棄てられた世界は比喩するならば瓦落多で
飯杜菜寛
五七-二八
「ごめんなさい……っ、ごめん…な、さっ」
「早くしろ!もう──は諦めるんだ!!」
「嫌よ!!だって…だってまだ生きてるわ!」
「母さん!兄さんは死んだんだよ!!呼んでも、起こしても、目を覚まさないじゃない!!」
声がする。
懐かしい、安心する声。
「早くしないか!遅れると私達も捨てられるぞ!!」
「行こう、母さん……」
「うっ…、ごめんね、──」
待って。
置いていかないで。
追い掛けたい。
一緒に行きたい。
俺も連れてって。
でも動けない。
意識も朦朧。
なのに馴れた声だけはこんなにも鮮明に聞こえる。
孤独感。
疎外感。
それらに包み込まれて深い微睡みに誘われる。
もう足音も聞こえない。
置いていかれた悲愴感が溢れ出す。
捨てられた。
両親に、弟に、捨てられた。
待って。
待って。
待って。
お願いだから、置いていかないで。
地下の病棟で、俺は細いものから太いものまである管に繋がれたまま微塵も動くこと無く朽ちていくことを余儀無くされ、独りで死ぬことを強要された。
サヨナラ、親父。
サヨナラ、お袋。
サヨナラ、弟。
サヨナラ、世界。
もう感じることもないこの空間で深い眠りについたのは家族が離れてしまった五秒後の事だった。
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