幕間


 この空間――どこまでも続く無限の荒野に辿りついて、どれ程の時間が経過しただろうか。自分は結局、己が何者かも思い出せずに、ただ隻眼の男の傍らに座って、じっと珍妙な列を眺めていた。様々な生物が、謎の秩序で一列に並んでいるのも圧巻だし、何より時折変な奴がいるので、見ていて飽きない。先ほどなど、ボールか何かと見間違えるほど太った奴が、虚ろな目でちょこちょこと動いていたので、なんだか笑いそうになってしまったほどだった。


「……どうだい? 何か、思い出したかい?」


 退屈なのか、男が話しかけてきた。


「いいや、何も……というか、お前は知ってるんじゃないのか?」


 そう返すと、男は意地悪そうな笑顔を浮かべた。


「いや、全然、さっぱり、ちぃっとも分かりません」


 この男、なかなかうざい性格をしている。面倒なので無視することにした。


「あぁ、無視しないで。ずっと話し相手がいなくって、暇だったんだからさぁ」

「……そんなら、アイツに話しかけたらどうだ?」


 言いながら、自分たちの後ろを指差した――そこには、はいつくばる様な形で、ずっと何やらぶつぶつと呟いている一人の女がいる。あの女も列に加わらず、一体何をしているのか――ずっと、探し物をしているようであった。


「いやぁ、会話が通じない相手に話しかけたって、つまらんだろうよ?」

「それは、そうかもしれないが……アイツ、何者なんだ?」


 隻眼の男の顔が、おどけた調子から一気に真面目な物になった。


「……さぁってね。知らんよ」

「嘘つけ。知らないって顔じゃないぞ、お前」

「いや、予測がつくことと知っていることは別モノさ。多分こうだろうと感づいてはいるが、本当かどうかは分からんからな」


 そういう男の顔は、少々得意げだった。


「なんだい、説教かい? やだね、老人は」

「ぐぬ!? かぁー、まさか若いころは、絶対に若いもんに説教などしないと誓っていたもんだが……やだねぇ、歳を取るってのはさ」


 顔を手で押さえながら、ぶんぶんと首を振っている。


「……なぁ、もったいぶるなよ。お前は何者で、私は何者なのか……そろそろ、教えてくれたっていいんじゃないか?」

「こういうのは、自分で思い出すのが肝心なのさ。ま、もうじき分かるよ。それまで、お前さんはずっと、あの列を眺めているがいいさ」


 結局はいつも通りに煙に巻かれて終わってしまった。そして私の顔に満足したのか、男はニヤけて立ち上がり、一歩二歩と離れていく。


「……どこに行くんだ?」

「散歩。つっても、ここじゃあんまり意味もねーんだけどな」


 そう言って、男はとりあえず去って行った。


 他にやることも無いので、結局は再び、男の言う通りに、女は列の方へと視線を戻した。



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