第3話 キモチの中のナニか(五紀)

気づけば生まれてから14回、春を迎えていた。中2。春。


「い〜つき〜。帰ろ〜。」

低い声が教室のドアから聞こえる。

中学に入ってからクラスは違えども相変わらず私たちはいつも一緒。行きも帰りも。


「ちょっと待って…あ、私日直だから先に帰っていいよ?」

大地にそう伝えると、ジッとこっちを見て

「じゃぁ購買にいるから。」と言い残し、男子何人かとワイワイしながら教室から姿を消した。


中学校は私と大地が通った小学校と、隣の小学校が集合している。


運動神経抜群。

頭がいい。

誰とでもすぐに仲良くなれて友達多い。

先生からの信頼も絶大。時期生徒会長にプッシュされる。

女子にはとりあえずモテて、先輩・後輩関係なく入学当初から告白されまくる。

小学校の時の大地とは考えられないぐらい、声も低くなった。

身長なんか私が見上げないといけないぐらい。


いつも2人で一緒にいた私たちを小学生時代の友人は何も思わない。

が、それを知らない同級生・先輩・後輩はひがむ。そりゃそうですよね。


「2人は付き合ってるの?」


何人のクラスメイトに聞かれたか。「幼馴染なんだよ。」って。もう言い飽きた。


はぁ・・とため息を1つ吐いて美穂子が声をかけてきた。

「五紀は日直じゃないのに。大変ね。」

同じクラスの美穂子も小学校から一緒。中1、中2と美穂子がいつもフォローしてくれた。

嫌がらせこそ全くないが、良いように思っている女子はほとんどいないだろう。

意識しているわけではないが、一応モテモテな大地のためにはキチンとしているつもり。

勉強も運動もそこそこできる方だし、まぁ…普通にしている。


「美穂子、明日は暇?」

そう言うと

「ずっと暇ですよ〜発散しに行く?」

と美穂子が返してくれた。本当に持つべきは友だ。

発散=カラオケというのが私たちの中で決まっている。

前の日に帰れないことを伝えれば大地も教室には来ないはず。

「いつき・・大変だね。」

苦笑いで美穂子に手を振って、購買へパタパタと走っていった。

「あれ、いない。」

購買の周りをぐるぐる歩き回っても大地はいない。

”先に帰ったかな”そう思って下駄箱へ向かう途中、大地の顔が見え、声がした。

「あ、だい・・・・・」

最初は大きな声で声をかけたが、大地の向かいには女子がいた。

あれは、大地と同じクラスの子。ふんわり系かわいい女子。あれに落ちない男子はいないはず。


「…大地くんが好きなの。だから付き合って欲しくて。」

ふんわり女子は大地にニコッと笑いながら告白をしている。

”またか。すごい”って、それしか思わなかった。

でも瞬間で”こんなところで盗み聞きしてる私…最悪だな”と思って下駄箱の方へ足を向けた。



「俺さ、ずっと好きな子いるの。ごめんね。」



・・・え?

