第五章 イケニエ台のケイコ

1 


 西の空が赤い。             

 鹿沼の夕焼けは美しい。


 三木露風の童謡に歌われたような牧歌的な美しさがある。


 雨季がまだはじまらないので、この季節には、空気が澄んでいる。


 足尾山塊の上空に茜色の空が広がっている。夕焼けの西の空を眺めて。一日の終りを。「ああ今日もぶじ暮れたか」と嘆息まじりにつぶやく。感性は。人から失われている。


 しかし今日の夕空は、なぜか不意に――。

 どくどくしい蘇芳色になる。


 雲が急に変色したのに――人々は気づかない。


 巨大な鯨を横割りに切ったような。気味のわるい色の雲……。鮮血が滴っているような雲。茜色と美しい言葉でいえないような。夕焼けの空になってしまった。 


 不吉なことが起きる前兆ではないのか。これは血の色ではないか。


 空が血の色だ。一瞬、厚木基地の滑走路の隅の黒い死体袋と血の色が。アサヤの脳裏によみがえった。    


 もぞっと袋が動いた。やはり夕暮れ時だった。数千キロかなたから運ばれてきた死体が動くわけがない。アサヤは小雨の中、厚木基地の片隅。焼却炉のわきに積み上げられた黒い死体袋の山を見上げていた。


 ふりかえったが、交代要員のジムの来る気配はなかった。まだ時間にはなっていない。パトナーの白人のマックスは作業をサボって飲みにいってしまった。


 高宮は内閣情報室に出向していた。明日まではもどらない。酒好きの彼のことだ。いまごろは、新宿のゴールデン街で飲んでいるだろう。そう思う――。


 仕事をしているのはおれたけだ。とブルーになる。それも、こんな汚れ仕事だ。 禍々しい黒い袋の山が、ムクッと盛り上がった。累々とそびえる黒い袋。黒い袋が立ち上がった。


 雨の音だけがしていた。聴覚だけが、アサヤを現実につなぎとめている。    

 獣のような声が聞こえてきた。

 ……邪悪な気配をあたりにふりまいている。

 人型の黒い影は背伸びをしていた。

 ビーと音波のようなささやき声が。アサヤの耳にひびいてきた。

(なんだ日本に帰っていたのか。おまえにはおれの形が見えるのか。なら……話ははやい。ここで見たことは、とくにおれのことは忘れるんだ。おれは傭兵Aとでも覚えておいてくれ。あとはすべて忘れろ)                


 あまり損傷のない肉体が怖かった。死んでいたはずだ。それが、こうして死体袋を内側から鉤爪で切り裂いて出てきた。


 死体袋は黒い子宮。それを内側から切り裂き再生したモノ。

 吸血鬼??? おれはどうかしている。悪い夢を見ている。

 こんなことがあるわけがない。      

 父が鹿沼土の窪みにのみこまれていく。悲しい目撃の体験が。思い浮かんだ。

はじまったのだ。またあの超常現象が。


 逃げていく人型の影を。じっと見詰めていた。恐怖で足がすくむ。身動き出来なかった。


 悪夢のようなクリーチャだ。害意をあたりにふりまく。体が臭い。口が臭う。汚水のような臭いの流れが後にできる。こちらを威嚇して、シュシュと唸り声をたてていた。声をだしながら移動していた。


 傭兵Aは4メエトルもある金属ネットヘンスをらくらく飛び越えた。

 アサヤは逃げ出した。

 

 なんのための、故郷での血の出るような修行だったのか。  

 

 傭兵Aの変容に恐れをなした。

 逃げながら悲鳴をあげていた。      

 パニックに陥っていた。

 ゲートの方角からMPが走ってくる。   

 

