1-6


 強い西日が、辺りの木々を照らしている。昼過ぎから足跡を追って探索したが、獲物は未だに発見できていない。既に腰を落ち着けて日が傾ききる前に野営の準備をし始めている、という所だった。


 しかし、人里離れた奥まった所まで来た――野宿をするにも、何せ二人である。眠っている所を襲撃されてはたまらないので、獲物の足跡を避け、少し込み入った林の中で休むことにした。


 近くが荒野と言っても、いや荒野だからこそ、昼夜の寒暖差は激しい。特に、まだ暦の上では春になったばかりなので、既に辺りの空気は冷え始めてきている。しかし既に二人は暖を囲っているので、凍えることはなかった。


「ほれ、絶品だぜ?」


 そう言いながら、ネッドは料理を盛り付けた皿を、ネイに差し出した。


「……あんがと」


 そう小さく礼を言い、少女は皿を受け取った。なんだかお礼を言うのも慣れていないようで、少し照れて言っているのが、なんだか可愛らしかった。


「な、なんだよ、こっち見んなよ……食いにくいだろ?」

「あはは、いや失礼。さぁ、召し上がり下さい、お嬢さん」


 しかし今日一日馬車を動かし、こうして少女のために料理を振舞い――。


(アッシー、メッシー……)


 そんな言葉が、青年の心の中に浮かんだ。なんだか、何時かの日に、何処かの場所で一時流行って、そして廃れそうな言葉であった。


「……? どうした? 変な顔して……変なのはいつもか」


 そう言ってから、少女は左手のスプーンを口に運んだ。


「……ん、悪くねーぞ」


 悪くない、という評価のわりに、少女の手は止まらない。空腹がスパイスになっているのもあるだろうが、彼女の悪くないは、結構よい評価なのであろう。


「お褒めに預かり、恐悦至極でござーい」

「……褒めてねーし。調子に乗んな、馬鹿」


 ちなみに探索中、なんとなく馬鹿と言われた回数を青年は数えていたのだが、これで三十二回目であった。青年は段々と、少女の馬鹿が癖になってきていた。


「いやぁ、その馬鹿って言うの、愛情表現かな?」

「すわっ!? そんなわけねーだろ!? テメーはアタシから、馬鹿と言う自由を奪う気か!?」


 馬鹿と言う自由、そういうのもあるのか。青年は少女の言い回しに感心してしまった。

 しかし、今はなかなか機嫌もよさそうである。いや、ただいま少々怒らせたばかりだが、先ほどのはジャブというか、軽いジョークである。


(今なら、色々と聞けるかな)


 そう思い、青年もスプーンを動かしながら、何を質問しようか思考を巡らせた。ただでさえ普通に聞いても少女は「お前にはかんけーねー」で済ませそうであるし、もっと言えば、立ち入った話は少女を曇らせてしまう可能性がある。

 勿論、昨日考えたように、そもそも立ち入らなければいいのだが――しかし、今日のデュポスの話を聞いている少女を見て、余計に心配になったのも確かであった。軽く釘は刺したものの、軽口で流れてしまった――などと悩んでいるうちに、どうしようもなくなって、青年は袋の中の酒の入っている瓶に手を伸ばした。


「……飲むなとは言わねーけど、飲み過ぎんなよ?」


 そう言えば、今朝がた忠告されたばかりであった。青年は自嘲的に笑って、瓶を袋に戻した。


「飲まなかったらご褒美に、もうちょっと色々話してくれるかな?」


 我慢ではない。別に、元からそんなに酒が好きな訳でもない。むしろ、ネイが話をしてくれるなら、そちらの方が有難い。


「はぁ……そんなら飲めよ、と言いたいところだが……ここだって、安全かどうかも分からねーしな。前後不覚になられるよりゃ、多少マシか」


 少女は空になった皿を横に置き、小さく「ごちそーさん」と言った。


「それで? 今度はどんなくだらねー話がしたいんだ?」


 当然、あれもこれも気になることがあるのだが、早急に知っておきたいことが一点ある。


「あぁ、これは仕事にも関係するからな……君の、右腕に関してだ」


 そう言うとネイは少しびく、として、そして観念したように、ポンチョの下から赤い包帯の巻かれた右腕を出した。


「……これか?」


 憎々しげな声。恐らく、自分でも好きではない、自分の一部分。きっとどんな人間にだってある、眼を逸らしたい場所――だが少女の場合、どうしたって隠しきれない、眼の反らせない場所に、それがある。


 気がつけば、いつの間にか夜の帳が下りて来ていた。鬱蒼と茂る林の中、辺りは闇に包まれている。しかし少し拓けたこの場所は、星灯りと焚火の光に照らされて、少女の包帯はハッキリと映っていた。


「あぁ、その包帯に刻まれているの、術式だろう? 列車では、君の力は見せてもらえなかったからな……それで、どんな能力なんだ?」


 しばらくの沈黙。だが、この仕事をやるということは自身の能力を晒すことになると、少女も分かっていて青年の同行を許したはずである。


「何かあった時に、お互いに出来ることが分かっていた方が、連携も取りやすいだろ? だから……」

「これは、アタシのもんじゃないんだ」

「……え?」


 青年は、言っている意味が良く分からなかった。


「この包帯は、アタシが物心付いた時には、既に巻かれてたんだ……まぁ一言で言えば、拘束具だよ、これは」


 そう言いながら、少女は自身の右手を眺めている。その眼は、なんだか哀しそうであった。


「拘束具って、どういうことだ?」

「あぁ、それはな……」


 その時、闇の奥から微かに物音がした。その音は次第に大きくなってくる。


「……どーやら、見せたほうがはえーみたいだな?」


 ネイは立ち上がり、外套がいとうの前側をめくり上げ、右手の親指で左のグローブの甲に収まっているエーテルシリンダーを擦り上げ、次いで右肩の包帯の留め金を左手の指で弾いた。バチン、という乾いた音が、木々の間に響く。


「お前は、馬を護ってな……さぁ、見ておけよ、これがアタシの言っていたことの答え……!」


 赤い包帯が解かれ、炎に照らされながら少女の右手が現れた。


 本来白いはずの少女の右腕には、黒色の筋が何本も走っている――それは、近くで見ればきっとただの線なのだろうが、少し離れた青年の眼には、どこか幾何学的な、意味の有り気な文様のように見えた。


 そう、少女の右腕には、複雑な術式が刻まれているのだ。


 少女は左の脇に下げているホルスターから右手で銃を引き抜き、バレルを額に付けて、祈るように眼を閉じた。これから行う生殺与奪の一切に関して、誰かに許しを請うかのように――祈りが済み、少女が眼を見開く。


「これがアタシの、鮮血の右腕【デスクリムゾン】ッ!!」


 そう吠えるのとほぼ同時に、少女の持つリボルバーの銃口の先に、陣の様な物が浮かび上がった。少女の右腕の黒は、今は赤くなっていて――そして引き金が引かれ、弾丸が陣を通り抜け、闇の中へと消えていく。そして近くに蠢いていたはずの気配は、すぐに無くなった。


 だが少ししてから、再び何かが蠢く気配を感じた。


「……仕留め損ねたのか?」

「いいや、どうやら……!」


 直後、辺り一面から音がしだした。そう思ったのも束の間、すぐに茂みから新たな黒い影達が飛び出してきた。


「一匹じゃねーみたいだな!」


 叫ぶのと同時に聞こえる一発の銃声、だが、動かなくなったサソリの化け物は三体。腰に当てた少女の拳銃から、硝煙が上がっている――右手の人差し指でトリガーを引きっぱなしにし、撃鉄を左手で扇ぐにして連続して起こし、銃を連射する技法――見事なファニング・ショットであった。そして、そのまますぐに一発、二発、最初の一発と合わせて、計六体の骸が出来上がる。


