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もう少しだけ一緒にいたい。なんて穴川泉美に上目遣いに頼まれて完全にやられた。
そんなわけで、少し距離を開けて、ソファの隣に腰かけていた。手はずっとつないだまま。穴川泉美が座っている左側だけ、体がそわそわして落ち着かない。
情けないと思いながらも、沈黙に耐えきれなくなった僕はテレビのリモコンに手を伸ばした。途端に不自然なくらいにぎやかしい空気になってしまって、これはこれでちょっと後悔する。こうやって後悔や自己嫌悪を重ねながら、僕は毎日を過ごしていくんだろうと、諦めにも似た心地になった。どうせ完璧な自分になんてなれないし、なら受容していくしかない。
テレビでは夕方の報道番組を放送していた。殺人事件の真相に迫るコーナー、なんだろうか。レポーターの女性が、事件現場に向かっています、と深刻な表情で話しながら歩き出す。
なんだか見たことのあるような住宅街の景色だった。と、表示された住所はこのハウスのすぐ近くで目を丸くした。駅からこのハウスに戻る道を一本逸れたところだ。殺人事件なんて、騒ぎになりそうなものなのに。テレビもあまり見ないし新聞も社会欄はあまりじっくりとは読まないしで、まったく知らなかった。
『現場マンションから逃走した男の、防犯カメラの映像が公開されました。どうぞご覧ください』
「こんなニュースがあったなんて、全然知らなかった」
穴川泉美も呆けたような感想を漏らし、テレビにその目を釘づけにしている。
流された防犯カメラの映像は、マンションのエントランスを撮影したものらしかった。走り去っていく男の姿が一度映され、それから男の顔が拡大されて大写しになった。
僕と穴川泉美の、あ、というまぬけな声が重なった。
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