第六章 噴火する那須/九尾の復活


「夏子さんは……」

 真吾がバイクを隼人の車のわきにつける。

 前方の空に赤い炎が噴きあがった。

 ドンというすさまじい直下型の地震が車をはね上げた。

 高速を走る車全体に強い衝撃が襲った。

 横転を避けられたのは隼人と真吾と矢野たちだけのようだった。

 高速のいたるところで、衝突事故が同時に多発していた。


「噴火だ。あの方角だと茶臼だ。殺生石だ。玉藻の前の封印が解かれたのだ」

 隼人が真吾に叫ぶ。

 ついに那須岳の噴火が始まってしまった。予期できなかった。なんの変調も見られなかった。だが、爆発した。那須岳の噴火だ。

 地鳴りがつづいている。

 まばゆい光りが那須岳をおおっていた。

 茶臼から噴煙が上がっていた。溶岩が噴き上がっていた。



 煙りの中に人影がみえていた。煙りで目がかすむ。

 夏子はきっと光りのなかを見つめた。十二単の美女がこちらにあるいてくる。


「あなたは、玉藻さんね?」

「おまえは」

「ナツコ。大いなる夜、大谷の夜の一族の娘、夏子。ラミアとも呼ばれているわ」

「わたしは、覚えている。わたしは那須一族のものに追われていた。わたしを狩るために犬飼一族のものが猟犬を集めて参加した。下野の部族でその、玉藻追討、中央の命令に加わらなかった一族があった。それが大谷の夜の者だと――。わたしの九人の配下がいっていた。きのうのことのように覚えている」

「玉藻さん、あなたはダマサレテいる。那須に遷都なんてない。それに人間はもうなん代も生まれ変わってししまっています。あなたの愛する鳥羽院はもうどこにもいません」    


 那須に首都機能が移転されるという。それを促進しようとしている。鹿人に従う大谷の夜の一族の暴挙。

 テロ。

 怨みをこめて潜んでいた玉藻を刺激した。呼び覚ました。

 召喚した。

 玉藻の前の復活。

 そういうことだ。

 夏子はこの現象を、玉藻の降臨を理解した。 

 トウキョウの吸血鬼集団の暗躍。遷都を拒み、あくまでも中央集権を守ろうとする夜の一族。兄の鹿人はトウキョウの夜の一族を利用したつむりだ。逆に手玉にとられている。ダマサレテいるのだ。彼らは、玉藻の前を使って。この那須の地をもとの荒野にもどし。

 遷都できないようにしようとしているのだ。それでこそはじまった茶臼岳の噴火。夜の底に点在する人家や土産物屋はある。


『飛ぶものは雲ばかりなり石の上』 


 と歌われた殺生石のあるガラ場だ。

 時空を超えることのできる女が睨みあっていた。

 背後で川に流れこんだ溶岩が蒸気の柱を天空につきあげた。

 空に稲妻が光る。

 玉藻の前がこのまま解き放たれてしまえば。この那須野ガ原は滅ぼされてしまう。千年をけみする妖狐の恨み。怒気を浴びてこの地は殺戮と破壊に襲われる。そんなことがあってはならない。そんな狂気が渦まく前に、なんとしても阻止しなければならないのだ。

 

 那須野ガ原の地獄絵を再現してはいけないのだ。

 玉藻が暴挙を止めるように、夏子は必死で説得した。

「この地を滅ぼすおつもりですか」

 夏子が悲痛な声をあげる。

「犬飼一族と共に……」

 玉藻が甲高く笑いながら近寄って来る。

「いちどは、すべてを滅ぼし、この那須の地に帝とわたしで……」

「それは、わかっているでしょう。もうないのですよ。都が移ってくるなんてことは夢のまた夢……あなたを召喚するための口述、兄の鹿人が考えだしたトリックなのです……この那須の地を溶岩で焼き払う……そんな途方もないことはやめてください」

 夏子は必死で説得をつづけた。声にならない声で。念波による会話だった。

  

3                   


 硫黄が青く燃えていた。

 あきれるような年月をかけて地表に層を重ねてきた硫黄。岩肌にこびりついていた硫黄の成分が地熱の上昇にともなって燃えだしていた。青く漂う硫黄の流れ。硫黄の燃えたつ青い流れ。燃えたつ青い炎の川。赤く燃える溶岩流と青い硫黄の流れが合流する。まざりあって、じわじわと山麓をめざして流れている。


