異~イ~

 西暦四八六二年‐師走三一日─初めて大陸腐蝕が観測される。

 西暦五七〇一年‐如月二〇日─NASAにて地球脱出船の搭乗員を募集。

 西暦五七三〇年‐霜月三日─人類、全五隻で編成された地球脱出船によって地球を脱出。


 残存している年表を何度も読み返したが、これにも腐蝕関係の歴史は記されてはいなかった。

 観測された年からの記録がごっそり抜け落ちているのは何れも同じな様で、過去を調べようにも情報が欠如し過ぎている。

 これではマスターに与えられた任務をこなすことが出来ない。 

 東京某所で人類に関しての情報を管理しているヒューマノイドは手にしている書類を元あった場所に戻し、また別の書類を取り出して資料を読み漁った。

 この行動をもう数千年も繰り返している。

 調べたところでマスターとの連絡手段はないし、取れたとしても自分はマスターの元へは行けない。

 無機質なAIはその事をきちんと理解している。

 それでもこうして貪るように歴史を知ろうとするのは、それが与えられた最後の任務であり、拠り所であり、自分の存在意義だからである。

 勿論、人類がいなくなってしまった後の歴史を綴るのも自分の仕事。

 誰の手にも渡ることの無い歴史を一人で管理、処理、作成しているがもうそろそろ疲れてきた。

 いや、ヒューマノイドはロボットなのだから疲れた等という身体的症状は起こらない。

 然し人間という生物のあらゆる生態情報をプログラムされたAIのお陰で人間同様の思考と感情が「疲れ」というものを発生させる。

 それでも仕事は仕事。

 休憩などしている暇など無いし、「生きている」わけではないので長期間になると二十四時間稼働してしまうのが常である。

 書類を捲るがもう既に知っている情報しか書き込まれてはおらず、目新しい情報も無い。

 ふと窓の外を眺めれば日が西の方角に傾いて夜になろうとしていた。

 灯りとなる資源がないので今日の作業はここまでだ。

 散らかした資料を片付けてさっさと起動停止シャットダウンしてしまおうとテキパキと整理をし始めた。

 そろそろ活動期限が限界なこの身体は、最近完全な闇に包まれると自動で起動停止されてしまう。

 その前に出来るだけ整頓しておきたい。

 そう思っても日は待ってはくれず、完全な闇が支配する時間となってしまった。

 機械音が静まり返っている部屋で谺する。

 その音に気付いたのか暗闇の中、部屋に設置されていた長椅子を探り当てて横に突っ伏した。

 「起動停止します。」

 誰にも聞こえないのに機械音声が眠りを伝える。

ブツンと回線が切れてしまったような音の後の記憶は全く無い。


 目覚めの朝日が窓から差し込み身体に当たると、小さく軋む身体を起こしながら機能を起動スタートさせた。

 今日もすることと言えば昨日と然して変わらないことだ。

 いつも通り書類を漁り、いつも通り資料を纏めて、いつも通り活動する。

 現在いる部屋の資料は読み尽くしたので、今日は地下三階にあるBフロアの資料を調べる予定となっている。

 迷わず足を進めて階段を降りていくと鎖か何かで通行止めにされて先に進めなくなっていた。

 道を間違えたのかと思ったが、今いる建物で地下への通行可能な階段は今いる西階段だけなので間違えていることはない。

 ここで止まっていては調べられるものも調べられないので、ヒューマノイドは鎖を潜って先へとまた進んでいった。

 なのに、また鎖の通行止めに食らってしまう。

 面倒なくらい封鎖しているということは偉い方が部下や部外者に情報が漏れることを恐れたのだろう。

 そこまでして知られてはいけない秘密があるとでもいうのだろうか。

 こんな姿になってしまった地球に秘密の驚異となる生命体など存在していないのに。

 かつてこの建物の長だった者達が隠したがった秘密とは何なのか、過去を調べる上で重要なのではないかと考え、一旦、目的地を変えて最下層フロアに行ってみることにした。

