第四章 デパート屋上の怪異

1            


「自殺した東中の小夜子ちゃんがデルの、きいたぁ……」

「でるって、あれ……オバケになって?」

「ねね、その浮遊霊どこにでるの」

「Fデパートの非常階段の下たぁ。あの子がクラッシュしたとこ」

「やだぁ。こわいよう」


 廊下で女生徒がさわいでいる。

「高校生がうじうじそんな話しするんじゃねえの。たまたま、小夜子なんて名前だから、何番目の小夜子かしらねえが、テレビドラマと現実を混同して、おかしな噂を流すヤッがいるんだよ」

「あら、番場センパイはそういうけど、ほんとなのよ」

「うえに上がりたい。階段を上らせて、っていうんだって」

「のぼりたい。のぼりたい」

「昇天してないのよ。迷い霊となってあのあたりにただよっているのよ」


 一昔前の人気コミック、スカイハイの読みすぎだ。釈由美子のドラマをまだ覚えている。スローライフ。なにごとものんびりした町の高校生だ。


「きゃぁ。こわい」

 女子生徒は胸がふれるほど近寄ってくる。このほうがよほどこわい。どさくさに紛れて、番場の体に触れてくる。なかには、下腹部のほうまで手をのばす勇猛果敢な子もいる。

 その手をはずして、「おゆきなさい」と釈由美子の声色でいう。       「わあ、番場君、ステキー」    

 ステーキとまちがえられて、かぶりつかれそうだ。この高校でも、肉食系女子が増殖している。番場はバンバンモテモテ。硬派の名誉にかけても、女とニヤついはいられない。

 女生徒にはめっぽうやさしい彼らは、それを顔にはだせない。三津夫の後を番場はあわてて追いかけた。

 


 その小夜子の不遊霊の噂を番場は三津夫にした。三津夫は信じないと思った。ところが、三津夫はその怪談を武にもちこんだ。


「幽霊話はおれも信じないが、あれほんとに自殺だったスか」


 武はホームレス殺人事件の聞き込みに疲れていた。いくら歩きまわっても、なんの手がかりも得られない。警察のネットヘンス際にある公衆トイレ。警察への挑戦。ともとれる殺人事件。Fデパートの裏手から黒川河畔の『ふれあいの道』には。あの時刻には人の気配が消えていた。目撃情報は得られないままだ。    


「おれもあれは自殺だとは思っていない」

 うっかり口をすべらせるところだった。

「まさか、学生の浮浪者狩りがこの街で起きたわけじゃないだろうな」

「なんすか、武さんは、おれたちを疑ってるスか」

「刑事はなんでも疑うの。気にするな」

「します。絶対に気にします。」

「それより、いまからオフだ。そのミステリースポットのリサーチにでもいくか」

「いいスね。いいスね」


 三津夫と番場がよろこびの喚声をあげた。武が個人的にかれらの探検につきあってくれるというのだ。事件のあった公衆トイレが見えてきた。わずか数週間で桜は散り、ハナミズキの季節になっていた。Fデパートの前の『ハナミズキ通り』はこれから美しくなる。


