【第2話】惑星アンノウン×到着
* * * * *
大気圏突入した宇宙船は、勢いよく厚い雲の層から飛び出したあたりで地表と平行になるようにしばらく高速飛行を続けた。高い山々を避けつつ視野の開けた平原が見えてきたあたりで、船体は減速をしつつ、徐々にその大地へと近づいていった。限界までスピードを落とした宇宙船の船体底部から勢いよく空気が噴射されると、まるで見えない糸で宙吊りにされたように
「みんな、到着成功だ。楽にしていいぞ」
メイン操縦席に座っていた、口ひげをたくわえた男性は後部座席に向けてそう言った。
「お疲れ様、我らがリーダー」
ヘルメットを脱ぎながらそう言ってくすっと笑っていたのは、船内にいる四人のうち唯一の女性クルーだった。
「おいおい、リサ。こういう時だけリーダー呼ばわりか」
「まぁそう言うなよ、ウォルト。リサは、人類初の惑星アンノウン到着成功の一番の功労者へのねぎらいのつもりで言ったんだぜ。なぁ、リサ?」
口ひげの似合うリーダー、ウォルトに向かってそう言ったのは、ヘルメットを脱いだばかりにも関わらずしっかりと金髪のソフトモヒカンヘアが維持されている男性クルーだった。
「うふふ。よくわかってるじゃない、ロバート」
「だてに長いこと惑星調査チームとして一緒にいるわけじゃないからな」
金髪ソフトモヒカンの男、ロバートはそう言うと髪型を気にしながらもにっと白い歯を見せた。
「まいったな。まぁ、とりあえずは無事に到着できたわけだし、良しとしよう。それでは早速、仕事にかかるとするか。すぐに空気成分調査は終わる。みんな、船外活動の準備をしていてくれ」
ウォルトはそう言うと、操縦席の隣に設置されている外気調査用のメーターに目をやった。
「「ラジャー! リーダー」」
ロバートとリサは声を合わせてそう言うと、それぞれ準備を始めた。
* * *
「いよいよ到着ってか。おい、アカオ! いよいよお前の出番だな。宇宙船の中は退屈だっただろ? お前自慢の『鉄のダチョウ』がやっと活躍する時が来たぜ――ってお前、なんで着替えてんだ?」
ロバートがそう言って声をかけたのは調査クルーの中でも一番ひょろっとした青年だった。
「恐らく地球と同じ環境なんでしょう? この惑星アンノウンは。どうもこのピッチリとした
アカオはそう言いながら、地球にいた時の普段着だった白のドレスシャツに紺のスラックスとベスト姿にすっかりと着替え終えた。
「なるほどねぇ。でもアカオ、変な虫に刺されても、俺は知らねぇぞ。この
「だからロバートさん、『メタリュック』だって――」
ロバートはアカオの言葉途中に、笑いながら親指をぐっと突き上げて部屋を出て行った。
『みんな、聞いてくれ。外気調査の結果が出た。地球とほぼ変わらない空気成分だ。酸素が若干多いが、問題はない。が、念のためヘルメットは着用すること。準備が整い次第、入口に集合してくれ』
ウォルトの機内放送が響き渡ると、アカオは頭をかきながら調査ロボットのある格納部へと向かった。
* * *
「さぁて、いざ出陣といきますかね。出てくるのは美女かモンスターか」
入口に着いたロバートはそう言ってぐいぐいっと指を組んで腕を伸ばした。
「ちょっとロバート、変なこと言わないでよ。事前の無人調査では動的生命体反応無しだったでしょ?」
リサは笑いながらそう言うと、隣のロバートを肘で軽くつついた。
「いや、それなんだが。どうも引っかかるんだよな。外の様子はもうリサもモニターで確認しただろ?」
「ええ、もちろん! 感動したわよ。こんなに植物に覆われた大地は地球では見たことないもの」
「なるほどねぇ。そういう感想になるよな、そりゃ。俺らは生まれてこのかた、触れたことのある植物といったら特殊人工芝ぐらいなもんだからな。だからこそだ。だからこそこう思うんだ。本当に動物はいないのかってな」
ロバートはいつもの軽い口調ではない、重々しい調子でそう言った。リサはロバートの真剣な目つきを見ると、今まで高揚していた気分が不安に変わっていくような気がした。
「……なーんてな。我らが『惑星開発局ノア』の事前調査で見つからなかったんだ。いたとしても、水生生物だけだろうよ。万が一凶暴なやつがいても、こっちには『鉄のダチョウ』がいるしな」
ロバートはそう言うといつもの軽い調子に戻っており、リサに向けてウインクした。
「そうね。――って、アカオ君の『メタリュック』は調査用でしょ? ロバートがいうモンスターが出てきたら、なんともできないわよ」
リサはそう言うとくすくすと笑った。
「すまない、待たせたな。アカオ君は格納部から直接出るんだったな。ロバート、開閉を手伝ってやらなくても大丈夫なのか?」
すでに入口で待機していた二人に合流したウォルトがそう言うと、ロバートは窓の外を指差した。船外ではすでに調査用二足歩行ロボット、メタリュックに乗って歩き始めているアカオの姿が見えた。
「さっきの放送があった時にもう出してやったのさ。あいつ、宇宙船の中では静かだったが、調査は一番張り切ってるぜ。俺たちとは違って、未知なる惑星に初めて足を踏み入れた感動を味わうより、新しいことを知ることの方がよっぽど関心があるんだろうからな」
「おいおい、一応ヘルメット着用と言ったのに、服まで着替えてるじゃないか。まったく、困るな。――いや、むしろ――」
ウォルトは一瞬険しい顔をしてそこまで言いかけると、なにかを思い出したように今度はうっすらと笑みを浮かべた。
「どうしたの、ウォルト? 規則に厳しいあなたが珍しいじゃない」
リサは、いつもなら命令違反をするアカオに対して冷ややかな態度をとるあのウォルトが、今はにんまりしているのに違和感を感じた。
「いや、なんでもない。彼は元々宇宙飛行士ではないんだ。科学者としての彼の行動に敬意を払わなければ、と思ってな。よし、では我々もアカオ君に続いて行くぞ!」
ウォルトはそう言い、入口の厚い自動ドアを開いた。
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