【第17話】対立×突出
「な、なんだよ。二人して宇宙人でも見たような顔して」
エルダもリオも、黙ったままだった。
「はーいっ。アカオ」
重苦しい空気を払いのけるように元気よく手をあげながらララミーは言った。
「お姉ちゃんもリオちゃんも、たぶん――」
「――ちょっと! ララミー、それ以上は――」
「あたしたちからすれば、アカオも宇宙人なんだよっ! ……って、言いたいんだと思いますっ」
エルダはララミーを制止しようと前のめりになっていたが、そのままコツンと彼女の頭を殴った。
「痛いっ! 痛いよお姉ちゃんっ!」
「あーもう、まったく。アカオと出会ってから面倒くささが倍増したわね」
エルダはそう言うと、がくっと肩を落とした。
「エルダ姉様、ララミー姉様の言ったこともあながち間違いではありません。宇宙人という言葉の定義を、宇宙空間を隔てた違う星の住人とするならば、私たち
「いや、リオ。その話題はもう掘り下げなくていいから……。今は、コイツが作ったエネルギー炉が問題よ」
エルダはアカオの方に向き直した。
「アナタの言う通り、それは物質がエーテル化しているわ。正確にはエーテル還元だけど……、とんでもないことをしてくれたわね」
「とんでもないこと?」
アカオはメタリュックを操縦したまま繰り返した。
「そう。人類が入ってはならない領域なのよ……、エーテル還元はね」
エルダの顔はこわばっていた。それは、出会ってから初めて見せる表情だった。
「どういう意味なんだ、それは?」
アカオがそう言うと、エルダは顔をそらした。
「何にせよ、すでに存在するものをどうこう言っても仕方ないですね、エルダ姉様。問題はここからです。アカオ様、地球人はそのエネルギーを利用してこれからどうするおつもりですか?」
「地球人は……と言われても、僕は地球の代表じゃないからな。そんなこと分かりはしない。けど、近いうちに後続の開発チームがこの星に来る計画にはなっている」
「やはりそうなりますか。……だ、そうです。エルダ姉様」
リオがそう言ってエルダの方を向くと、ますます顔をくもらせていた。
「地球人がこの星に来ると、何か都合の悪いことでもあるのか? 確かララミーに聞いた、あんたたち
「おおいに関係あるわよ。言ったでしょ? アタシたち
エルダはアカオに向かってそう言いながら、ひきつった笑顔を見せた。
「いや……そうだった」
自分はこのエルダに銃口を向けられ、消されるところだったということを、アカオはすっかり忘れていた。
「でもどうするんだ? いまさら止められないぞ。通信手段もないし……」
「そうなると今度こそ、この星に来るすべての地球人を処理しなければいけないのです。この星に来ることのリスクを知らせ、自力での移住を阻止できれば問題ありませんから」
「要するに、地球人と敵対するってことか」
アカオが冷ややかな口調でそう言うと、皆黙り込んだ。
「はーいっ。アカオ、あたしたちは敵対はしないよ! というか、できないから安心していいよ」
随分長く感じた沈黙を平然と破ってきたのはララミーだった。
「敵対できない? それはどういう意味なんだ?」
「お姉ちゃんもリオちゃんも怖い顔でおどしてるけどね。あたしたち
「ララミー!」
エルダの怒声がララミーの言葉を遮った。
「そのへんにしておきなさい。それ以上、コイツに情報を与えることはないわ」
「はーいっ。――あっ! もうそろそろ外に着きそうだよ」
ララミーはブルーのウサ耳リボンをぴょんっと揺らしながら、
「ちょっとスピードが出過ぎているようです」
リオがぼそっとつぶやいたと同時に、四人が乗ったメタリュックは勢いよく、そして不用意にトンネルを飛び出した。暗いトンネル内にしばらくいたアカオたちの目は、その暗さに慣れ過ぎていた。雲に覆われ、薄暗く感じていた地上の明るさでも、一瞬目がくらんだ。――と、目の前にとてつもなく大きな影が立ちふさがっていたことに気づくのが、遅すぎた。
「――ブラキオサウルス、だったけな」
体長30メートルはあろうかという体躯。巨木のような太く長い首と尾を持ち、丸太のようなどっしりとした四本の足でそれは大地に
「ぶつか――」
アカオの脳内とは裏腹に、メタリュックはスピードを落とすことなく巨大な壁のような恐竜に突進していこうかとしていたその瞬間! 何かに引っ張られるようにがくんと急停止するメタリュック。その反動でアカオたちは放り出されそうになる! 掴めるものを掴んで、四人ともかろうじて飛び出さずに済み、恐竜への衝突を避けられたと一安心したのも束の間、突然目の前で大爆発が起きた。
轟音と共に砂煙の巻き上がる大地。アカオに覆いかぶさるララミー。
「何? 何が起きたワケ?」
エルダは爆風の発生源を目を細めて見ながら言った。
「まったく。何を遊んでいるのだ?」
もうもうと立ちこめる砂煙の向こうから、女性の声が聞こえた。エルダとリオはしっかりとメタリュックにつかまっているし、ララミーはアカオに乗っかるように密着している。
「その声は、まさか……」
エルダがそう言って顔を向けた先。砂煙が落ち着いて視界がクリアになっていくと、その先に三人の人影が見てとれた。
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