 鹿沼でただひとつのデパートは休日返上で営業をしている。まもなく、9時の閉店時間だ。 

 デパートの裏側は桜並木の『ふれあい通り』になっている。

 事件のあった公衆トイレの周辺だ。

 禍々しい樹影を見せている。トイレの白い壁に。夜目にもあざやかに。妖狐参上と。赤のスプレー文字が浮かび上がった。


「あれ、今朝はなかったんだがな」

 まだ立ち入り禁止の黄色いテープがはられている。それをかいくぐってお痴絵と文字をかきなぐったやつがいる。

「三津夫おまえのテリトリーは広過ぎるのか」

「そんな、こんなことするヤツは、いないはずなんス。『妖狐』なんてゾクはありませんよ。ただぁ、このまえ話しておいた、連中が消えちまったのが気がかりです」

「どうやら、おまえらの錯覚ではないらしいな」

 ごつごつした桜の黒い枝のつくりだす影。その『妖狐』というスプレー文字をいっそう不気味なものとしていた。春爛漫と咲き爛れていた花霞みが。蕊桜の季節になっている。


 川の土手をそぞろ歩きする人たちはいない。ホームレス殺人事件が解決していない。街のひとは不安なのだ。

 建物の影なのでこの近辺は暗い。深夜の静かさだ。かれらの背後では黒川の流れが渦巻き音をたてて流れている。


 なぜか、この川は夜になると水流が増す。生臭い臭いを漂わせる。

 舗道を横切りFデパートの駐車場に出た。まだ何台か止まっている車がある。建物の真裏にまわると闇はさらに濃密になる。去年の暮れだった。佐々木小夜子の死体がこの非常階段の脇に横たわっていた。


 屋上から投身したにしては損傷はすくなかった。血もとびちっていなかった。どちらかといえば、きれいな仏さまだった。ギグシャクと形態のゆがんだ惨状を思い起こし、武はブルッと震えた。



「どうしたんすか」

 バンカラなわりに。感受性豊かな三津夫が。武のおびえを見破る。

「なんでもない。なんでもない、さあ昇るぞ」

 武がいつも持っているペンライトを取りだす。足元を照らした。番場そして三津夫がしんがりをつとめる。もちろん、定番どおり、足音をころす。屋上で何が待ち受けているのか? 不安だ。警備員にでも怪しまれたらことだ。


 三人は屋上への非常階段を昇りはじめる。

 螺旋状の階段だ。一人が通れるくらいだ。上からだれか下りてくれば。体を横にしないと。すれちがえない。狭い。

 ひっそりと昇った。それでも、金属のこすれあう音がする。かすかな音なのだが。まわりが静かなだけに不気味にひびく。

 音がするたびに、三人の胸に怯えが走る。

 なにか、いやな感じがする。引き返すのならいまだ。下をみれば、螺旋になっている階段は闇にとけている。もどることを拒まれている。足元にだけ階段があって彼らは宙に浮いているようだ。武先輩と番場のふたりは感じないのか。


 妖気が頭上から襲ってきた。ひき返すなら。いまだ。妖気は三津夫にだけに感じられる。三津夫を襲った。

 動悸が高鳴る。警備員を警戒するなどという次元のものではない。とんでもないものが、屋上にはおれたちを待ち受けている。


 三津夫の背を悪寒が走った。おぞましいものに見詰められている。慄きが体を震わせている。おぞましいものに出会う予感が体をゆさぶる。

 やめるんだ。やめたほうがいい。やめろ。昇るのは、いま、すぐやめろ。警告ではない。命令だ。ひきかえせ‼ 


 邪悪な波動が屋上から迫ってくる。害意のシャワーだ。

 三津夫は恐怖の冷や汗でビショヌレダ。

 恐怖にガクガ震えた。あきらかに。なにか。悪意を。もったものが。悪意の塊が。待ち受けている。先に行く二人は。感じないのか。わからないのか。


 鉄骨の階段が飴のようにズルッと伸びた。

 踏みしめるスニカーの下で軟泥のようにぬかるみ。

 ずるっずるっと下にのびていく。

 いつになっても前をいく武と番場に追いつけない。三津夫は固まっていた。先に進めないでいた‼ 屋上への最後の段がせまった。右足をのばした。左足をふみだす。手摺もつきた。