 まさにあらゆるものを溶解して飲み込む地獄の流れだ。喉と目につきささる硫黄の煙り。

 目が痛む。喉がひりひりする。息がつまる。

 紅葉のはじまりかけた広大な雑木林からコウモウの群れがわきでる。小鳥が飛び立つ。

 林に煙が流れ込む。那須野が原は、まさに地獄の様相だ。

 地獄だ――。地獄の青い炎が燃え盛っていた。地獄の流れは止まらない。

 空が青みをました。

 夜が明けようとしている。

 ふいに那須山系が火山活動期にはいった。噴火した。このままでは茶臼岳から噴きでた溶岩が低部に流れる。人家に到達するのも時間のもんだいだ。人家に達すれば、膨大な被害がでるだろう。その恐怖の大きさに夏子の全身がふるえた。なんとしても、この流れを住宅地まで流出させてはいけない。止めなければ。

 


 隼人も真吾もひたすら殺生石のある光りの輪にむかって進んでいた。

「この先に夏子がいるはずです」

 那須温泉神社の石の階段を隼人と真吾は駆けあがった。

「ぼくはさっきから夏子の恐怖におののく念波をキャッチしている。とんでもないトラブルが彼女を待ち受けていたのだ。彼女を引き寄せたエネルギーの渦を感じる」


 鳥居の影から人がわきでた。

 浮かびでたのは、黒のロングコートをきたQに率いられた吸血鬼の群れだ。黒いロングコートは日除けをかねていることは確かだ。都会に生息する吸血鬼だ。直射日光にはよわいのだろう。それにしても、どこにこれだけの吸血鬼がかくれていたのか!!

 おどろくほどの数だ。

 群れを成して、わきでてきた。

 大谷の一族も交じっているようだ。でなかったら、これほどの集団にはならないだろう。


「待ち伏せされていたのですね」

「東京は王子の吸血鬼は首都機能が那須にうつされるのには反対なんだ。移転推進派の大谷の夜の一族とは敵対関係にある。それなのに、鹿人が欲に目がくらんで判断を誤ったのだ。いや、王子の一族をとりこんだと信じているのだろう」  

 隼人は真吾に説明する。

「やっと……敵の姿がはっきりとしてきました。闘う理由もできました。わたしもこの下野の地が好きです。この大地を守ることに命をかけます」

 真吾の野州勅忍の血が騒ぐ。

 護国至高の思想が体のすみずみまで脈動する。

 真吾が麻の鞭をふるう。

 隼人も剣をぬいた。

 肌身離さずもっている唯継の魔倒丸が黎明の薄闇にきらめいた。

 隼人の降魔の剣が闇を切り裂く。そこにはかならず闇の者がいた。

 隼人は夏子の存在にむかって群がる夜の一族をなぎたおしながら進む。

 夏子。夏子。夏子。

 鉄パイプで殴りつけても。ナイフで切りつけても。倒せない異形のものが隼人の剣に苦鳴をあげる。

 麻の鞭が吸血鬼の腕を切り裂く

 真吾も戦っていた。

 到着した高見と矢野はケイタイで八重子たちに現在地を連絡した。

 闘いの状況を説明する。


「はやきてくれ。真吾と隼人だけではあぶなない。敵がおおすぎる」


 怒号と絶叫。


「どこまでもわれらが計画の邪魔をする気なのか」


 鹿人が群れの中心にいた。


「おまえたちだけできたのか」

 予想もしていなかった鹿人が隼人の前に立ちはだかった。

「この連中と手を組んだのですね」

「玉藻の前の封印を解くには、おれたちだけの憎悪の念では足りなかった。世間を恨む、テロには助けがいった」

「なぜ、それほどまでにして権力にこだわるのだ。トウキョウの吸血鬼はこの土地を原野にもどし、溶岩流の瓦礫の原野にもどし、遷都などといったたわごとを夢にしようとしている。あなたたち大谷の一族とは敵対する考えをもっているのですよ」   

