4-5
「じゃあ改めて、かんぱーい!」
すっかり元気になった様子の泉美ちゃんが音頭を取って、宴会は仕切り直しになった。といっても、私以外の彼らは午後七時過ぎから飲んでたらしい、場の雰囲気は温まってるを通り越して、煮詰めすぎみたいな感じになってる。泉美ちゃんが、取っておいてくれた私の分のおつまみを出してくれた。さすが泉美ちゃん、いいお嫁さんになるよ。
レイはお酒に強いのか、結構なハイペースで焼酎のお湯割りを飲んでいた。午後七時過ぎから飲み始めてこのペースって、なかなかなんじゃないのかな。私も負けてらんないって缶ビールをあおった。自慢じゃないけど、私もお酒は弱くない。いろはちゃんも取られちゃったしお酒くらい、なんて変な対抗心でメラメラしてくる。
ここでこうやってわいわいと飲むのは久しぶりで、酔いも回ってきたせいかなんだか嬉しくてしょーがなかった。シェアハウスの醍醐味の一つだよね。お気楽なこの場所が、私は本当に好き。くすぶってた色んなことは、全部ぜぇんぶアルコールで薄めちゃえば、ほらもうどんどんどうでもよくなってくる。お気楽ヒャッホー!
――飲み始めて、三十分くらい経った頃だろうか。
ウーロン茶しか飲んでいなかった悟くんが、おもむろに立ち上がった。
「みんなに、ちょっと見てもらいたいものがあるんだ」
レイの前世にまつわるお下品な下ネタでバカ笑いしてた私は、悟くんと泉美ちゃんの顔を見て少し酔いが覚めた。何をここで、深刻な顔をしてるんだろう。いろはちゃんと視線を交わす。いろはちゃんも同じことを思ったみたい。……え、もしかして。
「悟くんと泉美ちゃん、結婚でもするの?」
私の言葉に悟くんは吹き出した。一方の泉美ちゃんは、ふぇっ!? なんて声を上げて赤くなる。すぐさまレイが身を乗り出した。
「うっそ、マジで? すっげー、おめでと! いやー、婚約発表の場に立ち会えて俺、嬉しいわ。おめでとー!」
レイがパチパチ手を叩くので、私といろはちゃんもそれに倣った。いつの間に二人はいい感じになったんだろう。教えてくれてもよかったのに! あぁでもなんか、感慨深い。おめでとー、おめでとー! 私も嬉しいよ!
「……いやいやちょっと」
悟くんが珍しく動揺した顔で、両手をふるふるさせた。
「照れなくてもいいから!」
よっなんてレイは一層の拍手を送る。
「いやそうじゃなくて! ……今はその、そういう話じゃない」
ずり下がったメガネを片手で押さえつつ、悟くんは私たちをいなしてゴホンと一つ咳払いした。泉美ちゃんの方はまだ顔を赤くしたまま黙ってる。……なんだ、つまんない。意外といい組み合わせだと思ったのになー。
悟くんは、おもむろにズボンのポケットから折りたたまれた紙を取り出した。散らかったおつまみの袋をどかしながら、それをダイニングテーブルに丁寧に広げた。
「ネットで拾ってきた画像だ」
前に流れてきた髪の毛を指に絡めながらそれを凝視した。
防犯カメラの映像を引き伸ばしたものみたいだった。マンションらしきエントランスに立ってる男を写している。
「先週、この近くで起こった殺人事件の容疑者の画像。ニュースで流れていたんだ」
そんな事件があったんだ。ニュースとか全然見ないからなぁ。あ、もしかして、フリーターくんが話してたヤツかな。さすが悟くん。
悟くんはもう一枚紙を取り出した。さっきの画像を大きく引き伸ばして、かつ鮮明にしたものだった。
「容疑者の名前は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます