【第4話】残されし者×接近

  *  *  *  *  *


 聞き覚えのあるエンジン音が未開の惑星に響き渡った。遠くの方で空中停止飛行ホヴァリングしているのはまさしくアカオたち調査チームが乗ってきた宇宙船だった。アカオが呆然と、まだ動くはずのない自分たちの宇宙船を眺めていると、後部ロケット噴射口から目もくらむような火焔が噴き出した。まぶしさのあまり一瞬目をそらしたアカオが再び見直すと、すでに船影は見えず、遠ざかる轟音だけが残されていた。


「乗っていたから気づかなかったけど、空中停止飛行ホヴァリングからの水平発射はなかなかおもしろいな」


 アカオは運転していたメタリュックを停めて、しばらく食い入るように分厚い雲に覆われた空を見上げていた。


「――で、これはどういうことなんだ」


 ふと我に返ったアカオは、宇宙船のあった場所まで戻った。そこに残されていたのは、宇宙船の着陸によってなぎ倒された植物のあとだけだった。わかったことは――。


「取り残された、ってことか……?」


 まったく予期せぬことだった。任務内容に変更があったとも考えづらい。事故の可能性、なんらかの操作ミス。でなければ、あとは事件でしかない――等々、アカオは考えられる可能性をひたすら考えた。


「確かこのあとの計画は――」


 が、原因についてわかる気がしなかったし、わかってもしょうがないとアカオは判断した。すると今度は、わずか一年足らずの訓練期間のことを思い返し始めた。


「調査チームが地球に無事帰還でき次第、開拓チームの出航の予定だった……はず。ちゃんと聞いとけばよかったな」


 アカオはぶつぶつとそう言うと、頭の中で計算を始めた。


「早くて一週間。最悪一ヵ月、といったところだ」


 そう言ってメタリュックの操作パネルをいじると、球体になっているロボット前頭部がぱっかりと口を開けた。


「うん。なんとか持ちそうだな」


 球体内部にはぎっしりとお菓子が詰まっていた。スナック、ビスケット、チョコレート、キャンデー、チューインガム等々。飲み物はほとんどが炭酸飲料だった。


「問題は、その間何をするか、だけど」


 ロボット前頭部のふたを閉めると、操縦席に座りなおし、腕を組んで考えた。


「よく考えたら、またこのあたりに開拓チームが来るとは限らないよな。大きさは地球と同等なわけだし。広域レーダーをつけておいて良かった――」


 アカオはそう言って三次元レーダーの表示器ディスプレイに目をやると、こちらに接近してくる二つの反応があった。


「なんだこれ……。空じゃない。地上でこの反応って――」


 その二つの反応が近づくにつれ、遠くから地響きが聞こえてきた。


「いやいや、ちょっとこれは……ないでしょ」


 アカオは表示器ディスプレイの反応のある方角に顔を向けた。それは遠くの方で土煙をあげながら、こちらに迫ってきている。メタリュック同様に二足で走る、二つの巨大な影だった。

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