 1フロアずつに鎖が施されており、下に行くにつれてそれは厳重なものになっている。

 何とかして妨害を潜っていくと重厚な扉が目の前にある階へと到達した。

 きっとここが最下層だ。

 何百㎏とあるだろう扉を軽々と押し開け中を窺う。

 そこは真っ暗な闇に呑まれた病室の様な造りとなっていて、部屋のあちこちには物騒なものが突き刺さっていたりぶら下がっていたりしている。

 その際奥にはこの世界には不自然で不釣り合いな程真新しい寝具が設置されていた。

 近くには大きな機材が置いてあり、そこからは何本もの管が寝具へと伸びている。

 何があるのか寝具を覗いてみるがそこはもぬけの殻で何もない。

 無駄足だったと方向を変えようとした刹那、首元が悪意のある何かによって圧迫されてしまった。

 まぁ、ロボットだから首を絞めても生物のように死ぬことは有り得ない。

 首に回っている腕を確りと掴むと、それを寝具へと投げ捨て犯人が何なのか確かめてみた。

「うっ……。」

 衝撃が走った。

 そんな筈はない。

 有り得ない。

「っ!お前!!俺をこんなところに寝かしつけて何する気だったんだ!!!」

 そう話す者の姿は明らかに人型だった。

 ただ違うのは呼吸をしていること、機械的な熱ではない体温を持っていることだ。

 つまり、今目の前にいるのは既にこの地球から居なくなってしまった人類ということ。

 驚きを隠すことなど到底出来ない。

 それとは反対に人間と判断された者はずっとヒューマノイドを睨み続けている。

「チッ…答えない気かよ。」

 久方ぶりに見た本物の人間に興奮を覚えた。

 同時に疑問も浮かび上がってくる。

 この世界の空気は腐っている。

 人類が心肺機能を働かせる上で必要不可欠な気体は既に別の有害な気体に変化をしているのだ。

 毒素を含む気体をボンベ無しで吸うなんて自殺行為に等しい行いである。

 肺に入ってしまえば肺胞が腐りはじめて、次第に毒は体内を血液を通して循環し死を呼び寄せる。

 何故この人間は何事もないように呼吸をしているのだ?

「…貴方は人類なんでしょうか?」

 何はともあれ本人に聞いてみるしかない。

 ヒューマノイドは見た目の新しい寝台に座り込んで、辺りを見回す人間に質問を投げ掛けた。

「当たり前だろうが。それ以外に何に見えるワケ?」

 驚きだ。

 毒素を肺に取り入れても全く変化が見えない。

 新人種なのだろうか?

 いや、ヒューマノイドが記録を書き換えて自分を人間だと思い込んでいる可能性も否定できない。

 様々な憶測を瞬時にたてていく中、人間は寝台から体を下ろして先程自分が開いた扉へと歩いていってしまっている。

 慌てて追いかけ人間を止めた。

「何処に行く気ですか?外は毒で充満しています。貴方が人間だと言うのならこれ以上毒素の濃度が高い外へは向かわせることは出来ません!」

「退けよ!俺はこんな腐った施設から早く脱け出したいんだ!」

 人間は制止の言葉も聞かずに部屋の外に出て階段を駆け上がっていった。

 ヒューマノイドも後を追い掛ける。

 階段の死角で姿を見失うこともあったが自慢のAIが予測を立て人間の追跡を図る。

 一階の広いフロントに着くと追っていた人間が外の景色を茫然と眺めながら硬直していた。

 高性能のカメラが人間の手が僅かに震えているのを捉える。

「何だよ…これ。」

 まるでこの世界のことを解っていない風だった。

 ヒューマノイドは人間の隣に立つと彼と同じ方角を眺めながら軽い説明を始めた。

「資源が尽き、植物や動物、空気でさえ濁り腐ってしまった地球の末路を辿った世界てす。生き残った人類は新しい星と資源を求めて西暦五七三〇年霜月三日にこの青く美しかった母星を棄てました。現在は西暦で言うと八五〇〇年、私達自立式ロボット達が使用している暦では末法歴二七七〇年。日付は皐月十三日になります。」

