第11話 きっかけのとき

俺らが高校に入学した年の夏。


五紀の父が他界した。



✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


暑くてたまらない中3の夏あたり。


五紀は学校を早退した。

五紀が早退するなんて珍しく、美穂子がわざわざ教えてくれた。


その日の帰りに、いつもみたいに五紀の家に向かった。

玄関も空いてない。

裏の勝手口も閉まってた。

五紀のケータイに電話してもメールしても戻ってはこなかった。

何かあったんだって不安が過ぎる。


五紀の家の縁側に座って、高台から見える夕焼けを見る。


”あぁ、なんかこの感じ久々だな”


小さい時から毎日縁側に座って、五紀とたくさんの話をした。

楽しいことも辛いことも。

次第に大きくなって、将来のことも。


五紀のママもパパも、妹の春も澪も。

俺はにいつもいた。


「なんかあったんかな。」


とりあえず、ここで待とう。

みんなが帰って来るまで。






「・・・・だいちゃぁん」

「だいちゃーーーん」


パッと目を覚ますと

上から顔を覗き込む、春と澪がいた。

縁側に横になって気づけば寝ていた。


「こんなとこで寝てたら、蚊に刺されちゃうよ?」


五紀ママだ。


どれくらい寝てたんだろう。

時計は午後8時を指していた。


「あーおかえり。どうしたの?大丈夫?」


五紀ママに向けたこの一言。

ふと五紀ママの顔が一瞬曇った。一瞬だけ。


「いやぁ、パパがね、急に入院することになっちゃって。」


くすくす笑いながらも、目は笑っていなかった。

もう何年も一緒にいるからこそ分かる。

きっと五紀ママは無理してる。疲れてる。


「だいちゃん、ご飯まだでしょ?なんか作ろうか?私たち食べて来ちゃった。」


「あっ…カップラーメンでいいよ!俺あんまり腹減ってないし!」


「はいはい。」


そう言うと五紀ママはいつもおにぎりを作ってくれる。


「ねぇ春と澪、いつきは?部屋?」


春と澪はテレビに向かっていた。


「おねぇちゃんは部屋だよ!」


帰って来てから五紀を見てない。大丈夫なのかな。


立ち上がって五紀の部屋に向かう。

縁側で寝てたからか背中が痛い。


”コンコン”

いつもはしないドアをノックをした。

なんか緊張する。


「はーい。あ、ダイ。ごめん。ケータイ見てなかった。」


「ん、おかえり。・・・大丈夫?」


「あー、うん。」


いや、大丈夫じゃないな。

明日聞いて見るかな。

空気がなんか重い。一人で居たいんだろうな。


「だいちゃーん、おにぎり〜」


五紀ママの声が聞こえて1人で今に戻る。

部屋を出る時に五紀を見る。

目の下の”泣いた跡”


「五紀、おれ飯食ったら帰るね。また明日。ゆっくり寝ろよ!」


うん。とゆっくり頷いてにこっと笑った。




次の日。

朝家に迎えに行くと、いつもの五紀だった。


「・・・いつき。五紀パパどうだったの?」


朝からだいぶヘビーだが、聞くしかなかった。

そんな辛い顔しないで。

させてるのは俺か。


「ん〜…あんまりよく無いんだって。」


「おれも今日お見舞い行って良い?」


「うん」


五紀パパ、大丈夫なのかな…心配。

小さい頃から良くしてくれて

今でも怒ってくれて、褒めてくれて。

本当に父親みたいに。

男にしかわからない相談も聞いてくれて。

「だいちゃんは、五紀のこと本当に好きなんだな。」

五紀と付き合ってることを打ち明けても

笑顔で受け入れてくれた。少し戸惑ってたけど。


「パパ…無理してたのかなぁ」


学校に着くまで、五紀は五紀の考え事を。

俺は俺の考え事を。


気づいたら学校には到着していて、下駄箱で別れた。

その日は1日中いろいろ考えていて

気づけば放課後になっていた。


「いつき〜帰ろう〜」


教室に五紀を迎えに行って、すぐに病院へ向かった。


病室は一人部屋で

ベッドに寝ている五紀パパは眠っていた。

腕と枕元にはたくさんの機械が繋がれてる。


「パパ、ダイと一緒に来たよぉ」

「五紀パパ〜、俺だよ」


五紀パパのベッドの横から声をかける。

目は開かない。


「ねぇ、ダイ。パパさぁ…もう起きないのかなぁ。」


ポツリと横から聞こえてきた五紀の言葉に息を飲んだ。


「……昨日からなの?」


コクリと頷いた五紀の顔は見れない。

正直、何の病気かわからない。聞けない。

聞いたところで俺には何もできない。

五紀に何か言葉を返すことも俺はできなかった。


ただ、五紀パパの容態は良く無いことぐらい分かる。


”ガラッ”


ドアの方へ二人で振り向くと、五紀ママが立って居た。


「あら、来てたの。」


花瓶の花の水を入れ替えていたらしい。


「ママ。パパと話せた?」


五紀の投げかけに、にっこりと笑って首を横に振った。


「もう、目覚めないのかなぁ。」


五紀の不安は苦しいほど伝わってきて、五紀は泣き始めた。

俺は横にいて、ぎゅっとしてあげることぐらい。


「いつき、だいちゃん。大丈夫。パパは強いからね。今だけだよ。」


五紀ママも不安なんだと思う。

でも今は信じるしかなくて。




******


あの日から毎日毎日、学校帰りにはお見舞いに行った。

ただ、一度も話すことはできなかった。


 

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