 そこで、アサヤの記憶はとだえる。    


2 


 ほかのものに見えないで。わたしに見える。

 なぜなのか。

 しかし、アサヤはいまは、そんなことは気にしていられなかった。

 二股山、石裂山、古峰山、そして遥か彼方の日光の山並。


 やがて血色の空は闇に閉ざされる。闇のなかでは、アイツラは力を増す。    悪意が御殿山公園の隅々から沸き出てきた。 

 アイツが現れてからでは遅いのだ。そのものの完全な形を太陽のもとで見たことはなかった。たえず、身近にその悪意を感じつづけて生きてきた。悪意の波動はアサが年をとるとともに強くなった。そしていま、アサヤは得体の知れない波動の渦を感じた。           

 

 それは黒々とふしくれだった桜の古木の影からながれてきた。 

 影が現れた。


「アサヤのオッチャン。散歩ですか、もうすぐ塾の始まる時間スよ」

「どうしてここにいるんスか」

「三津夫と番場か。おまえらに、昨夜約束した説明をするまえに、どうしても確かめておかなければならないことがあったのだ」

「じゃ、武せんぱいも呼びますか」 


 おれも歳だ。三津夫の放す波動には害意はなかった。むしろ、公園に満ちた悪の害意に逆らう、拮抗して闘う波動だった。善と悪。その識別すらおれはつかなくなっているのか。      


「ソイツラ、が目指していたのが、ここか?」

「妖狐のヤツは御殿山を知っていました」 


 そうか。三津夫の話す黒装束の集団の。

 残留思念が。

 ここに漂っているのか!!      

 彼らと遭遇した三津夫と番場にも。

 その思念が。

 まつわりついて。

 いるのだ。        

 昨夜Fの屋上でふたりが会ったというモノたちも。悪意の牙をもっていたはずだ。おれの――感覚が鈍ったわけではない。それら諸々の異体との接触の汚れが。三津夫と番場に付着している。

 それで二人から妖気を感じたのだ。

 そう気づくと、アサヤはいくぶん気をとりなおした。

 仮想現実と。われわれが現実であると。信じている世界を隔てていた障壁に。ゆがみが生じている。番場も口をはさんでくる


「御殿山への道を訊かれました……」


 ふたりとも。あの「妖孤」と背に染めぬいた特攻服やスタジャンの族。の連中を見たのか。見ないのか。分からなくなっている。記憶が曖昧になっている。

 あちら。

 こちら。

 彼岸。

 と此岸(しがん)

 鹿沼と。

 裏鹿沼。

 二つの世界のブレの中に。三津夫も番場も落ちこんでいる。


「おそらく式神だろうな。黒装束の吸血鬼を式神として身のまわりにひきつれているとすれば、そいつは……耳がとがっていなかったか……」


 おれの推理にはまちがいはない。ヤツラが動きだしたのだ。千年の時空を超えて。千年の時空を超えて、京都から。鬼を呼び寄せることができる。

 それほどの能力を喚起できるものは……。



 ヤツらが。ふたたび。

 この街をオソオウトシテいる。


 御殿山公園の南側に堀跡がある。 

 いまは草がボウボウトはえた窪地だ。このあたりと見当はつけていた。アサヤは背中にぞくりと戦慄が走る。昔、少年野球をしていた。乾きを癒すために下り立った内堀の跡に。あった井戸。城があったころから。存在したという。伝説の井戸。あの頃でさえ。青く苔むしていた井戸。  


 だが水のうまさは……。

 いまでも覚えている。  

 この窪地。光のささない影の部分の。この地のもつ違和感。はっきりとこの肌が覚えている。そして、昔はあまり見えていなかったものが。見えてきた。石の囲いがわずかに残っているにすぎない。

 アサヤは三津夫&番場とその縁に立った。 

 苔むした石に掌をあてた。        

 