 ヒューマノイドの説明に不思議な点が合ったのか人間はもう一度西暦を尋ねた。

「ですから今年は西暦八五〇〇年です。」

「嘘だろ…。」

 こんなときに嘘を言っても何にもならないことは人間もよく分かっているだろう。

 ヒューマノイドは横目で人間を覗き見ると、彼のだらんと力の抜けた腕を掴み建物の奥へと歩き出した。

 再び中へと連れ込まれる状況に人間は必死の抵抗を試みるが、頑丈な上に全く緩むことがない手には敵わず一方的に体力が奪われてしまうだけであった。

 仕方なく拘束され、ヒューマノイドの手に連れられて今にも崩れそうな階段を上らされる。

 一体何処へ連れていくつもりなのかと警戒を解かずに、人間は周りを観察しながら足を進めた。

 人間の今の姿は何かの実験のモルモットのようなものだった。

 入院患者のような薄青い脱ぎやすい服だ。

 あの真新しかった寝台に近くの機械と太さの異なる管。

 本当にモルモットだったのではとヒューマノイドは仮説を立てた。

 しかしあの施設で何があったのかは解らない。

 違法な研究ならば気を付けなければならないし、患者のケアも必要になる。

 ……今のところその必要性が全く感じられないが。

 ともかく、人間にきちんとした衣類を提供しなければならない。

 そんな粗末な格恰では動く際に体に傷を簡単に作ってしまう可能性が高いし、彼も色々と不便をするだろう。

 五階の一番奥の部屋にまだそこまで風化していない衣類が保存されている。

 ヒューマノイドは人間の手首を掴んだままその部屋を目指す。

 あっという間に五階に着くと早足に奥の部屋へと歩みを進めた。

 扉は重量を感じさせる出で立ちで、入ることを拒んでいるようにも見える。

 そんな扉もヒューマノイドの前ではお菓子の箱を開ける様なものでしかない。

 いとも簡単に開かれる扉に人間は驚きの表情で固まる。

 それを無視して部屋へと入り扉を閉めた。

 そこで手首を解放すると衣装部屋の扉を開けた。

 この部屋は誰かお偉い様の住居だったのかもしれない。

 豪華な衣服がズラリと掛けられているのだ。

「この中から好きな服を来てください。今のままでは何かと不便かもしれないので。」

「好きな服って……。オイ。」

 人間は衣装部屋を見るなり後方へ後ずさってしまった。

「何か問題でもありましたか?」

「問題って…大問題だろ。ほとんど女の衣装ばっかで男の服が見当たらないぞ!」

 人間の言う通り、衣装部屋の服は女性用に誂えているものが占めていた。

 取り敢えず目に入る服は全て女性用だ。

 人間はヒューマノイドが着用している服の襟を掴みキツく睨み付けたが、当のロボットは悪びれた様子はなく寧ろ何で怒られているのか不明と訴えかけてくる。

「あるだけマシと思ってください。こんな世界で繊維が維持されている洋服なんて滅多に残っていないんですから。」

 人間もそれは理解していた。

 あの時、外の景色を見たときに悟っていた。

 もうこの世界は人間に優しくないということを。

 繁栄していた頃に何度も口から溢れた親へのお願いや我儘なんてほんの些細なことでしか過ぎない。

 しかし、だ。

 いくら我儘が可愛いものであっても男の尊厳は失いたくないし、自分を知る奴が誰一人この星に居なかったとしても辱しめに他ならない。

(死んでも女の服なんかに袖を通したくない!)

 人間はヒューマノイドを突き放すとズカズカと衣装部屋に入り男用の服を探し始めた。

 桃色や山吹色、藤色に空色と色とりどりの服に埋もれながら洋服の海を泳ぐ。

 部屋の外から声が聞こえてくるのも無視してまともな服を探し続ける。

「それにしても何て服の多さだよ。」

(こんなんじゃ見つけた頃には昼になるぞ。)

