幕間
???
男の目の前には、何やら管で繋がれた、大がかりな機械が鎮座していた。そこそこの広さがある地下室の、半分を覆うのではないかという程の大きさの機械、その真ん中に、巨大輝石がはめ込まれている。
「……これは一体、何に使うのだ?」
緑色のコートの男が、ロマンスグレーの紳士に問うた。
「知りたいかね?」
「いや、さほど興味があるわけでもない……無論、貴様らの目的にもな」
男の皮肉に、紳士は笑った。
「あぁ、そうだろうとも……君が欲しているのは、あくまでも戦いだ。私と、同じようにな」
そこまで言うと紳士は機械の方へと向き直った。
「しかし、貴様の一人勝ちだな。輝石は護られ、鉄道の反勢力は一気に消滅だ」
「うむ……それで、どうだった?」
「結局、実際に能力を使う所は見れなかったな……アレだけの敵を用意したのだ、使うと思ったのだが……」
今回の依頼は、鉄道に仇なす連中を巨大輝石を餌として釣り、ネイ・S・コグバーンの能力が本物かどうか見極めよ、というものであった。男は何度かあの少女と対峙して、腕に術式が刻まれている所までは確認しているモノの、その能力を実際に見ている訳ではない。
「なに、問題ない。アレは、確定だよ」
「……その心は?」
「アレだけの数を相手に、能力を使わずに立ちまわった。逆を言えば、それだけ使いたくない能力だということだ。それに……」
そこで、初老の紳士はまた笑った。今度は皮肉気であっても、どちらかというと己を笑っているかのような笑みだった。
「あの子は、優しい子だ。だから、使わないんだ。その力が、あまりにも強いからこそ、な」
「……成程、貴様は迷いがあるのだな? 往く道が正しいのかどうか、揺らいでいるのだ」
そう言われても、初老の男は一切動じなかった。それどころか今度は楽しげに笑って、男に返答した。
「いや、そんなことはない。私は、何時だって……己の往く道を、正しいと思っているよ」
しかしそこで一旦区切り、今度は自嘲のような笑みを浮かべた。
「だが、時折君が羨ましくも感じる。好きで背負った責ではあるが、我が道突き進む、君がね……」
成程、悪気も無いのだろうが――逆を言えば、自分には何にも責が無いということか――だが、言われてみればその通りであった。
「……何にしても、貴様について行けば、まだまだ楽しませてもらえるのだろう?」
「あぁ、それは約束しよう。この先にも、君を飽きさせない様な汚い仕事が山のように残っている――君のように、主義も思想も無い、欺き、勝利することだけが生きがいの様な人間にはな」
そう、戦争が終わって、随分とふぬけていたものだ。だが、あの惨めに洞窟から這い出した時、生きていることを実感した。あの敗北感、そして此度、完全に相手を欺いた快感――この十年間、ずっと忘れていた、男の求めていた闘争であった。
「そいつは楽しみだ……だが、明日には牙を剥くかも知れんぞ?」
「いや、私は君のそういう所が気に入っているのだよ、フランク・ダゲット。君と私はよく似ている……違う点をあげるとするならば、背負う物が有るか否か、そこだけだ」
「そうか。私も貴様を気に入っているよ、シーザー・スコットビル。もっとも、私を楽しませてくれているうちは、と限定するがね……ところで、やはり興味が出てきた。これは、何に使うのだ?」
ダゲットとしては別段、この男の背後にある物に興味が出た訳ではない。単純に、この男、シーザー・スコットビルに興味が出てきた、それだけの話である。
対してスコットビルは再び機械の方へと向き直り、感情の読めない様な、色の無い顔になる。
「……これは、そうだな。地上に楽園を作るため……そのための一助に過ぎない……そう、全ては……」
そこで一旦区切り、そしてゆっくりと吸いこんで――。
「永遠の王国【ミレニオン】のために」
静かに、だが力強く呟いた。
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