 アサヤは呪文を唱える。

 石がゆっくりと盛り上がってきた。

 呪文は切迫する。

 青い鱗状の苔むした。

 石の蓋がうごいた。

 石の表を擬装していた。

 呪文が高鳴る。朗々とひびく。

 苔が枯れていく。  

 迷彩が消えると……。  


「先生。これは……」


 おどろいてあげる声を。番場は三津夫に押さえられた。


「これはなんなんですか」


 こんどは低く囁やく。異様なあたりの雰囲気を感じたのだ。三津夫は黙って辺りに気をくばっている。 


「抜け穴があるらしい。ゆうべ徹夜で鹿沼の古文書を調べた。街の中で。人知れず悪霊召喚の儀式ができるのは。こうした地下の空間だけだ。防空壕あとは。五箇所も昼のうちに調査ずみだ」

「残るはここだけって訳スか」


 しかし、さきほど。


「先生。これは……」


 と番場が絶叫したのは。そういう回答を求めたわけではなかった。みなれた塾の先生。

 何の変哲もないアサヤのオッチャンが。ほかのものに変わっていた。呪文をとなえる塾の先生。アサヤがふいに溶解した。破れた墨染めの衣を着た乞食坊主がいた。


 それが見えた。


 番場にも見えたのだ。なんで、アサヤのオッチャンが坊主に見えるんだよ。おれはどうかしてしまったのかよ。と三津夫のほうもびびっていた。

 そんなことはない。どうかしたわけではない。三津夫も番場も、心配するな。ふたりとも、とくに三津夫は。二荒の血を強くひいていたのだ。おれの姿が乞食坊主に見えるなら。


 三津夫は、おれの側の人間だ。番場もどこかで、わたしたち麻績部 (おみべ)の系譜につながってる。


注。麻績部については半村良『闇の中の系図』角川文庫151ー155ページを参照。


 だから、番場も異様な雰囲気は感じる。先生が呪文を唱えていた。だが、番場にはまだ異界の気配は感じられない。

「空気が濁っていない。だれかが出入りしている証拠だ」

 じめじめした空気。だがたしかに。空気は淀んでいない。抜け穴はほどなくつきた。


 御殿山の裾の今宮神社のあたりだ。


「封印を解き。この穴にもぐりこむことのできる人間が。鹿沼にはいないと思われている。なめられたものだ。それがさいわいした。わたしは、結界をはり。長いこと鹿沼の若者のために塾をやってきた。こんなちかくに悪意を噴き出す場所があったとは――」

「先生。故郷、鹿沼のためなら。ぼくは先生の教えにしたがい闘います」


 三津夫と番場。ふたりが声をそろえてアサヤを支える。やや広くなった行き止まりに大谷石の台があった。

 


 生贄台? 石室とも見えた。


「ケイコさん」


 三津夫がかけよった。

 人型の窪みにケイコが綱で固定されていた。


「だいじょうぶ。息はしている。しっかりしろ」


 三津夫が夢中で縛めをとく。綱は9本あった。綱からは血がながれていた。綱の先にはそれぞれ9個の小さな壺がある。


「先生……アサヤ先生。わたし、わたし」


 ケイコが泣いている。弱りきっている。このまま発見がおくれれば失血死していたろう。


「どんなことがあっても……。どんな理由があっても……。ケイコが犬飼の人たちのために生贄となって。人柱となって死ぬなんてことは許されない。それこそ犬死だ。生きぬくのだ。いま拘束は全部といてやる」


 ケイコが犠牲となって死ねば災いは起こらない。

 われわれは、地竜をあやつることができる。地震を起こすとができる。

 那須岳をふたたび噴火させることもできる。黄金の九尾の狐。玉藻の前のご加護のもとに。われら千年の時空を超えて。よみがえりしもの。


 犬飼村のおまえらの先祖が。われらに弓ひいた罰は――。

 おまえの体と血で。あがなってもらう。

 そう脅かされた。

 特攻服をきた「妖狐」の集団に。脅かされた。

 それで、どうしていいかわからないで家出したというのだ。    


 三津夫に相談にいった。会えずに帰るとき、誘拐されて……。   

 妖狐のヤツラだ。吸血鬼だ。この地下を隠れ巣窟としている。住みつく気でいる。それで、この御殿山にくる道をたずねたのだ。ここは吸血鬼の基地だ。あれから、ずっと、この辺りに住み着いていたのだ。そう、三津夫は理解した。