「噴火はおれも望んではいなかった。予想もしなかった。おれはただ、吸血鬼族の頂点を極めたかった。おじいちゃんまでが、夏子の味方をしているんだ。夏子が憎い。どうせおれも、一族のやっかいものだ」

「夏子が嘆きますよ。彼女はあなたがはやく再生することを望んでいました。そして、兄妹として話し合えることを望んでいるのです。むだな争いは、やめましょう。いまからでも、間に合います。夏子と話し合ってください。あなたはトウキョウの夜の一族に利用されているのです。騙したつもりが、ダマサレテいるのですよ。彼らが、本気で遷都を考えるわけがないでしょう。いま彼らは、日本の頂点に立っています。その地位を大谷の一族に譲るわけがない」


 Qが黒のコートをはためかせて頭上から襲いかかってきた。

 矢野が携帯を耳に当てたまま叫ぶ。


「八重子さんたちがきます。もうそこまできています」

 吸血鬼の群れがざわついた。


 轟音。数百台のバイクの上げるエンジン音。


 八重子に率いられた『黒髪連合』のバイクの群れが戦列にくわわった。

 バイクで階段をのぼってくるものもいる。

 さすが、北関東一といわれる『黒髪連合』

 鹿沼のサンタマリア。

 空っ風。

 黒髪を中心とした族が、大同団結しただけのことはある。

 その数、およそ5百。

 数のうえからすれば吸血鬼に勝る。

 バイクのライトは夜の一族を狩る猟犬の目。

 何百という光りが明け方の薄闇で交差していた。 

 彼らは中世の騎士のようだ。

 パイプを小脇にかかえ夜の一族の軍列に突き進んだ。

 整然と槍ぶすまの陣形をとっている。

 彼らはまさに勇者。 

 じぶんたちの土地はじぶんたちで守る。

 中世の騎士さながらの覇気がある。


「真吾。真吾。ひさしぶりに暴れさせてもらうわよ」

「たたくな。パイプ槍を突き刺せ」

「わかっているわ。わたしにも、あいつらの正体は見えてきたの」


 吸血鬼の群れも黒々と数を増すばかりだ。

 まるで地底から沸きでるように増殖する。 


「隼人さんを助けるんだ。夏子さんを探してこの先にいる」

「こんどはわたしたちが恩をかえす番ね。キンジも。助かりそうだわ。わたしここで真吾と死ねたら本望だからね。野州女の意地をみせてやる」


 八重子はうれしかった。

 こうして真吾と行動を共にすることができて、うれしかった。


「またあったな」

 Qがニタッと笑う。

 怒るより笑ったほうが凄味がある。

 だが、八重子は怯まない。

「誘いにのって来てあげたわよ」

「おまえの血もおいしそうだ。女、覚悟しろ……たっぷり吸ってやる」

「なによ。あんたを殺せば、キンジの回復もほんものになる。そうでしょう。死んでもらいます」

  


 殺生石の周りの噴気が消えた。

 硫黄臭のある薄煙りが消えた。

 那須火山帯が衰退期にはいったのではないか。栃木県の観光業界では落胆していた。殺生石を客寄せの目玉にしていた地元は狼狽していた。これから、なにを客寄せの目玉にすればいいのだ。煙が吹き出さないなんて。

 そんな殺生な!! 

 とオヤジギャグが囁かれていた。

 それが……。

 巨大な安山岩をふくめた南北約150メートル、東西50メートルの地熱地帯。ガレ場がいま黎明の下で光りをはなっていた。地底から光りが立ちのぼっていた。

 赤い月が傾く。皓々と那須山麓を照らしていた月が白く西の空に傾く。

 朝日が東の空を染めている。朝焼けの空。                

 清々しい山伏姿のひとたちが殺生石の光りの輪にむかって祈祷をしていた。

 彼らが吹き鳴らすほら貝の響き。

 吸血鬼の群れをけちらし、隼人は、夏子の気配に近寄っていた。   

 もう、夏子が視野に入っていいはずだ。

 山伏の一人が隼人に近寄ってきた。


「女の人がきませんでしたか」

「われわれが玉藻の怨霊とまちがって、襲おそとした女人でしょうか?」

「黒髪を腰のあたりまでのばしています」

「そのかたなら、かなたの異変が起きているほうへ登っていきました。止めたのだが。ふいに現れてふいに立ち去った。夜目にも美しいひとでした」   

「ありがとう。夏子……ぼくの恋人です。玉藻の前の愚挙を止めるために、行ったのです」

「なんと。……玉藻の怨霊と闘いに行ったのですか」

「いや話し合いにいったのです……」

「そんな、むちゃな。ことばがつうじる相手じゃないんだ。巨大な負のエネルギーの、怨念の塊ですよ。千年におよぶ幽閉で地竜さえ動かすことのできる能力を蓄えたものですよ」

