欲しいもの

 法事で親戚と顔を合わせた。随分と背の伸びた小学生の甥と〝いま欲しいもの〟の話になった。

「おばちゃん、代わりに産んでくれる人が欲しいなぁ。このおなか、もう重くて重くて」

 人見知りするたちの甥っ子は私の言葉に弱く笑った。

「マコト君は何が欲しいの?」

 聞いてもはにかみ微笑むばかりだ。


 ややあって階下から夫の呼ぶ声がし、大声を上げて答えた時だ。

「権力」

 ぽそりとそう聞こえた。虚を衝かれ、え、と聞き返したが、甥は二度とは口にしなかった。


 いじめで甥が学校に通えなくなってから、もう半年も経っただろうか。さっきの言葉を聞いてか聞かずか義姉あねは手慣れた溜め息をついた。


 折から表通りでは選挙カーの拡声器がかまびすしい。政治家たちの何割かは君のような子だったのかも知れないね。俯いて畳の目を見つめる甥に心の中で話しかけた。


 良くなるわけなどあるはずがない。忘れたふりに長じただけだ。それでも平気で産みなす権利がこの私にはあるのだろうか?。問いかけるように腹をさすると未だ外界を知らぬ肉塊は幾分か重みを増したように感じられた。

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