「ケイコ。間にあってよかった」


 麻屋はケイコを抱き起こした。生贄台から下ろした。

 わかった。わかつた。

「ここで死んだら、犬死にだ」

 もう泣くな。これからは、おれたちがツイテいる。             


「先生、犬死になんで、ジョークとばしているときかよ」

 三津夫が夢中でケイコの頬を差すっている。

 血を失った青白い顔に赤みが差してきた。


「二荒せんぱい。死ぬまえに会えてよかった。せんぱい……。わたし…。せんぱいのこと。……好きです。スキデス……」

 あたりかまわずケイコが泣き出した。

「ケイコもういい。泣くな。輸血してもらえば。すぐに元気になるからな。死ぬなどと考えるな。三津夫とわたしをサポートしてくれ」


 おまえは、犬飼の娘。九尾の狐をかりたてた犬飼い族の末裔なのだ。

 誇りを持て。

 これきしのことで泣くな。アサヤが念力を凝らす。ふたたび、三津夫は。

 そこに墨染めの衣の立ち姿をみた。

 心に僧侶の言葉がひびいてきた。

 呪文はいらない。

 念をこらすのだ、三津夫‼

 ケイコの能力が目覚めるよう祈るのだ。

 念じるのだ。

 ケイコの体力が回復するように。

 祈るのだ。

 三津夫、おまえにふさわしい女生徒だ。

 おまえのことを好いていてくれた女の子だ。 

 塾の中学生との冬の合同特訓のとき。

 ちくちくする視線を三津夫は感じていた。

 ケイコのものだった。ケイコがおれを見ていたのだ。

 ありがたい。うれしい。

 おれみたいな蛮からをBFに選んでくれた。


 ふいに、悪意が凝縮した。

 地下への階段をおりてくるものがいる。


「こいつだ。オッチャン。おれたちがあった西からきた男だ」


 ガクランの男は。学生などではなかった。数百年いや、数千年を閲してきた凶悪な動物だった。Dタイプ。始祖に一番近いといわれている。Dタイプ。兇暴なヤツ。いちばん敵にはしたくないタイプ。

 Dだ。

 始祖Dにかぎりない近似値をもつDNA。

 こわいタイプだ。  


「安倍泰成の封印はとうのむかしに弱まっていたのだ。いつでも、この野州の地に来ようと思えば、来られたのだ。神戸に地震を起こした。京都でも地の竜にひとあばれさせた。いまこうして、玉藻さまをおむかえにきた。石裂山は尾裂く。この鹿沼の西、加蘇の久我にある石裂山こそ。実は九尾の狐の封印された土地。この娘の住む犬飼村で飼っていた。猛犬の群れに追い立てられ。追い詰められ10の世紀を封印されたものの。恨みを思いしれ」


「それでケイコの血か。あいもかわらずクラシックナ連想ゲームだな。犬飼の娘の血をぬきとり九つの部族のものを召喚する」


「古くて悪いか」


 吸血鬼が乱杭歯をむきだした。

 にたにた笑っている。

 姻循姑息な考えは改まらないものだ。

 温故知新といきたいものだ。


「三津夫、ケイコを連れだせ」

「いいの。わたしは闘うことにした。はじめからそうすればよかったのよ」


 血の気のうせた顔で。ケイコが健気にいう。


「番場、武を呼べ。はやく、呼べ」

 