 山伏が絶句した。

 

 地の底が唸る。地底が騒いでいる

 縦揺れがした。大地が裂けた。盛り上がる。

 茶臼岳が断続的に噴火している。火柱が中天をこがしている。

 強い衝撃波が那須の大地に立つ隼人を襲った。

 また、溶岩が噴きあがった。

 真紅のマグマが中天に火の柱を吹き上げた。

 地竜が憤怒の炎を空に吹き上げている。

 長すぎた幽閉の時を経ていま解き放たれた玉藻が屈辱の怒りを爆発させている。

 千年の怒りをいっきに解き放った。       


「もう…だめだぁ」

 犬飼山伏の面々が叫ぶ。

 顔を赤々と照らす溶岩をはったと睨みつけてはいる。

 祈祷の声も途切れがちだった。


「平安と平成はその読みと音声だけではなく、社会現象や天候に、なにか通底するものがあるのかもしれぬ」

 犬飼一族の長と名乗った行者が炎を見上げながら隼人にいう。

 絶望。絶望の奈落におちこんでいく顔。顔。顔。もう……おそい。封印が破られた。安倍泰成さまの封印が破られた。われらは、泰成さまの命令で玉藻の前を、九尾の狐としてここに追いつめた。われらには、千年前の陰陽師の力はない。封印し直すなぞ、そんな法力はない。


「われら犬飼のものは千年にわたって玉藻の前の封印を守ってきた。土地の者にまじって、土産物屋になったり、旅館の番頭に身をやつしたりしてきた。こんな結果になるとは、先祖さまに死んでから顔を合わせることができない」

 


 眩い光のオロラーは広がるいっぽうだ。

 真っ昼間のように明るくなった。

 必死の声で祈祷するかれら全員を飲み込もうと――光りの裾はひろがった。

 荘厳な黎明が那須野が原を照らし出だした。       


「もうだめだ。玉藻の霊力は強くなるばかりだ」 

「焼き殺されるぞ。少し退け」

「ここで退いたら玉藻の調伏に命をかけた安倍泰成にもうしわけない。死んでから、安成殿にあったらなんと申し開きするのだ」   


 犬飼族のひとりが火をふいて光りの輪からころげでた。隼人は光りのなかに、降魔の剣、魔到丸をたかくかかげて走りこむ。そして強い光の中心部に夏子がいた。夏子のこの世ならぬ美貌が――。同じく千年の眠りから覚めた臘長けた玉藻と――。向かいあっていた。   


 夏子におおいしかぶさるように巨大な十二単衣の玉藻の姿があった。千年にわたる恨みに目は黄金色に輝いていた。

 ふしぎと隼人には熱は感じられない。

 暑さがない。冷気さえ覚える。夏子は襲いくる邪悪な波動に耐えている。玉藻を説得している。呪いの怨念をなだめている。しかし、玉藻の炎はますます強くかがやきだしていた。


「たとえ、那須への遷都が決まっても、鳥羽院が移ってくるわけではないのですよ。もう院は亡くなっているのです。あれから、千年という年月が過ぎているのです。いまは平成の世、都もすでに京都から東京に移されて百年以上も経っているのです。たとえ、この地に都が移るとしても……首都機能が移転するということなのです。政治機構をつかさどる官庁がくるだけなのですよ。貴族政治はあの御世でおわりをつげました」

