第10話 こころの底(五紀)


高校は家から近くて、それなりに近くて、それなりのところに行ければ良い。

まぁ…バカな方じゃないと思うし。

高校のレベルも普通だし。

でも、大地も同じとこ受けるって言ってたな。

勿体無いなぁ。わたしのことなんかいいのにって何回も言ったのに。頑固だし。

進路相談…おばさん来るのかな。


「あぁ。来るみたい。わかんねーけど。」


今まで何度か大地の両親の話もしてきたけど。

やっぱり濁すし。

うちのママも今はあまり連絡も取ってないって言ってた。


いつも我が家の一員で

いつもわたしの隣で一緒にいて。

でも、わたしも大地の気になることはあるのに。


”最近、喘息どうなの?”


月一ペースで私が大地に聞く質問。


”もう全然だよ”


大地からはこれだけ。

心配なのになぁ。

美穂子も智也に聞いても、何も知らないって。


「わたしさ、おばあさんに何年も会ってないから…久々に会いたい。」


「・・・・」


大地の顔をチラッと覗く。


あれ、聞いてない?

なんか考えてる。多分おばさんのことだろうなぁ。


「ねぇ聞いてる?」


「…ん?あ、あぁ。」


きっと大地はいつも一人で解決して

誰にも、わたしにも頼らなくて。


大地から守られてばっかだなぁ。



「いつき、帰ろう。」


差し伸べられた左手が夕焼けで赤く見える。

いつもどおり。

いつもどおり。


「うん。今日は晩御飯なにかなぁ〜」





こんなに順調で

こんなに毎日が楽しくて

ずっと続くって思ってた。


ここまでは。夏の匂いも、湿った空気も好きでしかなかった。



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