 武のペンシルライトが蛍火のように光っている。三津夫の心拍が高鳴る。上りつめて見下ろす。その高さのためか。地上までの薄闇が。はるかな距離に見える。

 最後の段をのぼった三津夫がつぶやく。


「なんだ。これは……」


 声には。おどろき。想像をこえた邪悪なものが――。そこには存在していた。

 屋上には、なんと、黒い森があった。それも屋上庭園なとどいうナマハンカなものではない。黒々とした樹木がはてしなくつづいている。森には怪しい雰囲気が漂っている。


 遠近法のマジック……? 巧妙に街が再現されている。


「なんだよ、これは。ここの屋上はこんなに広かったのかよ」

「霧が深いから視界がきかないスょ。でも異常ですね。このコンクーリートの床、やわらかすぎますよ」

 三津夫のほうが武よりリアルに現状を分析している。

「コンクリの床が波打っているス」

「らしいな。それに水もない川なのに橋がある。あれは昔の御成橋だ。改築される前の、鉄骨のピアつきの橋だ」

「屋上に黒川が流れている。水がなくても……川があるだけでも……それだけでも、おかしいと思わないスか」


 これは、疑似体験の世界だ。バーチャルリアリテイだ。こういうことになると。わずかな世代のちがいだが。三津夫や番場のほうがすなおに受け入れる。現実と非現実という対立した感覚はあまりない。アンビリイバブルなものに感性を刺激されてエキサイトしている。武はついていけない。



 旧御成橋。

 京都の宮廷から礼弊使が日光の東照宮に参勤するときに渡った。由緒ある橋だ。改築されてから数年たっている。


「移築した話しは聞いていない」


 ふたりは、不気味にうねる床をふみしめながら、橋にさしかかった。橋を渡れば街に入る。街の風景がゆがんでいる。

 街の全景が奇妙にねじれている。

 橋もたわんでいる。これはもう、ROMチップのつくりだした古きよき鹿沼だ。


「御成り。玉藻の前さま御成り」


 橋を渡る。三津夫に聞けている声が武には聞こえていない。

 武の表情には変化がない。

(玉藻の前。玉藻、玉藻。どこかで確かにきいたことがある。こんなことなら。もっとマジに社会科の勉強をしておけばよかった)と三津夫は反省している。周囲は暗い。

 道路の感触がおかしい。発泡スチロールのうえを歩いているようだ。

「どうした。三津夫」

「せんぱいには、なにも聞こえないんスか」

「なにか聞こえるのか」

「おれたちのことを感じているやつがいるぞ」


 森の奥で気配がわいた。なにものか、三津夫の知らぬところで話している。

「おれたちの姿がそのまま真向こうからみえるのかもしいれない」

「おどしてみるか」

「おどしてみるか」

 ふたつの影がささやき交わしている。御成橋を渡りきった。街の古い家並みが見えてきた。しかし、どれくらい昔なのか。茅葺きや板葺きの屋根だ。だが、まちがいなく縮尺された鹿沼の街並だ。古きよき時代の鹿沼のミニチュアだ。


「これって、テーマパークですよ。ほら『むかしの鹿沼の生活展』なんて催しをやる準備をしていたのですよ。それにしてもおおがかりだな」

 番場がめずらしくうがった解釈をする。そうとわかると元気がでたのか、どんどん橋をぬけて街にはいっていく。

 小人国にまぎれこんだ、ガリバーの気分でいるようだ。

(それは、ちがう。番場、油断するな。なにも番場、危険を感じないのか)

 三津夫の不安は高まる。動悸も高まる。三津夫には幻聴が聞こえている。おれの恐怖感が作り出している。おれの脳が作り出している幻の声。おれだけにしか聞きとることのできない声なのか。


「番場、あまり離れるな」


 声をはりあげたが遅かった。

 番場の悲鳴が聞こえた。

 民家の中だ。


「男の血は吸えないな」

「女の、わかい女の子の血でないと口に合わん」

「男の血はまずいからな」


 そんな幻聴の渦のなかで、番場が忽然と消えた。


「どうした、番場。おれたちをからかうきか」 

 からかっているわけではない。そう感じている不安な声で武が叫んでいる。声にならない。声としては聞こえてこない。恐怖、恐れ慄く波動が番場の消えたあたりから流れ出ている。ふるびた民家の中で、悲鳴が起きた。番場だ。武と三津夫が跳び込む。囲炉裏がきってある。巨大な鍋のなかで湯がにえたぎっている。