 夏子の声が、その時ふいに聞こえてきた。直接隼人の頭にひびいてくる声だった。それは、もはや声と呼べるものではない。念波。心の声。隼人の心は夏子と一体になっている。

 隼人は邪悪なものを断ち切るという魔到丸を正眼にかまえる。

 光りの中心部に入ろうとする。身も心も夏子と一体となろうとしている。夏子とともに玉藻の実体化した怨霊を折伏しようとする。それを妨害しているのは、怨念だ。千年にわたって閉じ込められていた玉藻の怨念が隼人を拒む。


 唯継の鍛えた魔倒の剣、魔到丸の剣気をも拒んでいる。おそらく地下の溶岩の流れを変えたのは、玉藻の怨念。鹿人とトウキョウの夜の一族の呪詛だ。ブラックバンパイアの呪咀の力だろう。遷都がきまれば、鳥羽院とともにこの地で暮らせる。などと、玉藻の霊魂に囁きかけたのだ。 


 玉藻の怨念も鹿人たちの悪意と同調して増大し……噴火が具現したのだ。

 鹿人はどうしても、日本の夜の一族の頂点に立ちたいのだ。敵対するトウキョウの夜の一族に裏切られているのも知らず。彼らがこの那須を溶岩で焼き尽くそうと計っているのも知らず。

「夏子。むりだ。説得はできない。はやくその炎のなかから出るんだ。焼き殺されるぞ」

「わたしは、わたしはごめん隼人……説得できなかったら……このかたと時空を越えてもいい。この地をこれいじよう溶岩の流れにまかせるわけにはいかない」

 不意に、もう一つの念波が混入する。

「むだだな、ラミア」

「兄さんなの。やはり生きていてくれたのね」

「そらぞらしいこという。那珂川の流れを遡っていまこの那須の大地に着いたところだ」

 トウキョウの夜の一族のなかに鹿人がいた。やはり兄は彼らと共謀していた。バカな鹿人。いいように利用されているのに。目をさまして。Qと黒のロングコートの仲間に守られて、鹿人が麓から登ってきた。犬飼一族は、吸血鬼とは知らず闘いを挑み倒されたのだろう。夏子の顔が苦痛に歪んだ。鹿人が彼女の脇に実体化した。

「むだだ。夏子あきらめるんだ」



「殺生石の噴気消滅と報じられていた那須火山帯が突然活発化し那須岳から溶岩が噴出しています」

 テレビの臨時番組に早苗がくいいるように見入っていた。

「あっ、リーダーだ。真吾さんよ」

 確かに真吾が麻の鞭を振るっている。神社の境内らしい。新体操の選手がリボンを振るような。優雅な動きが。一瞬画面をかすめただけだった。矢野の姿が背後にあった。高見の姿が背後にあった。あいつらと闘っている。ひとりひとりが演武に興じているようにしか映らない。


「ちがう、あいつら鏡に映らないくらいだから、テレビカメラでは捉えることができないのよ。真吾は吸血鬼と闘ってるのよ」

 早苗が待合室でひとり声を張り上げている。

「金次をたのむは……」

 そういって八重子は出発した。間に合うかしら。間に合って!! キンチャンを助けだしてくれたわたしたちのリーダー真吾と共に闘ってほしい。間に合って!! お願い神様。どうか間に合わせてください。八重子と真吾を共に戦わせてください。

「八重子さん? 行くの」

「わたしなんか行ってもなんの戦力にもなれないけどね。真吾の戦いぶりを見たいのよ」

「死ぬ気なのね、キンチャンのかたきを討つ気よ」

「金次は死なないわよ。安心して、ついていてやってね。わたしは真吾から離れて生きてきて、やっぱり真吾なしでは生きていけないって、おそまきながらいま、気づいたのよ」

 早苗の耳に八重子の声がまだエコーとしてひびいている。キンチヤンを助けるために。

 八重子はQと刺しちがえる気なのだ。キンチャンを噛んだあいつ。Qを倒せばキンチャンは助かる。八重子さんは、弟を助けるためにQを殺す。


「那須火山帯は安定期にはっつたのではなく、地下のマグマの流れが変わっただけのようです。殺生石一帯の煙りが途絶えたことで安定期から停滞期にはいると測定した宇都宮工大の判断は、どうやら誤りのようです。したがって県の災害対策は……」


 テレビは真っ赤にもえる溶岩が上げる巨大な炎を映し出していた。        

 隼人が金色に輝く炎によびかけている。

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