 ボソボソと文句もたまに言いながら手と目を動かし続けること一時間半。

 「やっと見つけた。」

 人間はうっすらと肉付いた細い腕に服を掛けると衣装部屋から出てきた。

「見つけられたようですね。では私は退室していますので着替えが終り次第声を掛けてください」

 ヒューマノイドはさっさと部屋から出て、あの重い扉を閉じた。

 人間はヒューマノイドの姿が見えなくなったのを確認すると、着ていた患者用の服を脱ぎ早速引っ張り出してきた服に袖を通す。

 彼が取り出してきた服はとてもこの世界には似つかわしくないものだった。

 もし、この人間が大きな家の子で十六世紀に生きていたならそれなりに似合っていたのかもしれない。

「何でこんなのしか残ってないんだよ……」

 女物の服ならある程度のものが揃っていたが、生憎男物の服は燕尾服しか見つからなかった。

 やっと見つけた服だ。

 文句を言っていては何時まで経っても服に恵まれない。

 人間は渋々着るしかなかった。

 外で待機しているヒューマノイドを呼び戻すため重厚な扉に手を掛ける。

 扉なのだから引くか押すかのどちらかで開く筈なのに、この時どうやっても開こうとしなかったし寧ろびくともしなかった。

 ヒューマノイドは簡単に開けることが出来た扉なのに。

 何故だと頭を回転させるが解決法が見つからない事に少々苛立っていると外から「まだですか?」と声が聞こえてきた。

「もういいぞ」

 ガタンと音を鳴らして勢いよく開く扉。

 どうして自分は開けられなかったのにコイツは開けられたんだ!と憤慨しつつ目の前に立っている相手を見つめる。

(そういえばコイツ、私達はロボットとか言ってたっけ。)

 どうやらヒューマノイドがどういうものか忘れていたようだ。

 そこで思いたって人間は一つ質問をした。

 そもそも人間とヒューマノイドは会話をする上で重要なことを行っていなかった。

「今更なんだけど、お前って名前とかあんの?」

 重要なこと、それは名乗りだ。

 出会ってから既に何時間も経っているのに未だに二人は名前を呼び合っていない以前に教えあっていない。

 人間の言う通り今更だ。

 一方、そう思っているのは人間だけだったのかヒューマノイドの方は別に気にした様子もなかったが同意の言葉を発した。

「私は日本製ヒューマノイド型参式偵察機 -号機です。」

「いやそれ製品名だよな?!そうじゃなくてこう……なんつーか、愛称?みたいなのを聞いてんだよ!」

「愛称?」

 何だそれはとでも言いたげに首を傾げて頭上にクエスチョンマークが浮かんでいる様に見える表情で見つめ返される。

「そのようなものは残念ながら持ち合わせておりません。…貴方のお名前を聞いても?」

 今度は逆に人間がヒューマノイドに尋ねられる。

 人間は少しだけ目線を逸らし、またヒューマノイドに目を向けると話し出した。

「再びに花で再花サイカ。苗字は忘れた。」

 そう言う彼、サイカの表情は何処か儚げで寂しそうなものだった。

 サイカは苗字を忘れたと言ったが実際のところこれは嘘である。

 昔の古傷を抉り出す必要も無いと判断した結果ウソだ。

 この事については追々に。

 今はまだその時ではないということなのだろう。

 人間の固有名詞がサイカだと分かったヒューマノイドは直ぐに学習した。

 そこで蓄積されたデータベースにサイカに関する情報が関連で展開され、サイカが何時の時代の人間か考察しだした。

「サイカとは西暦五四〇二年から二十七年まで日本国で流行していた名前ですね。男女共に付けられたそうですよ。漢字も貴方と同じものが多いようで、地球の再興を願って付けられたことが多いらしいです。」