「おや、向こうから獲物がやってきたぞ」

「食べてもらいたいのかな」


 囲炉裏を囲んで、ごくあたりまえの人型がうかびあがった。

 こんどは武にも聞こえたらしい。

 見える。


「なんだ、きさまらこんなところに住みついて」

 ホームレスと思っている。そう思っているほうがしあわせかもしれない。

「こいつらは……」

 三津夫がなにかいおうとした。奥の部屋で番場が「ここだ、武さん。たすけてくれ」と叫んでいる。襖を開けた。番場が鬼に首をしめられている。武は腰に手をまわした。拳銃は所持していなかった。三津夫が特殊警棒をふるう。3段に伸びる。鬼の頭部に叩き込む。


「どうしたんですか。なにをそんなに、かっかっとしているの」


 鬼が軽く後ろにとんだ。

 警棒をさける。


「なにものなんだ」

「おや、おれたちに話しかけられるのですね」


 奇妙に優しい声が戻って来る。


「なにものなのだ」 

「だから、あなたが思っているように血を常食としている鬼ですよ」

 解放された番場が三津夫の背後に逃げ込む。

「びびっちゃって、ごめん」

「あいては人間じゃない。異界のものだ。鬼だ、恥にはならない」

 ザワッざわっと鬼が動いた。

 取り囲まれた。



 囲炉裏の周囲にいた鬼どもが3人を取り囲む。

 一触即発。

「はい、カット」

 ちょび髭の監督の声。なに、なんなんだ、これは。ライトがつく。撮影現場にまぎれこんでしまったらしい。郷土の歴史を記録映画にまとめているのだという。番場の認識が正しかった。わけがない。         

(そんな、バカな)

 武が三津夫の腕を引いている。

(だまされないぞ。なにが映画のセットだ。撮影だ。そんなことは、聞いていないゾ)

「失礼しました」

 武があやまっている。三津夫はそっと振り返った。Sデパートの屋上から見下ろす。街がすっぽりと黒い霧におおわれている。

 巨大な人型の影がさっと黒いコートをひろげたようだ。

 そして。

 目前にいるのはこれまた黒いコートの男たち。吸血鬼だ。比喩ではない。人影は実在した。月光を背中から浴びている。無限にひろがる黒いコートの影は。街を覆ってしまった。


 目前の吸血鬼の立っているのは――屋上に作られたミュニーチァの鹿沼の西北に広がる前日光高原のあたりだ。屋上のセットが街に影響を与えている。

 三津夫が叫ぼうとする。

 武に口をふさがれた。

「失礼しました」

 武が挨拶している。

 誰にあやまっているのか?