 アサヤと愛弟子。三津夫とケイコは狭い空間で。背中合せにかまえた。


「だめだ。 電波がとどかない」


 番場が携帯を耳に当てたまま。


 おろおろしている。


「外に出よう」


 有蹄類のような。

 がっがっという足音。

 吸血鬼は動きまわっている。

 そのひびきは人をおどす。        

 耳にひびく。恐怖が。吸血鬼から放射されている。

 スズメバチの大群におそわれるような唸り。

 周囲のものを威嚇する音。吸血鬼が唸っている。

 頭には山羊のような角が生えていた。   

 尖った耳。悪魔。吸血鬼の影が立ちゆらいでいる。


「こ、これは……」


 驚きの声を上げたのは三津夫だった。

 ふいに‼



 狼狩りするボルゾイのような。

 鼻面のせりでた。

 猛犬がわいてでた。


「ケイコが覚醒したのだ。三津夫おまえは忘れてしまったのか‼ あらぶる二荒神である遠い記憶を呼びおこせ」


 そして、三津夫は――。

 犬の咆哮に。

 呼び起された。

 そうなった。

 三津夫がかつて。

 そうであった。

 姿に立ちかえった。           

 形姿にはそれほどの。

 変化はない。

 もともと拳法で鍛え抜いた。

 体だ。

 体から放出されるエネルギーが。荒神であるものへ。かぎりなくちかい。変質をみせた。          

 光っている。後光がさしている。体が光につつまれている。炎をあげている。  ケイコのDNAに潜み。彼女をながいこと守護してきた。犬の遠吠えが。

 彼の遺伝子に作用した。                 


 三津夫も目覚めた。           

 ケイコがうれしそうに。

 彼によりそった。

 ザワッと悪意が襲ってきた。     

 

 アサヤの吸血鬼縛の経文に、吸血鬼の悪意は、その力は弱められていた。

 だが真紅の顎が。

 牙がケイコの首筋をねらって。

 襲いかかってきた。    

 

 三津夫が。もりあがった筋肉のたばを。備えた腕で裏拳を叩きつけた。Dの顎にヒットした。Dはわざとらしく。顎をまわす。くだけたはずの顎も。曲がった牙ももとに復している。


「なんだコレア」

「回復力が異常にはやいのよ」


 Dがたのしそうに、ニタアッとわらう。


「よくわかるね。オジョウちゃん」

 

 アサヤはふたりをかばいながら。出口に退く。


「あんなヤツがいるなんて。ちくしょう、信じられるかよ」

「あせるな、三津夫。Dもおまえをみてそう感じているはずだ。おまえのその体は、金剛力を宿している。あいつらの牙でも噛み砕くことはできない。外にでたら思い切り戦ってみろ」


 犬に変身したケイコは三津夫によりそう。

 御殿山公園でふたりは、吸血鬼と睨みあっていた。

 三津夫から離れず。

 吸血鬼の群れとケイコも。

 にらみあっていた。

 いっしょに戦えてうれしい。これからはいつも、いっしょだ。

 ずっとそばにいていいの。

 バァか。悪いわけないだろう。いつも一緒だね。

 ああ、いくぞ‼

 ふたりは吸血鬼の群れに乱入した。

 番場が後につづく。

 吸血鬼Dの背後では。仲間の吸血鬼は群れをなしている。どこからこれほどの吸血鬼が。湧いて出たのだ。ざわつき、禍々しい唸り声をあげていた。三津夫が駅であった。あの黒の長ランの連中だった。


 薄暗い洞窟をぬけでた。彼らはにらみあっていた。

 山の端に沈みかけている太陽にあぶられても。

 吸血鬼はにたにた笑みをうかべている。

 邪悪な気配は手でふれることができれば。

 焼け爛れてしまうほどのものであった。

 これほどの悪意には。

 久しく逢ったことがなかった。

 

 あれ以来……。     

 

 アサヤの内部で声がする。

 忘れるのだ。

 吸血鬼と遭遇したことは。忘れるのだ。

 吸血鬼。傭兵Aとの遭遇で精神的なダメージを受けた。アサヤを治療してくれたのは。基地専属のセラピストだった。この基地で見たことは忘れるのだ。   

 遠くで声がする。記憶があいまいなのは。記憶を消去されることで。この現実の世界にもどることが。許されたからだろう。


 内閣情報室のエージェントとして。

 生涯登録ナンバーをもつ条件のもとに。

 故郷にもどることを。

 許された。

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