれだけ放っておいたくせに。


「まぁ普通。」


そういうと母親の笑顔?を俺に見せて来る。

正直ウザくて、顔も見たくない。


「あ、来月進路相談だから。」


無機質に母親に向けて話しかけ、学校からの手紙を渡した。


「もぅそんな時期かぁ。」


ため息交じりに聞こえた母親のひとことが自分には「めんどくさい」と言っている様にしか聞こえなくて、そのまま自分の部屋に篭った。



あれから日程とか恐らく母親は学校に連絡したから、担任から何も俺には言ってこない。

きっと来たとしても母親は

俺が生徒会長をしてること、学年1位の成績にあることなんて知りもしないだろう。

むしろ興味がないとしか思えない。

自分の仕事ばかりで、子供は二の次三の次。

むしろ何で俺を産んだのか謎でしか無い。


「ねぇってば!」

「あ、わりぃ、考え事してた。」

「ふ〜ん」


あー五紀のこの顔。

俺が親のこと考えてるの見透かしてる。


「聞いてなかった様だからもう一回言うけど!明日おばさんに私も会いたい。」


五紀の顔を驚いて見ているのが自分でもわかった。


「何で?なんか話あるの?」

「いや、別に…。会いたいなぁーって」


本当にいつも嘘が五紀は下手すぎる。かわいいけど。


きっと五紀が聞きたいのは俺の”病気”の話だろうな。

ここ最近、やたらと喘息のことを聞いて来る。


「考えとくよ。」


にこっと五紀に返すと、むすっとした顔で前を向く。


五紀には悪いけど、喘息のことは教えられない。

ずっと同じクラス、ずっと同じ階じゃないだけまだマシ。

中学に入ってから体育が見学しがちなこと、

何度か保健室に運ばれたこと、薬の量が少し増えたこと。

周りの友達も五紀にはバレないようにしてくれてる。

本当に感謝してる。特に智也。

俺と五紀が付き合ってるって知った後も上手くやってくれてる。

むしろ五紀が多少鈍くて良かった。




五紀を心配させるなんて絶対に無理だから。

そろそろ俺に五紀を守らせてよ。




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