 非常階段のところまでもどった。

 階段の手摺に触れた。

 階段が消えていた。

 階段の踏み板が。

 ない。

 三津夫は。闇の底に向かって。落下していく。幻覚におそわれた。闇にむかって。ダイビングしなければならない。恐怖におそわれた。そして、跳んだ。 

 だれか、悲鳴をあげた。         

 女の子の悲鳴だ。            

 キャアっという悲鳴が尾をひいて。闇の中を転落していく。      

 転落したのは少女。

 悲鳴も少女のものだ。


 いや。

 それは、ちがった。

 じぶんの悲鳴だ。

 と。

 三津夫が気づくのに。数秒かかった。


「三津夫。しっかりしろ。なにを見た」

 近くて遠いところから、武の声がする。

 がっしりと力強い腕で抱き止められている。

「投身自殺でもする気か。目を覚ませ」

「三津夫に見えて、聞こえることがどうしておれたちには、見えも聞こえもしない」

「番長がいたから、すこしはおれっちにも見えたのかもしれないんス。聞こえたのかもしれないんス」と番場。

「だが、どうしておれなんだ」

 三津夫には理解できない。

「もういちど、屋上に忍んでみませんか、武せんぱい」

「いや、危険すぎる。アサヤのオッチャンに相談してみよう」

「そうだ、アサヤ先生なら、オカルト小説を塾の授業の合間に書いているから、こういうことには明るいはずだ」

「塾の女子生徒が蒸発しちまったんだ。こちらから武のところにいこうとおもっていた」

 武の携帯に耳をよせていた三津夫が会話に割りこむ。

「タカコのやつ、何もおれにはいわなかった」

「昨夜のことも聞いていないのか」

「タカコがなにかしでかしましたか」


 生活の時間帯も。街での活動のテリトリーも。同じ家にいるのにちぐはぐだ。兄と妹は顔すらあわせていないらしい。

「吸血鬼の侵攻をうけているのだよ。この鹿沼が」

 とんでもないことを、オッチャンがいう。

 吸血鬼。侵攻。吸血鬼が……。

 こんなのって、オカルト小説のセリフだ。

 こんなのって、ゲームの世界の話題だ。

(なぜ、鹿沼なのか)

「玉藻の前といったのか」

「マチガイアリマセン」

 三津夫がむきになって声を荒げる。

「わるい。三津夫を疑っているわけではない。おかげで、だいたいのことはわかった。明日までには、くわしく説明できるだろう。今夜のとこは、気をつけて帰ったほうがいいぞ」       

「ケイコさんのことは、わたしも署にもどって調べてみます」

 武は携帯をとじた。



 ミグミは淫夢をみていた。

 集中治療室にまだいた。

 腕の痛みはうすらいだ。

 もとどうりになるかどうかはわからない。そんなのやだょ。赤ちゃん産んでも。まともに。だっこできないなんて。やだよ。やだからね。だいいち、彼ができても。片手でだきしめるなんて。ダサイよ。メロドラマみたい。ヤダア。

 いやがることないですよ。

 夢の中に。

 男の声が。割り込んできた。


「おれのいうことをきけば。腕だって。もとどおりに。使えるように。なるんだけどな」

「そんなオイシイ話し聞いたことないよ」

「バー」

 男のイメージ。

 が、ミグミの夢に。

 入りこんできた。

 腕を折られたアイツだ。メグミは悲鳴をあげた。

 そうだ。

 これは夢だ。夢なんだ。覚めるように。覚めるように。メグちゃんが受け入れてくれなくてもね。オジサンはヤルキだからね。男の顔はBタイプの顔。だがメグには吸血鬼とは写らない。ダランと股間にたれさがっているものが。ボッキする。そのおったった塔のように巨大な陰茎をみて。ミグミはまた悲鳴をあげた。ソンナの、入らない。

 入らない。

 さけちゃう。

 殺されちゃう。

 そんなことありませんよ。

 オジサンにまかせてくたさいね。

 バカ丁寧なことば。

 恐い。

 なめてあげますよ。

 なめれば、うるおってね、イタクなく、受け入れられますからね。

 長い舌だ。

 先がふたつに裂けてるみたい。

 でも、いいきもち。

 きもちいい。

 クリトリスをなめられている。

 裂けたもういっぽうの舌先は腟にもぐりこんできた。

 ペロペロと。

 腟と。

 ビンカンなとんがりを。

 責め立てられ。

 メグミは下腹部を。

 こきざみに。

 うねらせて。

 のぼりつめていく。

 ……こんなのはじめて。

 はじめて。

 こんなのってあるの。

 イイイイ、いいきもち。

 これじゃ、ポルノヨ。年齢制限R15。

 あっあっ、もつとやさしく。

 やさしく、やさしく、ヤッテ。

 そのちょうしですよ。

 よがって。

 きましたね。

 もっとよくしてあげますよ。

 ほらっ。

 太い長い男根がじわじわもぐりこんでくる。


「イヤァ」ミグミはじぶんの絶叫に目覚めた。……でも腰のあたりに快楽のなごりがまだ残っている。どれくらいの時間。責められていたのだろうか。スキュスキュと男根がピストンをくりかえした。どれくらい時間が経過したのだろうか。しまいには。オジサンが。


 メグミノ首筋に。愛咬の跡をのこして。消えていった。ミグミはベッドから起き上がった。

 アレッわたし砕けたほうの手をついて起き上がっている。

 これって、まだ夢の中なの。夢よね。夢よね。メグミは集中治療室を抜けて歩き出した。

 それから、彼女の姿を見たものはいない。


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