 だが、敵の猛攻は止まらない。撃ちきったリボルバーの装填も許されぬまま、少女に魔獣が襲いかかった。


「ネイッ!?」

「大丈夫だ! こんのぉ……野郎ッ!」


 如何に暴走体の動きが早いとしても、その速度は銃弾に比べれば数段遅い。南部式銃型演舞の使い手には、敵の止まって見えることであろう。飛びかかってくる一体を体捌きでいなし、ネイはそのまま腹部に右の拳を撃ちこんだ。その一体は吹き飛び、木に激突したかと思うと、そのまま動かなくなった。


 その後の小さな隙を見て、少女は拳銃から空の薬莢を飛ばし、素早い手つきで再装填すると、左手で強く撃鉄を起こした。そして、少女に襲いかかろうとしていた三体が、雷管の叩かれる音と共に動かなくなった。


 しかし、奇妙だった。あの右手に刻まれた複雑な術式こそが、少女の能力なのであろうが、弾丸が刺さった相手は、それがどこに命中しても動かなくなっている――つまり、絶命している。もっと言えば、一体――ただいま、青年の目の前で二体目が少女に殴り飛ばされたが――少女の右手に触れられた暴走体もまた、絶命しているのである。


(……まさか、あの子の能力は……)

「……!? おい、お前!! ぼさっとしてんじゃねー!」

「……ッ!?」


 青年はベルトからリボン状の帯が巻かれているボビンを取り出し、自らに飛来する一体を刃にして受け止めた。


「うぉ……うぉぉおおおお!?」


 その力は、尋常ならざるものであった。既に起動させていた輝石の力で、強化されている青年の腕力をものともしない様な圧倒的な力。破られる――そう思った瞬間、銃声が響いたかと思うと、青年の前に一体の骸が出来上がった。


「おい、大丈夫か!?」

「あ、あぁ……おかげさんでな」


 やはり、自分などでは役に立たなかったらしい。しかも、こいつらは報告にある物よりも大分小さい。いくらデュポス保安官が針小棒大に語ったと言えども、流石に数体いるのならば、そこはきちんと報告するはずである。


 その後、もう一発銃声が響くと、辺りは一旦静寂に包まれた。


「ふぅ……しかし、一体じゃなかったのかよ?」


 一息付き、ネイは再び薬莢を排出し、今度はゆっくりと弾丸を装填しながら青年に近づいて尋ねた。


「きっと、暴走体になった時に、体内に卵があったんだろう。こいつらは、多分その子供だ」

「成程ね、つまり……!」


 今度は一体分、こちらに近づいてくる物音がする。しかし、それは今までの物と比べ物にならない程の大きな音だ。それもそのはず、辺りの木々をなぎ倒してきているのだろうから。そして、二人が身構えるのと同時に、巨大な槍のような何かが、闇の奥から飛び出してきた。


「うぉおおおおおおお!?」

「ちぃッ!?」


 飛来する凶器を避けるべく、二人は横に跳んだ。その強烈な一撃が一帯に強い衝撃を与えたせいで、燃え盛っていた焚火がかき消されてしまう。闇を裂くような馬の悲鳴が響き渡ったと思うと、林の奥に馬が逃げて行ってしまった。


 二人は何とか無傷であったものの、間に刺さったサソリの尾で、ネッドとネイは分断されてしまった。辺りに巻き上がった土煙が晴れたと思うと、青年の前には、保安官の評に違わぬ巨大なサソリが、月明かりによって照らし出された。その甲殻は、鼈甲べっこう色に輝いている。暴走体の小さな目が、青年を睨めつけているように感じられた。さながら蛇に睨まれた蛙のように、青年は立ちすくんでしまった。


「……随分とお怒りのようで」


 軽口を言った所で、許してもらえそうにない。サソリの腕の鋏が小さく動き、やられる、そう思った瞬間、銃声が聞こえて青年は我に帰り、体に力が戻った。


「ちっ、やはり鉛玉じゃきかねぇか!?」


 そう、向こうから声が聞こえる。青年の予想通りなら、少女の攻撃は、刺されば文字通り一撃必殺である。しかし目の前の巨大な甲殻類は、未だにその活動を停止していない。青年の見立てが正しいなら、少女の弾丸は当たりさえすれば、相手を絶命させることができる――つまり、少女の言う通り、鉛玉は刺さらなかったのである。