「へぇ、どうでもいい情報開示どうも。」

 素っ気なく返したつもりだったが、それをそのままお礼と受け取ったヒューマノイドは律儀に「どういたしまして。」と返答した。

 サイカは考える。

 別に名前がなくても「お前」の様な二人称で呼べばいい。

 でもそう呼ぶには気が引けてしまっているのだ。

 相手は自分のことをこれから名前で読んでくれるかもしれないわけであるし。

 情が湧いたわけではない。

 ただ少し悪いと思ってしまっただけだ。

 だから考える。

 このよく出来たロボットを呼ぶ名称を。

「どうかしましたか?」

「ちょっと黙ってろ。」

 ヒューマノイドは言う通りにこれ以上何かを話すことはなかった。

 サイカが何を考えているかなんてヒューマノイドにとってはどうでもいいことだった。

 彼が話すなと言えば話さないし、話せと言えば話す。

 そもそも会話は二人以上いることで成り立つのだから、今まで近くで誰とも接触しなかったヒューマノイドに話す事を妨害したところで何ともならない。

 人間のような複雑な感情の操作は馴れていないのだから。

「………。」

 サイカは黙り込むヒューマノイドをジロリと観察する。

 背格好からヒントを貰おうとしているのだ。

 ヒューマノイドの容姿は伸長一五〇センチメートル程の女性型、小柄で毛髪はアルビノでない限り有り得ないであろう腰まで伸びるきらびやかな白髪、瞳の色彩は黒に近い紫。

 服は体型に密着したスーツで、所々に電子機器らしい部分が見て取れた。

 見た目年齢は齢十七くらいだろうか。

 正直言って可愛らしい。

 しかし名前を付けるにあたって可愛いという要素は必要無い。

 サイカは手っ取り早く第一印象だったものを名前として採用した。

「おいシロ。」

「シロ?」

 ヒューマノイドは急にそんな単語を発したサイカを見る。

「お前のことは今日からシロって呼ぶから。」

 対して「シロ」と呼ばれたヒューマノイドは、またデータベースから「シロ」に関する名称を引き出して説明を行った。

「『シロ』とは昔からよくある動物などに与える名前ですね。主に白い犬には呼びやすい、親しみやすい名前でつけられています。……私は動物ではありません。」

 全て言い終わってから、「シロ」と呼ばれた自分が動物扱いを受けていると勘違いしたヒューマノイドはすぐに否定をする。

「そんなもん見て分かる!別に愛玩動物って意味で付けた訳じゃねーし。」

「愛玩?」

 スルーすればよかった単語をいちいち拾い上げて口にするヒューマノイド「シロ」。

 前述した通り、このヒューマノイドは可愛い。

 人間がまだこの地に栄えていれば一部で愛玩ロボットとして可愛がられていたに違いない。

 人間であるサイカがそう言ってしまうのも無理はなかった。

「いや、だからそんなんじゃなくて!見た目が白いからシロなんだよ!!他意はねーから」

 一気に捲し立てて説明をすれば、シロは「そうですか。」とあっさりその名前を受け入れた。

 さて、名前も分かり、一応ちゃんとした服も身につけた。

 あとはこれからどうするかを決めるだけだ。

 サイカは少々疑問を抱いていた。

 シロが話した通り、人類は既にこの地球から出ていってしまっているのに、何故自分だけがこんなところに取り残されてしまったのかということだ。

 死んでいたのなら焼却してしまえば良かったし、なんなら雑でもいいから土に埋めてしまってもよかった。

 でも目が覚めたときの自分の状態といえば、口やら腕やらに管が繋がれていた。

 傍にあった機械だって故障している様子は全くなかった。

 人類が“全員”逃げ出したのであれば、サイカもこんなところで燕尾服など来ていないだろうし、偵察機のヒューマノイドと話していることもない。

「人類って全員この星から出ていったのか?」

 この星の歴史を知っているシロに訊ねる。

「はい。脱出船の搭乗者を募集していた時点では定員オーバーでしたが、出発の一年前になると定員よりも少々少ない人数になってましたので置いていく筈だった病人も一緒に脱出しました。」

 シロの説明であればサイカもその搭乗員の一人に成り得た筈だ。

 なのに何故残されてしまったのか。

 チラリとシロに目線を向けた。

 彼女は自分を見て「人間ですか?」と聞いてきたことを思い出す。

 その言葉からシロが何故自分がこの星に取り残されたか知っているようには見受けられない。

 ということはシロに聞いても答えは帰ってこないという訳だ。

 なら他にこの質問に答えられる者を探さないといけない。

「……お前以外にロボットっていんの?」

「私以外はこの日本にはいません。」

 言い方からすると他の国にはいると言うような口調だ。

「じゃあ何処にいるんだ。」

「『R-1ブロック(ロシア)』や『A2ブロック(アフリカ)』など様々なエリアにいます。基本は各エリアに三体ずつ配備されていますが、『Jブロック(日本)』は面積が小さいので私一人です。」

 そしてまた考える。

 今の自分が取るべき行動を模索する。

「……知識の多いロボットは何処にいるんだ?」

 その質問にシロはテンプレートな回答を伝えた。

「『B-1ブロック』、イギリスにいます。しかし彼にコンタクトを取るには『A1-1ブロック』エリアに行かなければいけません。」

「A1-1ブロックって?」

「北アメリカです。」

 サイカの疑問に答えられる人のもとへ行くにはどうやら太平洋を渡らなければならないらしい。

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棄てられた世界は比喩するならば瓦落多で 飯杜菜寛 @iizuna-com

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