数と文字

 朝からかずが降っていた。拾い集めて重ねてみた。向きもきちんと揃えてやった。何だか少し立派に見えた。嬉しくなって重ね続けた。

 けれども次第に降る順番が気に入らぬものに思えてきた。4が欲しいのに降るのは7、2を積みたいのに拾えば100。並べ直すのも違うと思った。自分でいじればどうともなるが何でもありでは何にもならない。しばらく我慢して拾っていたが、とうとうすっかり悲しくなり、それに随分疲れもしたので、数降る野辺にぺたりと座った。

 数はそれでもなお降り続く。いつしかこの身は数に埋もれた。冷たげに見える数達だったが積もったそれらは生温なまぬるかった。埋もれているのも心地が良いとぼんやり思い始めた頃にヘソの奥から声が聞こえた。

「こんなところで埋もれちゃいけない。ここはあなたの場所じゃあない。あなたは文字で、数じゃない。それを私はよく知ってる。かつてはあなただったのだから」

 腹にしまって燻製にした昔の自分の声だった。

 そうだ、私は文字だった。自分だけでは示せる言葉も数える程の文字だった。他の文字らと繋がらなければ多くの言葉に変われなかった。それが悔しく忌々しくて文字たる自身を捨てたのだ。私は許せなかったのだ。順番の中の自分の位置が。

 気付けば覚えず立ち上がっていた。重ねかけの数が足下にある。

「並びは私を決める。私も並びを決める」

 最後に積んだ17が言った。数もまたある種の文字かも知れない。そう考える私の胸には忘れ去った他の文字達の顔が少しずつ蘇り始めていた。もう一度繋がって言葉になろうか。爪先は私の想いよりも早く懐かしい方角へと既に向いていた。

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