 その後、一発、二発、銃声が聞こえる。小さく銃弾を跳ね返す音が聞こえて終わった。


 暴走体が、ネイの方に向き直る。青年の方など、いつでも対処できると思ったのか――そのように判断できる頭があるならば、ではあるが――そして、両の鋏と巨大な尾で以て、少女に我武者羅がむしゃらに攻撃をし始めた。


 しかし、やはり暴走体よりネイの方が一枚上手であろうか、少女は相手の攻撃を見切り、ひらりとかわし続けている。その優雅な動きは、さながら月下で踊る妖精の様だ。勿論、辺りの木々を倒す轟音と、物騒な巨大凶器がなければ、の話ではあるのだが。その上、華麗な動きと反比例して、少女の表情もなかなか必死であった。そして何より、このままではじり貧だ。如何に少女の体捌きが優れていようと、有効打が無いのでは、いつかやられてしまうだろう。


(くっ……どうする、どうする俺!?)


 そう、何かしなければならない。指をくわえて見ていることしか出来ない、そんな自分は嫌だ。少女のために、何か少しでも出来ることはないか――。


「……おい、お前!」


 ネイが必死の表情で、青年に声に向かって叫んだ。


「そっちに、アタシのライフルが!」


 少女の左側を、尾がかすめる。


「一発入れて!」


 今度は、鋏が横薙ぎにされる。少女はそれを跳んでかわし、近くの木の枝にぶら下がった。


「銃剣に!」


 再び、サソリの尾が少女に襲いかかる。だが、ネイは木の枝を逆上がりし、その一撃をかわす。


「……戻ってくるから!」


 暴走体は鋏で、少女が乗っている枝のある木を切り倒してしまう。


「頼んだぞ!?」


 そして、木の倒れる音がしたと思うと、闇の奥に少女の背中と巨大な化け物が消えて行った。


 さて、辺り一面滅茶苦茶になってしまっている。青年は少女の持っていた長柄の包みを探し始めた。辺りは暗くなっていて、星の明りだけが頼りという状態。どうにか粉砕された馬車の車輪を見つけ、恐らくこの辺りであろうと目星を付け、必死になって手探りした。


 そして、確かな布の感触。少し力を込めると、その奥には確かに堅いモノがあった。


「……あった!」


 瓦礫の下から一気にそれを引き抜き、留め具を外すと、長い銃身が現れた。包みの中に入っていたライフル用の弾を、弾倉に入れる。そして包みに入っていた短剣を力強く銃口に差し込み、改めて完成した銃剣を見直した。見れば銃身にも、術式が刻まれていた。


 しかし、あの猛攻の中では、渡すのも一苦労なはずである。何とか、足止めできないものか――そう思った瞬間、青年は腰から紐のボビンを取りだす。辺りの木々を使って、罠を張ることにしたのだ。


「よし、これで……」


 そして、再び轟音がこちらに近づいてくる。見れば、少々息切れしている少女の後ろを、やはり鼈甲色の巨大な塊が追い掛けていた。


「ネイッ! 跳べッ!」


 少女は、なかなかに察しがいい。それに眼も良いのだ。青年の考えていることを、瞬時に読みとったのだろう。走った力で高く跳躍し、罠を跳びこえて青年の横に鮮やかに着地した。


 そして、青年は指先に全力で力を込めた。新しく買い替えたばかりの輝石が熱くなるのを感じる――二人の元に到着する直前で、暴走体は蜘蛛の巣状の結界に阻まれ、動きが一時止まった。青年が周りの木々を利用し紡ぎ上げた繊維の結界である。