下駄箱に向かう足が止まった。

そもそも大地に好きな子いたなんて知らなかった。

何でかどうしようとも言えない気持ちが急にこみ上げてきた。モヤモヤも止まらなかった。

今までそんな話聞いたこともしたこともなかった。むしろ「スキ」って気持ちが大地にあることさえ、びっくりした。

とりあえず早歩きで下駄箱に向かい聞いたことを全部忘れようとした。

”購買にいなかったから先に帰った”と大地には後で伝えようと靴を履き替えた。

玄関を出た時、後ろからもう1人出てきた。

さっきのふんわり系女子。泣いている。

顔を見ないように、相手は見られないように足早に校門を出て行った。


”スキ”ってなんだろう。


なんかまたモヤモヤしてきた。帰ろう。

一歩踏み出した瞬間、後ろから手をグッとつかまれた。

「いつき。なんで先帰るの。」

大地だ。低い声で私に。

「あ、え?いた?購買いなかったから。先帰ったかと。」

言い訳したら悲しい顔をする。

「ケータイに連絡してよ。」

「はい。」

そういうと頭をポンポンとされて

「帰ろ。」と一言言われた。


正直、どんな顔をして大地と帰ったのかこの日に限っては覚えていない。

好きな子誰だろう。って思うばっかり。

隣で笑いながら何かを説明する大地の声も届かない。

「ねぇ。いつき。聞いてる?どうしたの。」

名前を呼ばれてハッとした。

「なんだっけ。ごめん。ぼーっとしてた。」

はぁ。と大きなため息を大地が吐いて

「いつきママの買い物リスト貸して。」

「あ、これ。」

「ほら、いこー。夕方セール始まる。」

相変わらず我が家で晩御飯を食べる分、帰りにお買い物を私達は手伝うようになった。

ママは育児に追われてるし。

「今日はグラタンかぁ。」

材料を見て大地がつぶやく。

「いや、これはパスタでしょ。」

私も推測。

「え〜、だってバターだよ?それに鶏肉。」

こうやって晩御飯を予想しながら2人で帰るのも2年目。もうすぐ夏も来る。



「ただいまー。」2人の声が家に響く。

パタパタと奥からママが走ってくる。

「おかえり!ね、バター買ってきた?」

慌てた声でママが大地の持っているスーパーの袋を漁る。

「買ったよ。はい。」

大地の手からママの手へバターが。

「わー本当ありがと!もうご飯できるから!」とママが言うとまた台所へ。

「今日なに〜?」大地もママの後ろに続いて台所へ。



二人がいなくなったところで私は自分の部屋へ。

まだ、胸のモヤモヤが消えない。


ストンと机の前に座って、

「ダイの好きな人って誰なんだろう。」

部屋の中でポツンと口から漏れた一言がやけに響いた。






「いつきだよ。」



バッと後ろを振り向くと、部屋のドアのところに大地が立っていた。

「え。なに言ってるの。」

急なことで大地がなにを言っているのかわからず、焦る私。

大地はドアのところに立ったままジッとこちらを見ている。

顔が熱い。頭はパニック。

「いやいやいや。今更。俺はずっといつきがスキだよ。」

そうやって男子の目をした大地はこっちに向かってきて、私の座っている机の真向かいに座った。

「ちょっと。えっと…部屋から出てってよ。」

なにも考えらえない。

なにもわからない。

だって、スキって。

急に大地に言われた一言に胸のモヤモヤが一層募る。

「出て行かない。し、俺はずっといつきの隣にいるから。」

そういうとニコッと笑って、頭をポンポンとしてカバンの中から数学の宿題を取り出した。

「え、この状況で宿題するの?」

わたしが口から本音を漏らす。

宿題に向かって机に向かっていた大地が顔を上げずに前髪の間から目だけこちらに向ける。

「いつきは?いつきの気持ちは?」

そういうと大地はまた目を宿題に向ける。

「・・・スキってなに。」

私がそれだけいうと、顔を上げずに目だけこちらに向けて

「隣にいるってこと。」

そう言った。

宿題なんか手につかないし。こんな状況で宿題しようと思わない。

大地はすごい。よく平気だな。って思って、大地の顔を見ると、顔を赤くしていた。


「そんなに見るなって。」

いつもみたいに笑った。いつもの空気が部屋に流れた。


”トントン”

部屋のノックする音。

「ごはんできたよ。あら、宿題してるなんて。どうしたの。」

帰ってきてすぐに宿題することなんて滅多にない私達にママも驚く。

「明日小テストだからさぁ。あ、ちゃんとちゃんは?」

「ご飯前に寝かせた!だから2人とも早く!怪獣が寝てる間にご飯食べよう!」

大地が言ったはるみおは私の双子の妹。

「今日、幼稚園で運動会の練習だったみたいでさ。爆睡なの。」

妹たちのお祭り騒ぎは、毎日驚くほどで”爆睡”と聞くだけでホッとする。

「いつきもいらっしゃい。早く食べましょう。」

部屋を出たママの後に続いて大地も出て行った。



「隣にいるってことがスキ。」

改めて口にするだけで顔が熱くなる。

きっとこれがスキ。

当たり前に隣にいるものだと思っていたのに、それがスキって気付かなかった。

いつも一緒で

いいとこも嫌なとこも全部知ってる。

好きなもの

嫌いなもの

怖いもの

楽しいもの

全部二人で作ってきた。見てきた。感じてきた。

大地の好きな人はわたしで

わたしの好きな人も大地だって気付けた。


ここが私たちの”スキ”の始まり。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る