 だが、凄まじい力だ。紐の端を持っている指が、持っていかれるかと思う程の衝撃。これでは長くはもちそうにない。


「そこに置いてある! 早く!」

「上等!」


 少女はニヤリと笑うと、ポンチョを脱ぎ捨て、左の甲のシリンダーをライフルの柄に差し込むと、そのまま刃を月が雲に隠れている天に高く掲げた。


「見せてやるよ……アタシの奥の手……」


 少女の右腕と、ライフル銃とが赤く光り出す。そして長身の銃が刃を飲みこみ、音を立てながら変形していった。


 ややあって音が終わると、少女の得物から蒸気が噴き出した。


炸薬突出剣ソードバンカー……アスターホーンッ!!」


 雲が晴れ、月明かりに照らされて、銀色が鈍い光を反射している。青年の眼に映ったそれは、柄の部分は木製で、ライフル銃の名残を残していたが、バレルと刃とがほぼほぼ同化した巨大な刀身を持つ、銃とも剣とも判別の付かぬ武器の姿だった。


 風が吹き、少女の三つ編みが流れる。星空の淡い光を背に佇む少女のシルエットは、まるで死神のようであった。


「……送ってやるよ、あるべき所へ」


 少女が化け物に対して手招きした瞬間、今まで以上の力が青年の手にかかり、青年の結界は無残にも破られてしまった。その余波で、青年は吹き飛ばされてしまう。


「うがっ!? がはっ……」


 青年の体はそのまま後ろにあった樹木に叩きつけられてしまった。だが、幸か不幸か距離は開いた――そういうことなのだろう、吹き飛んだ青年を、やや心配そうな眼で見ていた少女は、すぐに毅然と化け物に向き直る。


 刃のように鋭い視線を送る少女に、サソリは己が尾が狙い澄まして、矢のように打ち出した。


「ぬるい!」


 少女は僅かに身を逸らし、尾の先端をかわした。だが、ここからである。少女の右手に握られた刃がひるがえり、そのまま暴走体の尾の部分が切断する。土煙と轟音を立てながら、獲物の毒牙が地面へと落下した。


「まだ!」


 そのまま流れるような動きで跳躍し、ネイはサソリの背の部分に飛び乗った。そして、刃を甲殻に打ち付けて、柄の部分にある引き金に、その指を掛けた。


「これで……終わりだッ!」


 鋭い筒音が響き渡る。銃弾でびくともしなかったサソリの甲殻が、ガラスの割れるような音を立てて崩れ――それと同時に、少女の赤く光る右腕が得物を押し込み、刃が暴走体の体躯へと突き刺さった。

 今まで暴れ回っていた巨躯が、ぴた、と動きを止めた。ネイは少し哀しそうな横顔を覗かせて、刃を引き抜いて巨体から跳びおりた。


 そして、少女は眼を閉じて、小さく十字を切った。直後、少女の背後で暴走体の体が煙を上げて崩れ去っていくのが見えた。辺りで倒れていた幼態も、それと同時に蒸気を発して消えて行った。

 青年が母親の居た場所に近づいてみると、そこには小さな、本来あるべき大きさの、サソリの死骸が転がっていた。青年は、しばらくその骸から目が離せなかった。


 気がつけば、辺り静寂が支配している。あんな化け物と戦ったのが、まるで嘘かのようだった。だが、青年の足元に転がる瓦礫や、近くに倒れた木々が、ここで行われた激闘を物語っていた。


「……これで、分かったか? アタシの能力が……」


 いつの間にか青年の後ろで、少女は赤い包帯を巻きながら、声を掛けてきた。

 もはや、疑うまでも無い。アレだけの力で暴れ回っていた化け物どもを、一撃で倒してしまう少女の能力。それは――。


「アタシの能力は……死、そのもの。この右手は、生き物の命を奪ってしまうんだ……この右手に触れたものは、皆死んでしまうんだ」


 そして。再びポンチョを纏った。先ほどまで見えていたはずなのに、今は暗くて、少女の顔がよく見えない。


「これで、分かっただろ? アタシに関わると、不幸になるって言った意味がさ……」


 だけど、少女の方から聞こえるその声は、なんだか寂しそうであった。



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